アポイ岳 2

          (2023,9,5)
 

 二年前、私がアポイ岳の話をすると、山グループのリーダーWさんは、私の壮大な計画を何とかしようと思ってくれたらしい。Wさんは、北海道に20回も通っている山好きなのだ。
とはいうものの、コロナ禍はなかなか収まる気配がなくて、先の見通せない状況であった。

 実を言うと、私は登る自信があるわけではない。まず体力をつけなくてはと、TRXトレーニングのジムに通い始めた。
 TRXとは、上から吊り下げられたサスペンションを使って、身体の体幹を鍛えるもので、ネットで調べてみると、米海軍特殊部隊の司令官だった人が考え出したトレーニング法だとある。それはともかく、たまたまそのジムが岡山にあり、知人が紹介してくれた。
とにかくアポイ岳に登りたい一心。週3回を目標に時間をひねり出し、3カ月頑張った。

 去年(2022)の6月20日、Wさん夫妻と女性4人で出発。ほぼ70代で、もちろん私が最高齢。すべてWさんの計画で、レンタカーも運転してくれる。
 初日、大雪山の黒岳に登った。大雪と聞いて恐れをなしたけれど、大雪山の入り口にある山で、かなり高いところまでケーブルカーとリフトで行ける。
 ところがリフトを下りたら、一面の雪であった。雪の用意など何もしていない。一週間もすれば溶けてしまいそうなサクサクした雪で、気をつけないとズボッと踏み抜いてしまいそうだ。前の人の足跡をたどりながら、慎重にゆっくり進む。初めての雪山登山だった。

 次の日は知床半島にシャチを見に行った。まさか会えると思っていなかった。羅臼港から観光船に乗り、船頭さんたちは情報を駆使してシャチを追いかけ、見事シャチの群れに行き会った。その美くしい姿と言ったら!
 また移動の途中で、サクラマスの遡上の場面にも遭遇した。名もない場所の小さな川、そこに次から次へとサクラマスがやってきて、1メートル余りの小さな滝に果敢に挑戦する。
ほとんど失敗して落ちていく。何度も、何度も。
「もっと近づいてから飛び上がった方がいいよ!」と声をかけたくなる。

 目的の様似についたが雲行きが怪しい。今回もやはり雨になった。来年また来ようと登山は諦めた。
 様似は全域が「アポイ岳ジオパーク」として、国連教育科学文化機関の世界ジオパークに認定されている。アポイ岳は日高山脈が海に落ち込む先端の山だ。今から1700万年前、太平洋プレートと大陸プレートがぶつかりあった地殻が、そのまま地上に剥き出しになっているという、世界でも貴重な現場があるそうだ。近く国立公園になるらしい。
アポイ岳は知れば知るほど、魅力的な山だ。

 そして今年2023年6月、三度目のアポイ岳挑戦。
小樽でニッカウイスキーの工場見学、滝川近くの雨竜沼湿原を歩き、帯広の六花亭でお土産をいっぱい買って、襟裳の田中旅館。去年も泊まったこの宿は窓から夕陽が見えて、料理がとてもおいしい。
 三度目の正直、今日は朝から快晴だ。
クマよけのスプレーを持って、途中にある熊に挨拶する鐘を鳴らしながら、シニアグループ6人組、ゆっくり丁寧に足を運ぶ。
 お花の時期は過ぎていてあまり咲いていない。春の花が終わり、夏の花が咲くはざかい期のようだ。
 美しい明るい樹林が続き、小さな谷川を渡り、存分にアポイ岳を味わった。本当に気持ちの良い山だ。
 8合目あたりに森林限界があり、そこからは岩山で、とても歩きにくい。かんらん岩という美しい石があちこちにあった。最後の8合目からは本当にきつかった。でもここで挫けてはなるものか!
 標高は810メートルだが、登山口が低いので、標高差は700くらいある。1年半続けてきたTRXのトレーニングが効を奏して、頂上を極めることができた。。見たこともないような青い空、眼下に広がる雲海。ここは天国に近い場所だ。

アポイ岳を思い出させてくれて、いろいろ教えてくれたK・Yさん
計画を練って私をアポイ岳に連れてきてくれたWさんと、山の仲間
TRXのジムに誘ってくれた友人
粘り強く指導してくれたジムのトレーナーたち
いろいろな人たちのおかげで、58年ぶりの念願、達成できました。

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