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PTSDなどトラウマ治療のさまざま

トラウマとは、ネガティブで圧倒的な出来事を体験することによって、その後にも継続して引き起こされるネガティブな反応のことです。トラウマ的な体験のことをトラウマ体験と呼んだり、その体験に関する記憶自体のことをトラウマ記憶と呼びます。
そのトラウマにも正式な診断名(診断とは医師しかできないものです)があり、PTSDや複雑性PTSD(C-PTSD)がありますが、ここでは特にPTSDについて短くですが紹介しています。

PTSD(心的外傷後ストレス障害:Post-Traumatic Stress Disorder)とは、DSM-5(アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル)によると、実際にまたは危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性暴力など、精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたこと(他人に起きた出来事を目撃したことも含む)によって生じる精神疾患のことを指します。なお、同じ出来事を体験しても、人によってPTSDになるかどうかは異なるということも含みおきください。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の主な症状

侵入症状:トラウマとなった出来事に関する不快で苦痛な記憶が突然蘇ってきたり、悪夢として反復されます。また思い出したときに気持ちが動揺したり、身体生理的反応(動悸や発汗)を伴います。

回避症状:出来事に関して思い出したり考えたりすることを極力避けようしたり、思い出させる人物、事物、状況や会話を回避します。

認知と気分の陰性の変化:否定的な認知、興味や関心の喪失、周囲との疎隔感や孤立感を感じ、陽性の感情(幸福、愛情など)がもてなくなります。

覚醒度と反応性の著しい変化:いらいら感、無謀または自己破壊的行動、過剰な警戒心、ちょっとした刺激にもひどくビクッとするような驚愕反応、集中困難、睡眠障害がみられます。

引用元:一般社団法人日本トラウマティック・ストレス学会

PTSDをはじめとするトラウマ関連疾患の呈する症状のさまざま

症状の出現の程度や頻度、出現するタイミングは、人によって異なり、また上記のようなPTSDの4つの主症状のほかにも、他の精神疾患と同じような症状が現れる場合も少なくありません。
そのため、それらの症状がトラウマによるものなのか、別の精神疾患、あるいは身体の器質的疾患によるものなのかのアセスメント(チェック)は欠かせません。

特に複雑性PTSDについては、より多彩で多様な症状を呈するため、安易に決めつけてしまわないように、医師の診断やトラウマ治療を専門とする臨床心理士・公認心理師の見立ても慎重にならざるを得ません。

トラウマ治療のさまざま

トラウマ治療には様々なものが開発されてきています。ここ数十年の間に多くの治療法が生まれてきたことは喜ばしいことかと思います。中には非常に互いに似通ったセラピーも少なくありません。最近では、ポリヴェーガル理論といわれる自律神経系に関する仮説理論が注目を浴びてきており、トラウマセラピーでもポリヴェーガル理論で説明されるものが増えてきました。
エビデンスが十分積み重ねられた古くからあるセラピーだけが、最も効果的というわけでもありませんし、逆に新しいセラピーが最も効果的とも判断はできません。

さらにセラピストが全てのセラピーを習熟しているわけではなく、セラピストによって習熟しているセラピーもその度合いも異なり、また重視しているセラピーも異なってくることから、専門家(セラピスト)すらどのようにオススメすればいいかが難しい現状があります。

トラウマを持っている方の状態、持っている症状、現在の環境などによって、最適なセラピーは変わってきますし、いくつかのセラピーを組み合わせる方がいい場合もあります。ある方がどのセラピーを受けるべきか、組み合わせたセラピーの方がいいかどうかも、セラピスト側のアセスメントにかかってくるので、このあたりが整理されていくことが望まれます。

ここでは、それぞれのセラピーを詳しく紹介すると、文章が長くなりすぎてしまい、余計に混乱を招いてしまうことが予想されるため、トラウマ治療のセラピー名をカテゴリ別に分けて提示するにとどめ、必要あらば別の記事にてそれぞれのカテゴリごとに紹介できたらと思います。

※日本語訳語、英語名のカタカナ語、英語の略語などの中で、よく使われる言葉の方を前に持ってきていたり、訳語などの都合上、表記の仕方がバラバラになっていることはご容赦ください。
※™(トレードマーク)や®(商標登録)をつけているものがありますが、抜けているものもあるかもしれません。恐縮ですがお知らせいただきましたら、確認のうえ入れさせていただきます。

認知や行動に対して影響を与えるセラピー

持続エクスポージャー療法(Prolonged Exposure Therapy: PE)
認知処理療法(Cognitive Processing Therapy: CPT)
トラウマ焦点型認知行動療法(Trauma Focused Cognitive behavioral Therapy: TF-CBT)

身体から精神に対して影響を与えるセラピー

ソマティック・エクスペリエンシング(Somatic Experiencing®: SE™)
センサリモーター・サイコセラピー(Sensorimotor Psychotherapy:SP)
ブレイン・スポッティング(Brain Spotting: BSP)
EMDR(眼球運動による脱感作及び再処理法)
コレモ(Community Resiliency Model: コミュニティ・レジリエンシー・モデル)

タッピング(身体にタップをする方法)を用いたセラピー

ボディ・コネクト・セラピー(Body Connect Therapy: BCT)
TFT(思考場療法)
EFT(Emotion Freedom Technique:感情解放テクニック)
TSプロトコール(Traumatic Stress plotocol)
USPT(タッピングによる潜在意識化人格の統合法)

いわゆるインナーチャイルドに働きかけるセラピー

自我状態療法(EST)
ホログラフィトーク(HT)
内的家族システム(IFS)
USPT(タッピングによる潜在意識化人格の統合法)

その他、トラウマセラピーそのものではなくてもトラウマに効果が認められるであろうセラピー

CRM®(包括的リソースモデル、Comprehensive Resource Model)
FAP療法(Free from Anxiety Program)
EFT(Emotion Focused Therapy:感情焦点化療法、上記のEFTとは別物)
AEDP(加速化体験力動療法)

その他、組み合わせられやすいセラピー

臨床催眠については、系統的な学習を行ってきたセラピストかどうかについて、特に気をつける必要があります。もちろんトラウマセラピー全般において、トレーニングをしっかり積んだ倫理的なセラピストであることが求められます。催眠については、催眠術、催眠ショーなど、トレーニングをほとんど受けないまま「ヒプノセラピスト(催眠療法家、催眠療法士)と名乗っている人が昔から多いことが挙げられます。

臨床催眠
解決志向アプローチ(SFA, SFBT)
タッピングタッチ(TT)
トラウマ・センシティヴ・ヨガ
トラウマ・センシティヴ・マインドフルネス

トラウマ治療の前段階としてのケア

トラウマ治療が特にここ数年注目されるようになりましたが、トラウマ治療には時間もお金も労力もかかることが多く、またセラピスト側としてもトラウマセラピーを学んでも学んでも終わりがないような、学び続けることがかなり求められます。

トラウマ治療の技術を高めて、有能なトラウマセラピストとなる人を増やしていくことも大切です。

ですが、
・トラウマについてよく知った上での対人援助の方法
・トラウマにならないように緊急支援時のケア
・トラウマの影響を最小化するための適切な「トラウマケア」

以上のようなものが、それよりも前に重要なのではないかと考えています。
これらの知見や技術が、後のトラウマ治療をスムーズに展開させてくれるため、トラウマ治療を学び続ける場合も、トラウマの最低限のケアをする場合にも役立つと思われます。
ちなみに、下記の「トラウマケアのファーストエイド(仮)」については、筆者が独自に考えているものですので、動画や不定期のワークショップのみで書籍などはありません。このあたりについても、別記事で今後ご紹介していけたらと思います。

トラウマ・インフォームド・ケア(TIC: Trauma Informed Care)
サイコロジカル・ファーストエイド(PFA: Psychological First Aid)
トラウマケアのファーストエイド(仮)

今回は概論的な話のみでしたが、今後は各論的に一つずつトピックを分けてご紹介していけたらと思います。


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