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偏差値の正しい使い方

日本の学校や受験で日常的に使われている「偏差値」。あなたは、偏差値の正しい使い方を知っていますか?
私は学びクリエイターとして毎日のように偏差値と向き合っていますが、間違った偏差値の使い方をしている人をあまりにも多く見かけます。そこでこの記事では、偏差値がそもそも何なのか、どうやって使うのが正しいのかを基本から解説します。

偏差値って何?

偏差値とは、同じ試験を受けた集団の中で、自分の点数がどれくらい偏った位置にいるかを表した数値のことです。

ある試験で平均点を取った人の偏差値は50になります。点数が高くなるほど偏差値も高くなり、点数が低くなるほど偏差値も低くなります。つまり、平均点より高い点数を取った人の偏差値は50より高くなり、平均点より低い点数を取った人の偏差値は50より低くなります。

ただし、点数と平均点が同じでも偏差値が同じとは限りません

たとえば、Aさんの高校で1学期実力テストが行われ、Aさんを含めた100人の生徒が英語の試験(100点満点)を受けたとします。Aさんはこの試験で84点を取りました。一方、平均点は60点でした。
「平均点よりだいぶ高い!これはよくできたな」
配られた成績表を見ると、Aさんの英語の偏差値は65と記されていました。

時は流れ、2学期実力テストでも英語の試験(100点満点)が行われました。Aさんは1学期と同じ84点を取り、平均点も1学期と同じ60点でした。
「ふむ、1学期と同じ出来か」
ところが配られた成績表には、英語の偏差値は60と記されていたのです。
「えっ、なんで偏差値が下がったの!?」

これは、試験を受けた人の点数の散らばり具合が変わったからです。
Aさんは先生に、試験を受けた人の点数分布を見せてもらいました。

すると、1学期実力テストでは平均点近くの点数を取った人が大勢いたのに対し、2学期実力テストでは平均点からだいぶ低い点数を取った人と、だいぶ高い点数を取った人が増えていました。言い換えると、2学期実力テストの方が点数の差が付きやすいテストでした。
1学期実力テストでAさん以上の点数を取ったのは8人しかいませんでした。ところが、2学期実力テストでAさん以上の点数を取ったのは16人もいました。こうなると、Aさんは1学期と2学期で同じ84点を取ったとしても、同じ出来だったとは言いづらいですよね。むしろ、他の生徒に追い抜かされたと言えるでしょう。

このように、自分の点数と平均点だけでなく点数の散らばり具合も考慮して、自分の試験の出来がどれくらいだったのかを測れるのが偏差値のメリットです。

点数の散らばり具合が大きいほど、同じ点数を取っても高い偏差値が出にくいです。ここで言う点数の散らばり具合を数学の用語で「分散」と言います。分散をもとにした偏差値の計算式はこの記事では省略します。

偏差値が一番よく使われている場面は、受験の模擬試験(模試)です。模試では点数の分布はもちろん、平均点も毎回変わりますが、試験を受けた集団が同じだとみなせる限りは、偏差値を比較することで試験の出来がよくなったかどうかを測ることができます。

偏差値と順位のざっくりした関係

先に説明したように、試験によって点数の分布が違うので一概には言えませんが、偏差値を見ればその試験での順位がだいたい分かります。具体的には以下のような関係があります。

偏差値は50から離れれば離れるほど、そこに当てはまる人数が少なくなる傾向があります。約半分が偏差値43~57の間に収まり、偏差値60以上を取るのは6分の1弱しかいません。SNSなどでは偏差値70以上を取った人がとても多くいるように見えますが、偏差値が高い人ほど自慢したくなるというだけです。

ここからは、実際に偏差値を使う時に気を付けたいポイントをいくつか紹介します。

試験名がない偏差値は意味がない

偏差値は、特定の試験を受験した人の点数データがなければ計算できません。したがって、偏差値にはその計算の基になった試験の点数データがあるはずです。どの試験の点数データを基に算出したか明記していない偏差値には意味がありません。

2024年現在、インターネットで「高校の偏差値」という場合は、Googleで検索したときに上位にヒットするWebサイトに偏差値として掲載されている数値を指すことが一般的です。ところが、その数値にどの試験の点数データを基に算出したか明記されていることはほとんどありません。こうした数値を偏差値として使用してはいけません。教育関係者であっても平気な顔で使っているのをよく見かけますが…。

そもそも、日本全国の高校受験生を対象にした模試は存在しません。公立高校入試が都道府県別に実施されており、他の都道府県の受験生と成績を比較するニーズがほとんどないからです(首都圏の私立高校志望者を対象にした模試などはあります)。「高校の偏差値」を知りたい場合は、都道府県ごとに行われている、最も受験者数が多い模試の偏差値を参照するのがよいでしょう。北海道なら北海道学力コンクール、埼玉県なら北辰テストなどです。なお、模試の実施団体にとって自らの模試を基に算出する偏差値データは商品なので、インターネットで無料で手に入ることは多くありません。

同じ試験の同じ集団どうしでしか比較できない

2024年現在、Googleで「○○大学 偏差値」と検索すると一番上に出てきやすいサイトがパスナビです。パスナビに掲載されている偏差値は、河合塾が毎年実施している全統模試の偏差値を流用しています。

大学受験模試は他にも進研模試駿台模試などが有名ですが、同じ大学でも模試が違えば偏差値が変わります。それぞれの模試で受験している集団が違うからです。たとえば、早稲田大学法学部の偏差値は、パスナビ(全統模試)では67.5ですが、進研模試では78です(2024年5月3日現在)。模試の偏差値を見る時は、必ず自分が受験した模試の偏差値を見るようにしましょう。

一般に、学力が高い受験者が多い試験ほど偏差値は低く出やすいです。たとえば、進研模試では偏差値70を超えていても、東大入試実戦模試では偏差値40を下回ることはふつうによくあります。進研模試は幅広い学力の高校生が受験するのに対し、東大入試実戦模試は東京大学志望の受験生しか受験しないからです。

さらに言うと、たとえ同じ模試でも試験科目が違う人どうしの偏差値は比較できません。偏差値を計算する基の集団のデータが違うからです。大学の偏差値で言えば、文系学部と理系学部の間では比較できませんし、試験科目数が違う国公立大学と私立大学の間でも比較できません。

高校受験模試や中学受験模試も、模試によって受験者の層が異なるので、偏差値の出方に違いが出ます。基本的には、自分と同じ学校を志望する人、あるいは自分と似た学力を持つ人が多く受験する模試を受験した方が、結果として出てくる偏差値の信憑性が高まります

学力と偏差値は違う

当たり前の話かもしれませんが、結構見落としがちなことです。偏差値はあくまで集団の中での立ち位置を表すものです。このため、その集団にいる誰かを追い抜かない限り偏差値は上がりません(もちろん誰かに追い抜かされたら偏差値は下がります)。
「次の模試で偏差値を上げよう!」とがんばり、以前は解けなかった問題が解けるようになった。でも、前の模試で自分より偏差値が高かった周りの受験生も同様にがんばって解ける問題を増やしているわけで、その差が埋まらない限り、偏差値はそのままです。

言い換えると、たとえ偏差値は上がらなくても解ける問題は増えているので、その意味では学力は上がっているのです。偏差値が上がっていない=サボっているとは言えません。むしろ偏差値をキープしているなら、周りと同じくらいには成果が出ていると言えます。まずはその事実を認めましょう。その上で偏差値を上げたいなら、周りがやっていないときにもやるか、やり方を改善するかになるでしょう。これは私の経験論ですが、学力は学習量に比例して上がるのではなく、階段状に上がる、つまり上がらない時期と一気に上がる時期を繰り返す傾向があるように思います。

学校の偏差値=その学校の合格者の偏差値ではない

まともな模試のデータを基に算出された「学校の偏差値」は、次のどちらかであることが多いです。

  1. その学校にギリギリ合格するであろう受験者の偏差値

  2. その学校にほぼ確実に合格するであろう受験者の偏差値

1.の偏差値は、合格率50%を意味します。大学受験であれば模試によりますがおおむねC判定に相当します。大学受験や中学受験だと何校も受験するのがふつうなので、この偏差値が受験の目安になることが多いですね。

2.の偏差値は、合格率80%以上であることが多いです。大学受験ならおおむねA判定ですね。受検校が限られる公立高校受検では、この偏差値を超えていないとなかなか受検には踏み切れないと思います。

では、たとえば1.の意味で「偏差値60の学校」があったとして、その学校に合格した人の模試の偏差値はみな60だったのでしょうか?そんなことはないですよね。安全志向だったり何らかのこだわりがあったりして偏差値68の人が受験することもあるでしょうし、模試では偏差値58だったとしても当日の入試とは相性が良くて合格することだってあり得ます。つまり、合格者の偏差値には幅があるのです。

学校の数自体が少ない地域では、合格者の偏差値の幅がさらに広がる傾向があります。たとえば、通学圏内に公立高校が3校(α校・β校・γ校)しかなく、私立高校は1校もない地域を想像してみてください(このような地域は全国に数十か所あります)。仮に公立高校の定員が3校とも同じで、偏差値の高い順にα高・β校・γ校に合格するならば、α校の合格率が50%となる偏差値はおよそ54(上位33%)となります。この地域に住む偏差値70の生徒は、この地域から出ない限りα校を選ぶことになります。よって、α校には偏差値50台前半~70以上という非常に幅の広い生徒が合格するわけです。

2024年時点での実態に即して考えると、このような地域ではα校に相当する高校でも定員割れしていることが多いので、偏差値50を切る生徒が合格できてしまっていると思われます。

α校に相当する高校は、毎年コンスタントにいわゆる難関大学合格者を出していることがよくあります。
「偏差値54の高校から東大に合格するなんてすごい!!」
…なんて言われるわけです。
けれどもこれは、その地域には他に高校がないからα校に入った、もともと高偏差値を取っていた生徒の成果であることがほとんどです。偏差値54だった人がこの高校に入ったら東大に合格できる、というわけではないのです。

「学校の偏差値」はあくまで個々人の合格可能性を占う目安であって、その高校にいる人の学力水準を表すものではないことをおさえておきましょう。

偏差値は正しく使おう

日本の学校や受験で偏差値が使われ始めたのは1950年代、今から60年以上前のことです。それ以前の受験では「中学校内での成績が○位だからこの高校がいいかな~?」くらいの当てずっぽうな進路指導が行われていたと聞きます。そうした状況に比べれば、模試のデータから算出された偏差値を活用して合格可能性を測るのは、限られた受験機会を活かす上で極めて有効な振る舞いだと言えるでしょう。
しかし、ここまで説明したように偏差値で測れることには限界があります。使い方を誤ると、せっかくの受験機会を逃したり、無駄に落ち込んだり、誤った解釈で他人を格付けして不興を買ったりすることにもなりかねません。

偏差値を正しく使い、主体的に受験と向き合いましょう。

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