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【あなたの知らないパンダの世界】実は消化不良でほぼフンに それでもパンダがタケを食べる理由

 今年10月に来日50周年を迎えたジャイアントパンダ(以下、パンダ)。タケやササを食べる姿が愛らしいパンダですが、いつも食べている、というイメージはありませんか? 実際にパンダは1日の大半を食事の時間に費やしています。では、どうしてそんなに食べ続けているのでしょうか。知っているようで知らない、パンダの食事情を、上野動物園パンダ班の前班長で、『パンダとわたし』(黒柳徹子と仲間たち・著/朝日新聞出版、2022年3月刊)の筆者の一人でもある廣田敦司さんに教えてもらいました。さらに、2022年10月20日(木)に『来日50周年メモリアル パンダが日本にやってきた!』(朝日新聞出版)が発売になりました! こちらもぜひお楽しみに!

黒柳徹子と仲間たち・著『パンダとわたし』(朝日新聞出版)

■食べたタケがそんなに素通りして大丈夫?

「パンダは何を食べる?」という質問に対して、今やほとんどの人が「竹」や「笹」と答えると思います。街を歩いていてもパンダのキャラクターが笑顔でタケの葉を食べているポスターやパッケージを目にしますし、子どもたちに絵を描いてもらってもきっとそういうシーンが多いでしょう。それほど「パンダ」→「タケ」というイメージが浸透していることがわかります。

 そのイメージどおり、パンダは食べているもののうち、ほぼすべてがタケです。動物園ではリンゴやニンジンなどを与えることもありますが、量としてはおやつ程度です。野生では他の動物の肉を食べることもある、という話も聞きますが、きっとこちらも量としては多くはないでしょう。パンダは、繁殖力が旺盛なタケを食べ物に選ぶことで、一年中安定して大量のエサを確保できるメリットを得ることになりました。

タケを食べる上野動物園のリーリー ©朝日新聞社

 反面、デメリットと言えそうな点もあります。肉食獣にとって、植物が、とくにタケがエサとして利用しづらいこともその一つです。タケは他の植物、とくにウシやウマなどが食べているような青草に比べて繊維が多く含まれています。加えて植物の細胞はセルロースという物質を含む細胞壁に囲まれているため、それを食べる動物には「効率良く栄養を得る→セルロースを分解する」という仕組みが要求されます。そのため植物を主食とする動物は、胃や腸の中にセルロースを分解する細菌を共生させたり、時間をかけて分解をするために長い腸を持っていたりします。

 しかしパンダは肉食獣の仲間で、そのような仕組みが発達していない動物です。長い腸は持たず、セルロースを効率良く分解する腸内細菌が大量に存在しているわけでもなく、その結果、食べたものはおよそ12時間以内にはフンとして身体から出てきてしまいます。フンをバラバラにしてみると、口から入ったタケの葉や稈(かん=茎に当たる部分)が、外見上ほぼ原形をとどめたままの状態で出てきており、タケの消化が不得意なことが一目瞭然です。あまりに他の動物のフンと大違いなので、こんなにも身体を素通りしてしまって大丈夫だろうか?と心配になるくらいです。

■「なまけている」も重要な生存戦略の一つ

 タケだけで大きな身体を維持するための仕組みについて、その特徴的な要因をいくつか挙げてみます。

<食べる量が多い>
 食べたものが比較的早く身体から排出されてしまう上に、あまり消化できない、となると必要な栄養を得るためには食べる量を増やすことが解決策の一つです。一年中、枯れ尽くすことなく、旺盛な繁殖力を持つタケならそのニーズを満たすことができます。

上野動物園の「パンダのもり」に展示されているパンダのフンのレプリカ。消化できずに出てきてしまうタケの葉なども再現されている(撮影/加藤夏子・朝日新聞出版写真映像部)

<食べるタケの部位を選ぶ>
 タケは葉、稈、タケノコのそれぞれで含まれる栄養が異なります。この3カ所の中で、葉とタケノコはタンパク質が多く含まれます。それに対して稈は、基本的には葉よりも栄養が乏しい部位ですが、春ごろにのみデンプンや一部の糖類を葉よりも多く含むようになります。同時に稈の繊維質(セルロース)は春に一時的に減るそうです。

<エネルギーの消費を抑える行動>
 せっかく得た貴重な栄養を温存するためには、激しい運動をしないことが一つの方法です。一方、肉食獣は狩りをすることで大量のエネルギーを消費してしまいますが、その代わりに栄養価の高い肉を食べることができます。狩りをしなくても、生息地に豊富に生えているタケを食べればその分のエネルギーを節約できます。

 また活動時間を減らすことも有効です。季節によりますが、パンダは1日の半分ほどを活動に費やして、そのうちの大部分を、エサを食べることに使います。そして、それ以外の時間はほぼ休息です。あまり動かず、食べて寝てばかりだと「なまけている」とイメージしがちですが、彼らにとっては生きるために非常に重要な生存戦略の一つなのです。

廣田敦司(ひろた・あつし)
東京都職員。専門分野は野生動物飼育などで博士(理学)。恩賜上野動物園の前・パンダ班班長としてシャンシャンの誕生にも携わった。パンダからネズミまで多種多様な哺乳類の飼育経験がある。休日には野山に出掛け、身近に生息する動植物を観察するなど余暇を楽しんでいる。

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