We're not alone.④最終章
前回はこちら。
次なる目的の来宮神社へ、ナビの示す道筋は先刻我々が閉口した混雑・渋滞エリアを通過するものだったので、迂回路を行くことにした。
先程の土砂災害の現場付近から山に入り、細く険しい道を進む。
なぜこのタイミングだったのかは謎ではあるが、ずーきん氏と俺とのコラボ作品『本日もまた難儀につき』をいつき氏に聴いてもらう。
奇しくもこの曲のサブスク配信予定日が、この旅の翌日だった。つまり、この車内に流すことすなわち、本邦初公開であった。
作品に対する他者の初めてのリアクションを、今か今かと息を潜める制作陣に包囲され曲を聴かねばならぬいつき氏には若干悪いことをしたとも思ったが、彼はその状況を喜んでくれたのでうれしかった。
電車でのアクセスも良好な来宮神社は観光客で溢れかえっていた。
驚いたのが社務所の佇まいで、それはまるでスタバのような瀟洒な建造物であり、実際カフェも隣接されていた。
個人的には、観光地で感じる商売っ気みたいなものにはあまり良い印象を抱かなかったりするけれど、そこまで徹底されると逆に気持ちがいいものだなどと思ったりした。
本殿の奥には立派な御神木があり、ご丁寧にしつらえられたフォトスポットで一枚。
その後は街中のパーキングに車を停め、熱海銀座周辺を街ブラ。
時刻は16時前。観光地は店の閉まるのがけっこう早い。部分的に行列のできている店があるものの、人の往来はかなり落ち着いた印象。
商店街の一角に、なにやら雰囲気のある路地を発見。
このあたりをすでに散策済みのちな氏によると、この場所で若い子らが一生懸命写真を撮っていたというので、我々もそれにならう。
なるほど、映える。
この写真は、前掲のコラボ作品のキービジュアルとして、告知等に使わせてもらった。
コラボといっても、打ち合わせやデータのやりとりなどの実質的な作業は、基本的にウェブツールのみで完結させることができる。
だからこそ、このツーショットが旅の思い出にとどまらず、ある種作品の一部として価値を持つように感じた。
曲のリリースに合わせて会う約束をしたわけではないが、結果として絶妙なタイミングだったなぁ、と。
夕飯を食い終わって19時前。夜の帳が下り、別れが迫る。
ラーメン屋から車のあるところまで15分くらい歩くのだが、この時の感傷は筆舌に尽くしがたい。
先を行くずーきん氏とちな氏の背を見つつ、いつき氏とぼそぼそ、おセンチな気持ちを共有する。
*
自分でも驚くくらい切なく感じるのは、彼らとはSNS上でつながったという経緯が、どうしても関係しているように思う。
端的に言えば、また会えるという保証がどこにもない。
住んでいる土地は聞いているが、正確な住所も、電話番号も、そして彼らの本名すら、俺は知らない。
ネット上でのつながりが途絶えてしまえば、その行方を辿るのは相当に難しい。これがリアルの友人であれば、実家を訪ねるとか、共通の友人に聞くとかできるんだけど。
むろん、それがあまりに極端な悲観とは自分でも思うが、別れ際のあの、急激に押し寄せてくる感傷には、多少なりとも理を与えてやらなくては、自分の身が持たないような気がするので。
儚いなぁ――しかしまあ、たかが&されどSNSであり、何もしていなければ、こんな風に想える人たちと巡り会うこともなかっただろうし。
余談だが、我々には「岩下の新生姜ミュージアム」を訪れたことのあるという名の共通点がある。
リアル・ネット問わず、少なくとも自分の周辺に、あそこへ行ったという話を、この人たち以外から聞いたことはない。
*
この晩、熱海に泊るといういつき氏&ちな氏とは宿の近くで、ずーきん氏とは熱海駅でそれぞれ別れ、俺は帰宅の途についた。
感傷的になりすぎるのは、あまり認めたくないけど――あるいは、加齢によるところもあるのかもね。
まあそんなとこばかりフォーカスしていてもアレだし、そのうちまた、次の機会について具体的に考えたい。
例にもれず、今回の旅行記もそれなりのボリュームとなりました。
最後までお付き合いの奇特な読者諸氏、そしていつき氏&ちな氏、ずーきん氏に、心より感謝します。
それではさようなり。
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