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『come again!』に寄せて。

 2023年最後の新曲『come again!』。
 その5日前には『博士のイヴ』を公開し、2023年もあとわずかとなってからのリリースラッシュ―そんな一週間のうちに何曲も出さんでいいから、もうちょいコンスタントな活動に憧れがちなお年頃なわけですがみなさんいかがでしょうか。

経緯

 この曲は、あそviva!劇場主催のリアルイベント『シネマdeVIVA!FESTIVAL vol.3 用宗漁港編』の一環として制作した。

 イベントのひと月ほど前(11月中旬)、主催のあまる氏から楽曲制作の依頼を受ける。
 「イベントに参加し、会場で感じ取った雰囲気を元に、イベントのテーマソングとなるような曲を作ってほしい」とのこと。

 納期は一週間。
 寡作で著名な俺にとって一週間でそれなりの曲を作るのは至難な技ではあるのだが、二つ返事で快諾したのには、似たような性質の創作をこれまでに何度もやってきた経験があったからだ。
 今回もきっと大丈夫だろう、と。たぶん。

シネマdeVIVA!express

 今までもことあるごとに話題にしてきたが、あそviva!劇場と俺とのつながりについて振り返ることにする。なるべく簡潔に。

 2020年4月―あそviva!劇場を運営するあまる&ひっきぃは、生業である大道芸のパフォーマンスの依頼や、劇場の利用予約の、新型コロナウイルスの感染拡大を理由とした相次ぐキャンセルを受け、苦境に立たされていた。
 いわば八方塞がりの彼らが苦肉の策として立ち上げたのが『シネマdeVIVA!express』という名の映像制作企画だった。

 企画開催日の朝9時、あまる&ひっきぃによる生配信がYouTubeにてはじまり、その日の作品を方向付けるルールが決められていく。ルーレットとかで。
 それから夕方までに映像の撮影・編集などを終え、その日のうちにYouTubeでの公開を目指すという、かなり超特急なスケジュール感の企画である。

 この企画は、その後1年半にわたり断続的に開催されることとなるわけだが、縁あって俺はこの企画に初期段階から参加し、約20曲を書き下ろしてきた。

 彼らと俺とは、共通の友人を通じて互いのことをなんとなく認識しているレベルで、むろんそれは「関係性」と呼べるほどのものではなかった。
 しかしこのハードコアな企画にそんな状態で突入し―しかもやりとりはすべてリモートで―お互いが完全に別動で作った映像と音楽のぶつかり稽古みたいなことを毎週末のようにやることとなった。
 改めて振り返ると、けっこう不可思議なことである。そういう意味でも、コロナ禍ってのはやっぱ非日常なる季節だったのだな、と。

 しかしまあ―彼らとのこの共同作業があったからこそ、今回の「納期一週間」に対しても、なんの抵抗もなかった。
 これまでどおり、あらかじめ決められている期日までに、好き勝手やればいい―それでいいのだから。

制作

 制作期間である一週間は、作曲=2日、作詞=4日、編曲・録音・編集=2日という内訳で、つまり一週間と言いつつも、しれっと8日間使っている。
 作詞が思ったよりも難航したのがその原因―俺の作る曲の多くは、作詞のタイミングで、往々にして思ったよりも難航してしまう。

 冒頭の打楽器は、「チャング」という名の韓国の太鼓。
 チャングには個人的な憧れみたいなものがあって―それというのも2001年、坂本龍一氏によるチャリティーソング『ZERO LANDMINE』の中でチャングが使われていたことに起因する。その音色の良さや、奏者の演奏する姿がずっと脳裏に焼き付いていた。

 加えて、今回のイベントに韓国のパフォーマーがゲスト出演していたことから、チャングを使うことを着想した。

 チャングの音源は以下のライブラリを使用した。

 制限時間の都合から、いつもの調子で各部にこだわっていてはとても提出にこぎつけない。いろんなことを後回しにしながら、ひとまず最初から最後までをカタチにし、あとは時間の許す限り、曲が良くなるように努めた。

 先述の「express」という企画でも同様に、とにかくバタバタバタバタ作るから、提出直後などはアタマから湯気が出てそうな状態なので、あまり落ち着いて、成果物を確認することができない。
 数日経つとようやく腰を据えて聴けるようになり、イントロのフレーズがサザンの『真夏の果実』ぽくなっちゃったこととか、2番のAメロ(ギターソロ)のフレーズをもっと工夫すべきだったとか課題が噴出してしまうわけですが、同時に―今回も、自分ひとりでは作れないような、優れた作品ができたと思った。

MVとアートワーク

 MVには、イベント時に自分で撮影した動画を加工して使用した。

 当初は―主に時間の都合から、アートワーク(後述)と歌詞のみを掲載するシンプルなMVにするつもりだったが、ほんの出来心でイベント中に撮った動画を当ててみたところ、まあ当然、雰囲気は断然こっちのほうがいい。
 しかもワンカットの動画なので、編集の手間も要らぬ。

 ただし、動画には不特定多数のイベント参加者が映り込むため、そのままでは全世界に向けて公開できない。
 つまり動画に映った人の顔が判別できないようにしたいという目的から加工をはじめ、コマ送りっぽくしてみたり、ぼやかしたりしていたら、なんとなく感じが良くなり一石二鳥であった。

 アートワーク(ジャケット)は、あそviva!劇場のひっきぃ氏にお願いした。

『come again!』アートワーク。

 彼女に美術を頼むのは、2022年6月公開の『プレイランド』に次いで二度目である。
 独特な、彼女にしか出せない味わいの筆致が―とりわけあそviva関連で作った楽曲にはとてもよくハマる。

『プレイランド』アートワーク。

おわりに

 ものすごく余談だが、『come again!』のサビの最後の歌詞「いつでも会いに来て!」は、『プレイランド』の―同じくサビの最後「いつでも、会いに行こう」に対応したものである。

 もろコロナ禍に書いたのが『プレイランド』、そして―ひとまずあの禍々しき日々を抜け、公共の場で皆が一堂に会することができるようになった現在。

 共同作業者ともリモートでやりとりをし、完成した作品も画面越しにしか届けることができなかった「express」が、いまやさらに多くの人を巻き込みながら「FESTIVAL」になった。

 そんなイベントのために書き下ろしたのが『come again!』である。

おしらせ

 この稿でも紹介した「シネマdeVIVA!express」が、2024年1月21日―実に2年ぶりに開催されます。
 リモートでの参加も可能です。
 これを読んでいる人で興味をお持ちになった方は、とりあえず俺に、何かしらの手段で連絡ください。

 それではさようなり。

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