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「成長し続けなきゃ」なんて時代じゃない。“成熟期”に入った日本で、どう生きるか

『じぶん時間を生きる TRANSITIONの出版を記念したトークイベントが、7/24(月)青山ブックセンター本店で開催されました。
登壇したのは著者の佐宗邦威さんと、店長の
山下優さん。1時間45分に及んだ対談の様子を、一部編集してお届けします。

佐宗邦威(さそう くにたけ) 戦略デザインファームBIOTOPE代表。著書に『直感と論理をつなぐ思考法』『理念経営2.0』『じぶん時間を生きる TRANSITION』など。2021年に生活の拠点を軽井沢に移し、東京との二拠点生活を開始。


――対談は、山下店長の質問からスタートしました。


山下:

新刊を出版してみて、反響はいかがでしたか?

佐宗:
いつも僕の本を読んでくれている層とは違う方々が、手にとってくれているのを感じています。

これまでの僕の著作は、主に仕事に関連した内容でした。でも今回の新刊ではテーマをガラリと変え、コロナ禍で感じた価値観の変化や、それに伴う軽井沢移住など、人生のトランジションについて書いたんです。僕にとっては、はじめて「素を出した本」とも言える。だからなのか、幅広い方が自分の人生を投影しながら読んでくれているようです。

山下:
僕も自分と重ねながら拝読しました。特に佐宗さんがコロナで価値観の変化を体験したという点が、自分とリンクしたんです。僕の場合はコロナではなく震災が、人生における大きな転換点でした。

実は僕が本屋の仕事をやろうと決めたのは、震災がきっかけです。それまではフラフラしていたけれど、「なにか残っていくものに携わりたい」と思うようになって。

佐宗:
そうだったんですね。僕は震災のときは海外出張中だったから、コロナが人生初の大きなインパクトでした。コロナは、日本だけでなく世界中の人にとって、ライフスタイルを考え直すきっかけになったのではないでしょうか。

ただ、僕がちょっと疑問に思っているのは、世の中の人ってどのくらいコロナによる世の中の変化に自覚的なのかなということ。震災に比べてコロナの変化ってじわじわと起こったから、あまり意識せずにいる人も多いように感じるんです。そこを言語化して問い直したいというのも、今回このテーマで本を出した理由のひとつです。


――コロナを機にライフスタイルを大きく転換した佐宗さん。一方で山下さんは、「書店業だから移住ができず、あまり変化を起こせなかった」と話します。

山下さん:
ちょっと相談になってしまうのですが、移住のできない書店業でトランジションを経験したい場合、どんな選択肢がありますかね?

佐宗:
うーん、コロナ禍で起きた変化のひとつに、みんなが「近所」というものを見直したというのがあると思うんです。青山ブックセンターは表参道という立地なので、近隣に住んでいる人がどのくらいいるのかは微妙だけれど、ご近所コミュニティの場として書店をデザインし直すのは、ひとつの手かなと思います。

僕も軽井沢では、家にずっといても気分が上がらないのでよく近くの書店に行きます。併設されたカフェでコーヒーを飲みながら仕事をするのですが、そのカフェはもはや近所のコミュニティスペースみたいになっています。

山下:
たしかに、近所の方に通っていただけるというのは大事ですね。当店は週末はイベントに力を入れるようにしていますが、もっと考えてみようと思います。


――そして話は、佐宗さんの移住後の暮らしぶりに。

山下:
軽井沢に移住してから、新しいコミュニティを作るのは大変でしたか?

佐宗:
最初のうちは休みの日に遊ぶ相手がいなくて寂しい思いをしました。でも子どもが小学校2年生にもなると、パパ友、ママ友が増えて、どんどん輪が広がっていきましたね。東京にいた頃と大きく違うのは、軽井沢では友人同士、互いの家に頻繁に行くような間柄になるケースが多いんです。

山下:
いいですね。

佐宗:
こういう深い付き合いに、ものすごい価値があるように感じています。リモートワーク中心で生きていく人が増えた昨今、濃い人間関係の価値は、改めて見直されていく気がしますね。

山下:
すごく共感します。移住というかたちではなくても、定期的に特定の土地に行って、深い人間関係を作りたいというケースもありそうですよね。

佐宗:
そうですね。住んでる場所にいるだけじゃなくて、海外も含めて、2〜3ヶ所の土地で人間関係のポートフォリオを組む生き方が、浸透するかもしれません。


――続いて、トークテーマは「成長」に。

山下:
本書を読んで、成長ばかり追い求める生き方を見直したいと思いました。でも一方ではやっぱり稼ぎが必要だし、後輩にはぜひ成長してほしいし……とも思うんです。いわゆる“脱成長”をするにしても、バランスが難しいなと感じます。

佐宗:
前提として、僕は脱成長すべきと言いたいわけではないんです。大事なのは、最低限稼いだ先で、さらに成長を求めるべきかどうかという問いです。

現代社会では、何かと「成長した方がいい」と考えられがちですが、今はあらゆる人が成長し続けなきゃいけない時代ではない。「稼ぐ」の上位にある「何をしたら幸せか」をまず自覚することが大事だと思います。

山下:
なるほど。今の話を聞いて、そもそも自分は何をしたら幸せなのかを見失っているのかなと気づきました。東京にいると、自分の欲求がごちゃごちゃしてしまうんですよね……。

佐宗:
うんうん、東京はあらゆるところに広告が出ていて、欲しくないものまで欲しくなってくる環境ですよね。欲求が見えなくなるのも当然です。

僕は軽井沢に移住したことで、街のノイズが大きく減って、自分のペースで自分の欲と向き合えるようになりました。ワーケーションなどで静かな環境に身を置いてみると、本当に大事なものが見つかると思いますよ。

――佐宗さんの「あらゆる人が成長し続けなきゃいけない時代ではない」というメッセージを軸にしながら、話は膨らみます。

佐宗:
今の日本ってもう成長しきって、「成熟」しているフェーズなんですよね。成長意欲を満たそうと思っても、全員が全員充実した気持ちを感じられる環境ではない。だから、成長を追いたい人は追っていいし、成熟の世界でどう生きるかを楽しみたい人はそうすればいいという、両方で生きがいを感じられる社会に切り替わるべきタイミングが来ていると思います。

山下:
なるほど。

佐宗:
これって、つまりはヨーロッパ的な生き方に近づくことだと僕は感じています。最近ミラノ在住の日本人の方と話す機会があったんですが、ヨーロッパと日本の違いを聞いたら「何に時間を使うかの優先順位がまるで違う」と言っていたんです。日本人は仕事をまず優先するけれど、ヨーロッパでは「自分にとっていかに豊かな時間を過ごすか」が最優先事項。そのために人間関係を構築することにエネルギーを割いたり、アートを楽しんだりするわけです。

日本人は持ち前の「勤勉」を良しとする文化で、仕事優先で生きてきました。おかげで国は成長できたわけですが、その価値観ももう上書きされるべきフェーズに来ていると思います。足るを知る感覚を持つようになる、というか。
おそらく、現在の意思決定層が入れ替わる10年後くらいには、社会のあり方も変わっているのかなと思っています。

山下:
10年後というと、かなり長い時間軸ですね。東京の速い時間軸で生きているからか、なかなか10年後まで考えづらいなと思う自分がいます。

佐宗:
時間の感覚って、土地によって違うのかなと思います。京都のような歴史のある街の人とか、それこそ軽井沢のように自然の多い地で暮らしている人たちって、歴史とか自然の持つ時間の流れに影響されて、都会の人より長い時間感覚を持っているんですよ。


――時間感覚というテーマは、本というメディアの話に発展します。

佐宗:
メディアの時間感覚はどんどん速くなりますが、今でも本は特別ですよね。書店減少が叫ばれる世の中ですが、本というパッケージの価値は失われないと思います。

山下:
今の話は、書店員として大変心強く感じました。情報が刹那的に消費されていくなかで、最近は単行本が文庫化するスパンも早くなってきたりしています。それでも本には、次世代へ文化をつなげるメディアとして可能性があると信じてやってきました。

佐宗:
僕もそう信じています。特に日本は、書店数も世界から見ればまだまだ多い。本をすぐに手に取れる稀有な文化がある国です。

今回の本も、次の世代に届くようにという思いを込めて書いたんですよ。だからこそ、単なる移住やコロナの話ではなく、時間の捉え方という要素をいれて普遍性を持たせました。30年〜50年というスパンで、人々の生活に浸透していくような内容になったかなと思います。


――佐宗さんが書籍に託した想いが垣間見れたところで、マイクは観客席へ。時間いっぱいまで質問が飛び交う、充実したイベントになりました。ご参加くださった方々、青山ブックセンター本店の皆様、ありがとうございました! 

(文責:安岡晴香

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