【二次創作】シン・ウルトラマン対シン・仮面ライダー④

ドクン…ドクン…

病院の屋上。
星空の下、
胸に手を当て、
鼓動する心拍音に神永は耳を澄ましていた。

神永「……生きている」

ウルトラマン…リピアの命と引き換えに、自分は生き残った。

リピアとゾーフィの最後の会話を思い出す。

『生き延びたいと願う君の信号がなければ、君を見つけることはできなかった』

『死を受け入れる心は、生への願望があるからだ。ありがとう、ゾーフィ』

『死への覚悟と生への渇望が同時に存在する人の心か……』

神永「死への覚悟……」
「( リピアは僕と肉体を共有する中で、無意識下で生き延びようとする僕の感情を理解していたはずだ)」
「(そしてそれに共感し、地球を救い、僕を生かすことを選んだ)」

神永「だが……僕に何ができる?」
「ウルトラマンはもういない。だがこの地球は依然外星人に狙われている。禍威獣は今後も出現する可能性が高い」

神永「ネロンガの時点で人類は手詰まりだった。人類の能力で戦うのは限界がある。そのうえもっと厄介な存在が地球を狙っている……」

神永「ウルトラマン。僕にどうすれば良いと?」

そのとき、屋上の出入り口が開き、1人の快活な女性が姿を現した。
浅見弘子だ。

神永「浅見さん」

浅見「まだその呼び方慣れないわねー。『彼』には浅見くんって呼ばれてたから」

神永「すまない」

浅見「神永くんが謝ることひとつもないから。気を遣わせないで」「……何に落ち込んでるの?」

神永「いや……」「……」
「今後……どうすればいいのか、わからないんだ」
「浅見さん。ウルトラマンなしにこの地球を守っていくことができると思うか?」

浅見「……さあ?わからない」
「でも、ウルトラマンは私たちを信じて託した。それがすべて。やるしかないってこと」
浅見「ケツ叩かれたからには気合い入れないとね」

神永「……(その癖はどうかと思うが……)」

神永「でも猶予はないのかもしれない。ウルトラマンはザラブを倒し、メフィラスを退陣させ、ゾーフィを光の国に帰した」
「だが別のザラブが現れたら?メフィラスがまた地球に戻ってきたら?ゾーフィは今後も静観してくれると、信じたいが」
「今この瞬間にもその危険性は高まっている」
「やはり力は必要なのではないか」

浅見「……」「たしかに。ゼットンを退けたのも結局最後はウルトラマン頼みだったし。人類が純粋に戦って勝ったわけじゃない」
「人類はまだ未熟。それは変わらない。でもだからこそいろんな可能性を探っていかないと」「なんとかこの宇宙で生き残れる道を、地道に探していくしかない」

神永「……」

浅見「クヨクヨしない!あなたもその仲間だから」
「禍特対はウルトラマンのような友好的外星人との交渉が打開策だと睨んでる。宇宙人との交渉法を確立しなきゃ」
「あなたは外星人と身も心も共有したただ1人の存在」
「神永くんが星間交渉時代のキーマンになることは間違い無いの。クヨクヨしてる暇があったらウルトラマンと共有した思考をレポートにでもまとめて!」

浅見「……私たちは、まだ彼のことを何も知らないんだから」

去っていく浅見の後ろ姿に、神永は共感を覚えた。
生き抜くための強さ。
それと裏腹の不安。
寂しさ。悲しさ。

神永「(……そうか。僕は……)(ウルトラマンがいなくなって、悲しいのか)」

神永はいま一度空を見上げ、胸に手を当てた。

※ ※ ※

本郷「どこだ……」

ブオォォーーーッ

夜の街をバイクにまたがり疾駆する。
本郷は、メフィラスを追い、走り続けていた。

本郷「メフィラスはおそらくマスクに録音されていた情報をすべて盗んだ。その中にはこれまでの戦いの記録や、オーグメントやプラーナのデータも含まれている」
「マスクの通信回線はもう切ってある。だが……」
「メフィラスが欲する情報は奴に渡ってしまった」

メフィラスがもっとも欲する情報。
それは……プラーナ自体の情報……

“ではない”。

本郷「それは……緑川博士の存在だ」

緑川弘。
本郷猛にとって、城北大学生科学研究所時代の恩師で、生化学の権威。

そして、
『2023年4月ごろ』、
本郷猛をバッタオーグに改造した男。

2023年。

本郷「気づくべきだったんだ……」

本郷「僕はこの世界に来たばかりのころ、ショッカーが暗躍して引き起こした事件が周知されていないことから『ここにショッカーは存在しない』と考えた」

本郷「だが 早計だった!」

本郷「“まだ活動していない”ことを考慮していなかった……!」

本郷「この“ウルトラマンの世界”が……僕がいた世界とはタイムラインがズレていることに気づくべきだった!」

つまり

2023年

ではない。

「ここは『西暦2022年』……!つまりショッカーが活動を本格化する一年前……緑川博士が誘拐され、僕が改造される前の時代なんだ!」

本郷「しくじった……!!」

本郷は、この世界に存在する緑川弘の並行同位体の元へ向かっていた。

本郷「(もし……もしこの世界にもショッカーが存在したら?彼らオーグメントが世界征服を企んでいるとしたら……)」

ショッカーの目的は世界征服だけではない。
本郷がショッカーを滅ぼしたとき、組織を掌握していたのはチョウオーグ/緑川イチローだった。

本郷「(イチローさんの目的は人類をハビタット世界に送ること。だが他のオーグメントは違う)」

ハチオーグの目的は人心掌握し社会を操作すること。
クモオーグの目的は組織に仕える傍らの、快楽殺人。。

オーグメントにはそれぞれ目的がある。
ショッカーはそのサポートをする組織にすぎない。

心に傷を負った者たちの拠り所をサポートするだけ

ショッカーは彼らに『オーグメント技術を提供するだけ』の組織なのだ。

本郷「(メフィラスにとってこれほど都合のいい組織はない!)」「(絶対に博士とメフィラスを接触させてはだめだ!)」

キキーッ

本郷「ここか!」

緑川家に到着した本郷は、門戸を叩いた。

こちらの世界で本郷と緑川博士は面識があるのか?
わからないが、確認している余裕はない。

本郷「すいません!緑川弘さん!緑川弘博士はご在宅ですか!」

ガチャ……

「……どちら様でしょうか?」

インターホンから返事が聞こえる。若い女性の声だ。

本郷は息を呑んだ。

本郷「……」「本郷猛です」「緑川弘さんにお話があって……」

ガチャ

「……どうぞ」

本郷は思わず唇を噛んだ。
そこには……

緑川ルリ子が立っていた。

※ ※ ※

ルリ子「父はいま出かけていて……」「お話というのは?」

本郷「あ、いえ」「すみません、わざわざ上げてもらって」

ルリ子「いえ。外で待ってもらうのもアレなので」
「もうすぐ父と兄が帰ってきますので。それまでこちらでお待ちを」

本郷「……ありがとうございます」

平静を装う本郷。だが内心では複雑な感情が溢れている。

この世界のルリ子さんだ。
ルリ子さんの並行同位体。
それも、おそらく生身の人間。

この世界の緑川ルリ子は、平凡な大学生として過ごしているようだった。

本郷「(……よかった)」

二つの意味で安堵する。
ひとつは、異なる世界でルリ子が平和に暮らしていること。
もうひとつは、おそらく緑川博士にショッカーとの関わりはないであろうこと。
もしそうならルリ子が自分の存在にもっと警戒するはずだ。
ルリ子は何も知らないのだ。
そして彼女を一般人に留めている緑川博士もまた、ショッカーと何の関わりもないのだろう。

本郷「(彼らとメフィラスが接触しても意味はない。杞憂に終わったか)」

ルリ子「あなた、禍特対の方なんですよね?父にどういう用事なんですか?」

本郷「あ、ええ、まあ」
「緑川博士は……生化学研究の第一人者であられるので。禍威獣にまつわるお話をお聞きしたくて……」

適当に誤魔化す本郷。

禍特対班長・田村のはからいで本郷は『禍特対 特別派遣調査員』を名乗ることを許可されていた。
この世界では人権など何も持たない本郷を自由に行動させるためだ。

ルリ子「父の研究が役立つってことですか?ふーん……そんな大したことしてるようにも見えないですけどね。ふふ」

本郷「いえいえ、そんな……」

本郷「(……この調子だと緑川博士を待つ意味もないな……)」「(博士に会いたい気持ちもやまやまだが。帰ったほうがいい)」

だが、本郷の内には、合理的判断と相反する思いがあった。
もう少しだけここにいたい。

本来ならば立ち去るべきだが……

普通の少女の顔で微笑むルリ子に、本郷は久しく幸福を感じていた。

元の世界のルリ子とは違う。屈託のない笑顔。悲劇に見舞われなかった世界のルリ子。
最後に映像の中でだけ見せてくれた、まっさらな微笑み。

彼女のことを大切に思う気持ちが本郷に不合理な行動をとらせている。

本郷「……」
「(彼女のそばにいたい)」

だがそれはエゴだ。
あちらの世界でルリ子を守れなかった自分からの逃避だ。

本郷「(ルリ子さんは死んだ。こちらの世界で彼女は戦いとは無縁な生活を送っている。巻き込むべきじゃない)」

本郷「……これ以上待たせていただくのも申し訳ないので、この辺りで失礼します。お父様が帰ってきたらぜひこれを」
禍特対の名刺をルリ子に渡す本郷。

ルリ子「では父が帰ったらこちらに連絡するよう告げておきますね。本郷さん」

本郷「……」「……はい。夜分遅くにすみませんでした」

家の外に出る本郷。
本郷「……この世界にショッカーはいない。おそらくだが……」「そして緑川博士もそれと無縁だ。たぶん」
「よかった」

ルリ子さん、お幸せに。

本郷は緑川家を一瞥すると、バイクにまたがった。

そのとき。

「いいのかな?彼女に想いを伝えなくて」

本郷「……お前は……」

メフィラス「性別を持つ生物種にとって異性に愛を伝える行為はもっとも高い幸福をもたらす行為だという」「幸福を忌避する。やはり人間は面白い」

本郷「僕のヘルメットからデータを盗んで緑川博士への接触を試みただろう。だが博士はこの世界においてオーグメントの研究はしていない。君が欲するプラーナの研究もしていない。残念だったな」

メフィラス「一念通天。私の好きな言葉です」
「たしかに緑川弘は君のデータから得られたようなプラーナの研究はしていなかった。プラーナと比較すれば平凡な生化学の研究者だった」
メフィラス「しかし私の目的はそれではない」

本郷「……」「……目的とは何だ」

メフィラス「私の目的はプラーナを抽出するメカニズムの解明だ。しかしそのためには地球人類の文明が必要となる」
「実に興味深いことに、我々外星人の科学技術をもってしてもプラーナの抽出は困難だった。プラーナが我々外星人の生体エネルギーとは異なる生命工学で発生していることを加味しても数万年近い技術力の隔たりがある我々をも寄せ付けないとは興味深い」
「緑川弘は天才といっていいだろう」

メフィラス「だから必要なのは緑川弘の頭脳だった。彼の頭脳に君から盗んだデータを入れればプラーナの抽出技術は理論上完成する」

本郷「(メフィラスの技術で…!?いやザラブか!ザラブは人の潜在意識をも操れる…ザラブがメフィラスの手先にいるとすれば可能だ)」

メフィラス「必要なものは二つだ。緑川弘の頭脳。そしてこの世界でプラーナを抽出できる唯一の存在……君の身柄だ」

本郷「……!!!貴様!!」
「博士を誘拐したのか!どこへだ……!」

メフィラス「とはいえ私の手を汚すわけにもいくまい。いまここで巨大化して君を捕らえれば、今度は人類を敵に回すことになる」
「しかし人間サイズでは君を捕らえられるか不安だ。元の君ならばともかくこちらにきてからの君は明らかにプラーナの供給過多で強化されている。膂力は同サイズのウルトラマンを上回るだろう」
「そこで。彼らに頼ることにした」

「“ケムール”」

本郷「!」

本郷猛の目の前に、黒い人型の外星人が姿を現した。

ケムール「フォフォフォフォフォフォフォ……」

ケムールが、頭部の触手から黒い液体を放つ。
とっさに避ける本郷。

本郷「……博士を返してもらうぞ」

サイクロンに飛び乗り、走り出す本郷。

それを追いかけるケムール。

本郷「何という走力だ……バイクに追いついてくるとは」
本郷「だが……」「変身!!」

サイクロンが変形しモーターのギアが唸りを上げる。
ヘルメットがマスクへと変形。
プラーナ強制排出機構付初期型タイフーンのダイナモ部分が回転し、赤く光る。
サイクロンの夜間点灯ライトをも上回るほどの強い輝きが夜の国道に軌道を描く。

本郷「やはり……この世界ではより力が漲ってくる!」

ケムール「フォフォフォフォ……」

ケムールを夜の陸橋に誘い出す。
ここなら人に迷惑もかからない。

サイクロンから飛び降りる仮面ライダー。

本郷「博士をどこへやったのか教えてもらう」

ケムール「フォフォフォフォ」
ケムールが液体を撒き散らす。

ジャンプしてそれをかわすと、ケムールの背後に周り、蹴りを入れる。
ケムールが藁人形のように軽々と吹き飛ぶ。

ケムール「……」
よろめくケムール。

本郷「殺すつもりはない。だが緑川博士は返してもらうぞ」「禍特対は外星人との交渉に積極的だ。君たちと敵対することを望んでいない。なにか要求があるなら直接言え」

ケムール「……」「オマエタチハ ワカッテイナイ」

本郷「……」

ケムール「ニンゲンノ 価値ヲ」

本郷「……なんだと……」

ドバッ

そのとき、ケムールが爆散する。

ビシャシャシャシャッ

ダムが決壊したかのような、およそ体積と見合わない量の黒い液体が撒き散らされる。

本郷「なに……!自爆!?」

十分な距離をとっていた本郷だが、ジャンプする前に黒い液体が体に数滴付着する。

本郷「しまった……」
体が液体の中に溶け出していく。
いや、まるで透明になっていくような……

本郷「禍特対に……連絡を……」「……だめだ……」

本郷とサイクロンは、影の中に沈むようにしてその場から消えた。

メフィラス「よくやってくれた。ではひとまず地球からおさらばするとしよう」

メフィラスもまた独り呟き、その場から姿を消す。

後には静寂だけが残された。

※ ※ ※

本郷猛が消えてから2日が経過した。

船縁「平行世界に帰ってしまった……とかじゃないですよね……」

田村「本郷はここを出る前にメフィラスとの接触の危険があると言っていた。メフィラスに倒されたか、誘拐された可能性も高い」

滝「メフィラスと!?」「バカな。もし誘拐されたとしたらどうしようもできない。人類側に彼らを追う技術なんかありません!」

そのとき。

浅見「あります!」

快活な声が室内にこだまする。

浅見「やりようはあります!」
浅見「彼女がなにか知ってるかも……」

田村「……」「……その女性は?」

「はじめまして、緑川ルリ子です」

ルリ子「先日から父と兄が帰らなくて……この名刺に連絡してみたのですが」

浅見「ほら、田村さん。本郷さんの言ってた『ルリ子さん』ですよ!彼女ならなにか知ってるかも」

ルリ子「え……??本郷さんって、私のこと知ってたんですか???」

滝「あ、いえ、その」

田村「浅見くん、彼女は本郷くんのことを何も知らないんだから」

浅見「あ、すいません」

田村「『こっち』の彼女は一般人だ。本郷くんとはおそらく無縁。捜索の手がかりにはならないだろう」「ただの城北大学機械工学科の大学院生だ」

滝「城北の院?めちゃくちゃ優秀じゃないですか!僕の友達にもいますよ!」

船縁「私も!」

田村「そんな話をしてる場合じゃない」「とにかく本郷くんを見つけるために何とかしなければ……」「なにか痕跡はないか?目撃者を探すとか」

船縁「監視カメラの映像はメフィラスに書き換えられている可能性があるかと」

滝「うーん……メフィラスは生体エネルギーにネゲントロピーを利用しているって言ってたからそれが手がかりになりそうな気も……」

浅見「現人類の熱力学を根本から書き換えないと糸口すら掴めないんじゃ」

喧喧諤諤。
いくつものアイデアを並べ、可能性を模索する禍特対。それを呆然として横から眺めるルリ子。

ルリ子「……」「(なんだかお兄ちゃんとお父さんみたいだ)」
やつれた顔にふっと笑みがこぼれる

そのとき、会議室に何者かが入ってくる。

神永「いえ」「手がかりは彼女です」

田村・船縁・滝「「「!!!」」」」

浅見「……神永くん」

神永「復帰の機を伺ってました」
「あなたが緑川ルリ子さんですか?」

ルリ子「え、ええ、はじめまして」「あなたは?」

神永「はじめまして。禍特対 専従班 作戦立案担当官の神永新二です」
「ルリ子さん。あなたのお父さんと本郷猛の捜索にはあなたが手掛かりとなる」

ルリ子「どういうことですか?私は何も…」

神永「これからすることに他意はない。純然たる捜査行為です。……なのでご勘弁を」

ルリ子「は?」

滝「ん?」

船縁「え?」

田村「あ」

浅見「ちょ」「まさか」

神永「……失礼」スンスン

ルリ子の服の匂いを嗅ぎ始める神永。

ルリ子「……」「……ちょ……」「……こ、これなんの捜査なんですか……」「きのう寝てなくて……」

神永「……」「……失礼しました。本当に」「でも彼らの居場所がこれでわかります」

ルリ子「……はぁ??」

滝「……えーと」「緑川さんに付着していた緑川博士と本郷さんの匂いを、採取した?」

船縁「メフィラスの行方を探す唯一の方法……数値化されない痕跡……」「匂い」

田村「前に浅見くんにやったことだが……」

浅見「ちょ、ちょっと待って!」
「なんで神永くんがそんなことを?人類科学に使える探索方法では……」

浅見「まさか」

神永「そうだ」
「彼が『これ』を残してくれた」

胸元から、見覚えのある筒状の物体を取り出す。
銀色の、先端に赤い結晶のついた、とある物体。

浅見たち禍特対の目が見開く。

ルリ子「……それは……」
「あなたは……」

神永「ああ」

「僕は ウルトラマンだ」

つづく

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