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[ Decode : Art ] 聖マタイの殉教



はじめに

 本件は前回の『マタイの召命』に引き続き聖マタイが主題の絵画のDecodeです。前回はマタイがイエスに召命を受けた場面の絵画。言うなれば「生」の絵画であり、今回はその対にあたる「死」の絵画。タイトルからも分かる通り、マタイが殉教したシーンの絵画ですから。なぜこの二つの作品が対なのかと申しますと、そのように飾られているからです。また、このマタイシリーズは3作品あり三つで一つとなっております。

ではまず3つの絵が飾られている教会から始めましょう。


セント・ルイス教会

 セント・ルイス教会のコンタレッリ礼拝堂には、前回ご紹介した『聖マタイの召命』と『聖マタイの霊感』そして本件の『聖マタイの殉教』の「マタイ三部作」、換言すれば「マタイの三位一体」であり、ご覧のように飾られています。左が『聖マタイの召命』、その反対側が『殉教』。相向かいで飾られた生死の象徴の間には、『マタイの霊感』が鎮座します。


コンタレッリ礼拝堂


聖マタイの殉教

曖昧な死に場所

 この絵はマタイが命を失う瞬間を描いてます。マタイの殉教の伝説には色々と異説が存在しますが、カラヴァッジオの『聖マタイの殉教』はエチオピアの説がモチーフとなっています。ご自分でお調べになれば分かると思いますが、ローマだったりエジプトだったりエチオピアだったり様々なのです。故に、わたくしが曖昧なのではなくて、元々曖昧なのですからね。一応わたくしはエチオピアの説で話を進めます。

 マタイは様々な国で布教活動を行い最終的にエチオピアに訪れました。この国でマタイは王を咎めてしまいます。なぜなら王は、自分の姪であり修道女でもある女性に欲情し手篭めにしようとしていたから。咎められて当然ですが、この事を王は逆恨みし、マタイに暗殺者を差し向けまけます。そしてある日、マタイが祭壇に向かいミサを行っていた時、くだんの暗殺者が猛然とマタイに襲い掛かり首を刎ねました。絵画は、この首を刎ねられる直前の場面です。では、魔法を使い大切な部分を見てゆきましょ〜


Decode

 「聖マタイの殉教」は、カラヴァッジオの作風を代表する作品であり、その写実的な描写や独特の構図、劇的な光と影の使い方が特徴です。思い出して下さい。「マタイの召命」でも光がとても重要でしたね。


最も輝く暗殺者

 中心部分の最も重要なものが詰まった正方形のパス部分を抜き出しました。パスも光の加減も、どちらも右手に剣を持つ暗殺者を示します。マタイの殉教を決定づける人物ですし、絵画のタイトルが「殉教」ですので「死」を象徴する暗殺者が真っ先に目に入るようになっております。


野次馬の正体

 螺旋に沿って視点を動かしてゆくと、螺旋に乗っかっている唯一の野次馬がおります。なぜこの大切なパスの中に、その他大勢の野次馬を乗せたのでしょうか?しかも、絵画の中心の暗殺者の次に視点が移動する場所にです。

 この野次馬、本人の自画像らしいです。確かにそっくり。

 カラヴァッジオは芸術家であり確かな技術も智慧も有しておりましたが、道徳心や理性のたぐいは母親の胎内に置いてきちゃったみたいで、はっきり言って悪い人。ですから厳格な宗教画にこっそり自分の顔を入れちゃったのだと思います。バレたら首が刎ねられる時代ですよ?とんでもないことをするなぁ〜と感心しました。

 少し脱線しますが、そんな彼の性格を表すおもしろエピソードがあります。カラヴァッジオがローマにいた頃、街の喧嘩で青年をぶっ飛ばして殺してしまいました。お尋ね者となったカラヴァッジオはそのままローマを逃げ出し、当時のマルタ騎士団団長の庇護を求めマルタへ向かいました。庇護を求められたマルタ騎士団側は、高名な画家を騎士団専属の公式画家とすることは利益になると考え迎え入れたそうです。その後マルタでいくつかの作品を残しましたが結局のところマルタでも喧嘩沙汰を起こし、騎士団宿舎の扉を叩き壊したうえに騎士の一人をぶっ飛ばし重傷を負わせたため投獄されました。そして「恥ずべき卑劣な男」とされ騎士団から除名されました。 その後、なんとマルタの牢獄から脱獄し、今度は別の有力者の庇護を求めシチリアに向かいました。芸術作品を残していなかったらただの悪党です。

 各地でこんなことを繰り返していた人ですから、少し前の時代のダヴィンチたちが、強大な宗教権力に気づかれぬよう智慧を隠したのとは違い、単純に当時の権力をバカにした風刺画的な意味合いだとわたくしは考えます。それがパスに乗った特別な野次馬の真意。


視線の先

 絵画の話の戻ります。そんなカラヴァッジオの自画像の視線の先は、螺旋に沿って視点が移動する先と同じで、主人公の聖マタイに向けられています。ではここで大切な光を注視してみましょう。左から右にかけて光が差しておりますね〜。前回の『マタイの召命』を思い出して下さい。右から左にかけてでしたね。しっかり光も対になっております。ではさらに思い出して下さい。『マタイの召命』の光はイエスの後光を示しました。『マタイの殉教』もその視点で見れば、暗殺者に後光が差している事になります。マタイの命をとった暗殺者に後光とはこれ如何に?


喜ばしき死

イエスと12使徒の殉教図

 はじめにはっきり言っておきますが、わたくしはこの考え方は嫌いです。

 キリスト教徒にとって殉教の基準は、その死がその人の信仰を証明していると共に、人々の信仰を呼び起こすものであるかどうかです。こう聞けばいいことのように思えますが、この洗脳方法が形を変え利用されると「アッラーアクバー」って言って体に爆弾巻いて自爆したり、「天皇陛下万歳」と言って片道切符の飛行機で突っ込むことになります。しかしながらこの宗教の人々にとって殉教は神聖なものです。ずっと願っていた神の元へ行けるのですから。つまり殉教とは信者にとって誠に喜ばしきことなのです。


棕櫚の葉

 暗殺者に掴まれたマタイの右手に、天使が葉っぱのついた枝を差し出しています。この棕櫚の葉はキリスト教では「殉教」を示す葉であり、マタイの死は殉教として天に認められた事を示します。と同時にそれは死を意味します。しかし天に殉教と認められた死は喜ぶものです。そして、それを運ぶ暗殺者はマタイに生(信仰の道)をもたらしたイエスと同様に、死(殉教)をもたらす存在で、イエスと同じく光包まれた存在と言うわけです。


 遠く離れた魔術師と、この絵画について話していた時に教えてもらった事。この絵画、前述の主要人物(自画像含む)以外の目は全員「黒目」です。我々魔術師は捻くれ者ですからこう考えます。

「黒目=光なき目=智慧なき目=盲信者」

 この絵に描かれている大衆はミサに参加していた人々ですから盲信者です。カラヴァッジオの自画像にはしっかり白目が描かれているのも、なんとも皮肉たっぷりで素敵ですね。


光の差す先

 『マタイの召命』『マタイの殉教』、それぞれの絵画の光が差している方向を覚えておりますか?召命は右から、殉教は左から。上記のように3つ並べると、光の先は『聖マタイの霊感』になります。

 この絵画は上から光そのものが降りてきています。光は智慧の隠語であり、天使は角度、Angel / Angle。この絵画が示す光はなんでしょう?

 幾何学と角度は切っても切れぬもの。適切な角度でパスを取れば、関節やアクセントとなる描写が上手にパスに乗っかっていることがわかります。ではこの絵を黄金比で分割します。

 天使が仕草でマタイに智慧を与えています。和訳ですと「霊感」になりますが本来は「インスピレーション」です。瞬間的な閃きのようなもの。ですからマタイは椅子に座るでもなく不安定な姿勢で、急いで天使から得たインスピレーションを書き記そうとしています。


天使の手

 マタイの名前は「Matthew」。一説では、この名前は"manus" (hand) and "theos" (god)のアナグラムと言われています。

ここから先はわたくしの推測です。

 わたくしの視点ですと、聖杯に天使がすっぽりおさまって、聖杯を形作るパスにドンピシャで重なる天使の右手の親指を、左手の人差し指で差しているように見えます。聖杯がよく分からない人は『受胎告知』を読んでね〜。

 聖杯=子宮ですから、天使の親指は男根となります。あの右手の象徴を覚えておりますか?

聖都 D.Cのあの象徴とも重なります。

 「天使がマタイに死にゆく神の物語を伝えている」と、カラヴァッジオは残したのではないでしょうか?ただ、そんな史実は一切残っておりませんからあくまで想像です。


 いかがだったでしょうか?マタイ三部作。ひょんなことからマタイの召命のパスをとってみたら、マタイが誰だか分かってしまい、面白がって調べたら三部作でした。一つ目があれだけハマっていたら、残りもそうなるのが道理。パスって簡単にはめているようで、中々きっちりハマる作品って無いんですよ。故に今回は連続で3つもパスがはめられてめっちゃ楽しかったです。同様にお楽しみいただけたなら幸いです。

 では本件はこれにて締めとさせて頂きます。あなた様の心にわたくしの神の手が届きましたなら引き続きお付き合いをお願い致します。


お知らせ

 来週はいよいよ『象徴の威力』についての記事です。わたくしがずっと危険性を説いている「象徴は効く」との意味を根本からまとめました。この記事は『聖都 D.C』と同じく長年沈黙を貫いていたことです。智慧を求め歩き続けてきた魔術師には一つの答えになることと思います。お楽しみに〜♪




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