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◆怖い体験 備忘録╱第17話 友人宅にいたもの

学生の頃に知り合い、長らく文通(歳がバレますね)をしていた友人がいました。
彼女は横浜の人で、一度北海道へ遊びに来てくれたこともあり、数年後、今度はわたしが出向くことになりました。

彼女のお宅は、田舎では見たこともない規模の市営住宅の一角にあり、お母さんと弟さんと三人暮らしということでした。
2泊3日、ご厚意で彼女のお部屋に泊めて頂くことになり、少し観光したりしながら、一緒にたくさん絵を描きました。
彼女と知り合ったのは漫画家を目指す人のサークルで、オフ会という文化がまだなかった当時も、こういった出逢いや繋がりはあったんですね。
とにかく、文通を通じてたくさんのことを語り合った彼女とは大変ウマが合い、それこそ夜が更けるのも忘れて語り明かしました。

で。
あれは、横浜に着いて翌日のことだったかと思います。
前の晩に夜更かししてしまったので、目覚めたのはお昼の少し前くらいのことでした。
起きたまま、彼女のお部屋で互いに布団の上に座り、起き抜けの雑談をしていた時のこと。
わたしは、お部屋の入り口側を向いて座っていました。
居間に続くドアは開け放たれていて、そちらからは少し早めに起きた彼女が準備しているらしき昼食の匂いが漂ってきていました。
入り口に背を向けて座っている彼女の顔を見ながら話していると、ふと、赤い何かが居間を横切ったのです。

もしかすると、思春期で昨日はほとんど部屋から出てこなかった弟さんかな?とも思ったので「弟さん、いるの?」と訪ねてみると「あー、あいつさっき出掛けたわ」との返答。
それではお母さまかな?とも思ったのですが、昨日のうちにお母さまはお仕事だと伺っていました。
じゃあ、もしかして…

あらぬ考えにとりつかれると、彼女の話も些か上の空になってしまいました。
しかし、そうしている間にも、また赤い服の何かが居間をサッと横切ったのです。
結構な早さで横切るため、ハッキリとは見えないのですが、それはどうも着物を着た女性のように感じました。

「…ねえ。もしかして、見えてる?」

ふと彼女にそう問われ、わたしは慌てて視線を彼女に戻しました。
「ん?」と言うと、彼女は続けて「アサちゃん、見えてるんでしょ?」と尋ねてきます。
確かに親交は深かったけれど、実際に会うのはたった2度目の彼女にそんな話をするのもどうかと戸惑っていると、彼女は「ちょっとこっち来て」と言いながら立ち上がりました。

言われた通りについて行くと、案内されたのは、お母さまのお部屋でした。
「あれ」と彼女が指さした先を見て、わたしは「あ!」と声を上げてしまいました。

それは、赤い着物を着た日本人形でした。
柄までは全く見えなかったものの、着物に用いられている赤は、確かにさっきこちらの方向から出てきて居間をウロウロしていた何かとそっくりなのでした。

そのあと、彼女が作ってくれた焼きそばを食べながら話をしましたが、居間にいる間は不思議と「それ」は出て来ませんでした。
彼女が言うには、ご家族以外でその存在に気づいたのは、わたしで2人目だったそうです。
誰かが居間にいる間は姿は見えず、例えば洗面所や他の部屋にいると、気配や影がチラ見えするので、ご家族の間では「多分、気づいたり、構ったりして欲しいんだろうな」という結論になったのだとか。
何ともおおらかな話です。

結局泊めて頂いている間、それは何度か視界を横切ることはありましたが、やはりあまりに早く横切るため、はっきりとした姿は見えずじまいでした。
特に夜中に金縛りにかかったり、うなされたりということもなかったので、確かに特に害のある存在ではなかったのでしょう。
ただ、北海道に戻ってきてから受けた彼女からの電話は些か怖かったです。

ねぇ、アサちゃん、あれ、ついていかなかった?
前に気づいた子はね、帰ってからあの子が家の中をウロウロしてたらしくて…
どうもついて行っちゃってたみたいなのよ
しばらくしたら戻ってきたみたいだけど

ぞわっとして家の中を見渡しましたが、どうやらわたしはあの子にそれほど好かれなかったようです(笑)
ホッとしたような、ちょっと残念(?)なような、不思議な体験でした。

それでは、このたびはこの辺で。

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