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Amazonプライムで見れる鬼太郎の映画最新作

「鬼太郎100周年を祝う新解釈の前日譚」

自他共に認める水木しげるファンである。子供の頃から分厚くて重たい妖怪図鑑を眺めて育った。そこに描かれたおぞましくも美しい妖怪の絵と差し込まれた話が大好きだった。地方に伝わる昔話と水木先生の解釈を織り交ぜた独特な世界観が好きでいつも寝床で眺めてはいつか自分もこの世界に行きたいなと考えていた。

大人になっても水木先生の作品を愛し続けている。流石に鬼太郎の新クールを毎回追いかけてはいないが、それでも時たま深大寺に行くと必ず鬼太郎茶屋で文庫本を数冊買ってしまう。もう現存で販売されている水木しげるの文庫本はほとんど買ったというのにあまりの種類の多さから見かけるとつい「あれ?持ってたっけな?」と思い買ってしまう。結果、大体持っている。それでも水木作品が好きだ。何冊あっても良い。

そんな鬼太郎もなんと百周年。記念すべき節目に作られた映画は全くの新解釈で語られる目玉のオヤジがまだ目玉ではなかった頃の話。墓場鬼太郎で描かれた不運で平凡な男「水木」との前日譚にあたるとされる物語。ただこれに関しては正史というよりパラレルに近いという印象で、墓場鬼太郎を正史とするなら水木と鬼太郎や目玉との出逢いに若干の無理が生じる。

詳しいことを書くと長くなるので割愛する。本編を楽しむのにはあっても良い程度の知識なのでその後の展開を知りたい方は墓場鬼太郎のアニメを視聴するか原作を買って欲しい。しかし「墓場鬼太郎を正史とするなら」と書いたが墓場鬼太郎自体が正史とは少し違う系譜になっているのでそこもややこしい。なのでイチ水木作品ファンとして言えることは今回の作品に興味はあるが鬼太郎に関しては初見という方々はとりあえず予備知識無しで見ることをお勧めする。目玉のオヤジや鬼太郎そして主人公水木に関しても完全に今作で完結出来るような仕組みになっているので初見勢には予備知識はむしろ不要であると言っても良いだろう。純粋に物語として面白い。

本作を視聴して感じた印象はミステリーとサスペンス、そしてそこに加わる妖怪要素といったところだろうか。何しろ物語のテンポが良くてダラダラしたところがない。変な恋愛要素もグズグズした心情の葛藤もない。みな欲望に忠実で潔いくらいにクズで小気味良い。

唯一の違和感と言えば主人公水木が舞台となる龍賀家に馳せ参じる建前の理由がちと足りない気がする。いくら昭和三十年代でも取引先の社長の義理の父親が亡くなって特に手伝いとかでもないのに赤の他人が押し掛けるのはヤバすぎる。作中でも「無神経な」とか「心中を察しろ」とか言われてたけどそれでも居座っている水木。いや普通の家でも無理なんだから秘密を抱える龍賀家ならもっと強引に追い出されるだろと思ったのは私だけだろうか。彼の逗留が許される理由が希薄であった。まあ粗はそこら辺だけであとのストーリーは概ね面白い。

映画作品としてはなかなかであったが鬼太郎としてはどうか。正直なところ鬼太郎ぽさは薄い。鬼太郎の根幹にある「それでも人間が好きだ」という妖怪の目線があまり感じれなかった。だが今回は鬼太郎ではなく目玉になる前のオヤジと水木の物語。これで良いんだと言われれば特に反論はできない。

色々と批判的な事も書いてしまったが鬼太郎への愛深さゆえ。今回のような実験的な試みは大歓迎でどんどん水木作品を世に出してもらいたいと切に願っている。



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