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◆怖い体験 備忘録╱第12話 怪談話は霊を呼ぶ?

その昔、定期的に集まって遊ぶ大きめのグループがありました。
当時勤めていたバイト先に気さくで求心力のあるご夫婦がいて、休日前夜ともなると、職場のスタッフやそのまた友達までもが彼らの家に集まり、一緒にご飯を食べたり、ゲームをして遊んだりしたものです。

入れ替わり立ち替わりの総勢12~3人のグループでした。
少人数ならともかく、これくらいの人数の集まりともなると、みんなでゲームをするとか以外はどうしても話題が散漫になり、あちこちで違う話題の塊がいくつか出来ている、という状態になることがほとんど。
帰る頃には誰と何を話したかなんて、あんまり覚えてなかった。
でも、そういう空気がかえって心地よかったんでしょうね。

リーダー的存在のご夫婦が本当に人柄のいいお二人で、このグループの集まりでは、人の悪口や噂話というものは、聞いた記憶がありません。
いつだってテレビや漫画、ゲームにスポーツ、クルマにバイク、果ては時事から歴史、音楽に占い、何しろ罪のない話題で過ごすのがお決まりになっていました。
その中でも、汗ばむ季節になってくると定番だったのが、怪談話というやつですね。

確かに、罪がないと言えばないかも知れない。でも、わたし的にはあんまり関わりたくない類いのお話ではありました。
しかし、実体験はそれなりに伴ってしまっていることは、そのグループでは周知の事実でした。
なので、気心の知れた友人たちには幾つかそんな話も披露していたかも知れません。

あの日も、そんな感じで怪談話になったところでした。
そのグループの男女比はだいたい5:5だったのですが、どうしたことか、あの日起きていたのは女子だけ。
深夜の悪ノリも手伝ってか、わたしもいつになく饒舌に自分の『ほんとうにあった怖い話』を披露していたのです。

幾つ目の話の終わりでしたでしょうか。
誰かがぽつりと
「そう言えば、こういう話してると寄ってくるって言わない?」
と、言いました。
とはいえ、これは謂わば怪談のお決まり文句と言えないこともない。
ある意味で怖さを盛り上げるアイテムのようなものです。
わたしたちは少し息を呑みましたが、まだハハハ、なんて笑っている余裕はありました。
しかし。
次の瞬間、部屋のドアがガチャガチャと音を立てたあとにスーッと開いた時には、一斉に悲鳴が上がりました。

まぁまぁ。
だけど、よくよく考えればその扉から続く階段の上には、飲み疲れた男性陣が何人か寝ていたのです。
普通に考えて、悪戯に決まっていました。
我に返った女子の一人が「もー!誰!?」とか何とか言いながら、扉に近づきました。
しかし、淡い期待はその行動によって、見事に打ち砕かれることになったのです。
そう。
扉の周辺には誰もおらず、悪戯かと思って階上まで見に行っても、男性陣は泥酔して一人残らず眠っていたのでした。

さあ、そこからは大変です。
扉はレバータイプのドアノブ式でしたので、明らかにガチャリと下に向かって力をかけなければ開きようもありません。
しかも扉は少しだけ開いたとかいうレベルではなく、スーッと完全に90度以上の角度で開かれました。ほんとうに、まるで誰かが入ってきたかのように。

そのあとはもう、ひたすらに怖いしかありません。
わたしたちはちょうどペンギンが作るコロニーのように寄せ集まって毛布を何枚も着て、朝まで一睡もせずに過ごすことになりました。

結局、そこからは一度だけ、洗って重ねたままになっていた食器が崩れて がちゃん、と音を立てた以外は、これといった心霊現象には遭わずに終わりました。
わたしたちは起きてきた男性陣が先に寝てしまったことにぶうぶう文句を言ったりはしましたが、基本的には朝日にホッとして、本来なら泊まる予定ではなかったメンバーから順に帰路につきました。

この話には、実は続きがあって、後日 家主ご夫婦の奥さまが、男性陣が寝ていた2階の布団を片付けようと階上に上がった際、2階のガラス窓に、まるで外側から覗いたかのような小さな子供の手形を発見したのだそうですが、それが独りでに開いたドアと関係があったかどうかは、今もってわかりません。

しかしそれからというもの、少なくとも女子だけの時に怪談話がおこなわれることはなくなりました。

さて、怖い話をするとオバケが寄ってくるというのは本当なのでしょうか?

それでは、このたびはこの辺で。

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