見出し画像

マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)

Netflix配信映画

オススメ度 9/10点中


人に映画を薦める時に「ああ…でもこれって万人受けしなさそうだから少し抑えめで評価を伝えておくかな」と思ってしまいがちだ。かく言う私もそうだし今回もそうしようと思っていた。しかしそれが製作者もとい映画自体に対し失礼ではないのかと考え直し、ありのままの評価で推し薦めることにした。

この映画を簡単に説明すると落ち目の芸術家で自由奔放な父親に振り回される三兄弟の話。長女は変わり者で独身、長男は無職のもと音楽家志望で離婚間近。次男は一人だけ腹違いで成功したビジネスマンでバツイチ。ちなみに父親は超変わり者のパートナーとマンハッタンに住んでいる。もちろんこの女性は兄弟の母親ではない。結婚は3回目。

兄弟全員が結婚や恋愛にことごとく失敗しがちなのは女性との自由すぎる関係に家族を巻き込んでいる父親の影響が大きいと見ていて秒速でわかってしまうところが悲しくも可笑しい。

物語の視点は主に長男と次男の目線で綴られていくが周りの人々も個性豊かでなかなかに濃い内容の展開が続いていく。

長男の娘は美人で優しい大学生で映像作家になる為に勉強中だが彼女の作品は一見するとポルノかと思うくらいに際どい内容で大人たちを困惑させる。父親のパートナーの女性は悪い人ではないが自分本位でアルコール依存症で癖の強い手料理を振る舞い続ける。などなど。脇役のアクが強い。

登場人物の全員が全員違うベクトルのヤバさで感情移入し辛いなと思わせるがそれでもどこかに誰しもが持ち合わせている当たり前の悩みを孕んでいて、そこだけは確かに共感できると感じさせるのが巧みだなとつい丸め込まれてしまう。どこにでもいる平凡な人間が隠し持つイカれた内面の一部に共感してしまうのと同様、変わった人間がもつ平凡な悩みというヤツは容易に観る人間の心を掴んでいく。

私はこの映画に見事に感情移入してしまい自分を重ねてしまった。映画のレビューサイトでは「毒親が…」とか「イカれ父親が…」とか「全員の会話が噛み合ってない」とかのオンパレードで思ったより共感してる人が少ない印象だった。私の家族は全く同じとは言わないが概ねマイヤーウィッツ家の人々みたいな感じだったのでここにきて自分の家族の異常さに気付かされ、少し落ち込んでしまった。

親に振り回される日々。仲が悪いというより接し方を忘れた兄弟。それぞれがせめて自分が築いた家族では同じ轍を踏まないようにしようと思いながらどこかで親と同じことしているジレンマ。

私の親は芸術家ではないが自由奔放な人間で「他人なんて振り回してなんぼ」という恐ろしい座右の銘を持っている。そんな私だからこそ、ダスティン•ホフマン演じる父親の余り身勝手に思える行動も「あーあるなあこういう事」と受け止めてしまっていた。

私は末っ子なので特にベン•スティラー演じる同じ末っ子に共感していた。兄弟たちは親に放っておかれていた。しかしだからと言って自分がそのぶん愛されていたのか?と思えばそうではない。自分も同様に放置されていたが、上の兄弟にはそう見えていなかった。だから兄弟とも溝が出来てしまう。かと言ってお互いに全く無関心というわけでもない。映画でも同じ描写があったがそれぞれの子供に対しては非常に愛情深く、まさに家族の様に自然に接している。兄弟にはぎこちないのに兄弟の子供には自然でいられる。何とも不器用で、映画で客観的に見てまた切なくなってしまった。

こんな風に書くと重々しくて暗い雰囲気の映画だと勘違いされてしまいそうなのでしっかり補足しておくと、これはコメディなのである。こんな内容ではあるが終始明るい雰囲気でテンポも良く悲壮感がまるでない。特にエマトンプソン演じる長女がなかなかに良いキャラをしており、私はこの映画の中で彼女の出ているシーンが全て好きである。

では最後にエマトンプソン演じる長女モリーンの一番好きなシーンを紹介してこの映画のオススメ記事を締めくくりたい。

物語終盤。病気に倒れた父の見舞いに様々な友人たちが訪れる。三兄弟は喜んでそれを迎え入れていた。とある古い友人が老体を引きずりながら介護士らしき音に伴われて来た時は長男と次男は涙せんばかりに感動していた。ふと二人が後ろを振り返ると長女が明後日の方向に向かって突然猛ダッシュしているではないか。この、なんの前振りもない猛ダッシュは前後の彼女のキャラクターからは到底考えられないほど振り切った走りだったので不意をつかれて大笑いしてしまった。猛ダッシュの真相はあまり笑えない内容だったが、それでもマイペースな長女の口調とぎこちない兄弟愛で彼らなりに解決?したところはなかなかに良かったといえる。

伝わり辛いかもしれないが「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版」はかなりの名作で定期的に見たくなる映画のひとつである


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?