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【創作】最後のライブのあとで【スナップショット】


お疲れ様
 
ありがとう、来てくれて
 
とてもいいライブだったよ
歌も踊りも素晴らしかった
観客の人たちも
とても盛り上がっていたし
 
私の曲に興味がないんじゃなかったの?
 
そんなことはないよ
僕の趣味ではないけど
今まで君のライブに行かなかったのは
君に迷惑がかかるのが嫌だったから
 
そうだよね
本当にありがとう
もう週刊誌を怖がる日々もなくなるし
マスクをしなくても町を歩ける
いつでも自分自身でいられるはずなのに
多分最初は自分が自分でなくなったように
感じるんだろうな
 
君にとっては
明日から今までと全く違う生活になるね
分かるよ
 
本当に分かる?
きっとあなたには分からない
あのスポットライトが
目を焼き尽くすくらい明るいことも
私の歌と踊りで
観客が歓声を上げることの快感も
曲が終わった後の拍手が
どれ程心地よく耳に響くかも
どんなに小さなハコでも
今日ぐらいの会場でも
それは何も変わらない
そして、そういうものを
永遠に失うことが分かっていて
どうすることもできなくて
胸が張り裂けそうに
痛いことも
 
すまない
 
ごめんなさい
今とても感情的になっていて
そんなつもりじゃないのに
 
今日はゆっくり休んで
一人の方がいいね
 
いいえ、私を一人にしないで
ここにいて
私を傷つけるようなことを言って
そうでないと気が変になりそう
この今の痛みに耐えられない
 
そんなことはできないよ
 
お願い
 
何て言えばいいんだ
 
分からない
この活動をして
私に叶えられなかった夢は沢山ある
でも、私にとって本当に大切だったのは
そうした夢を叶えることじゃなくて
あの場所に居続けることだった
それが私が生きる意味だった
今本当に心が折れている
だからお願い
 
・・・それなら言おうか
君にとっての夢は終わった
これからは現実が始まる
それは君が言うような
非日常の輝きも歓声もない
灰色の世界だ
そして僕は
心の奥底で多分それを
喜んでいる
 
それはどうして?
 
君は僕にとっての夢だ
でも僕が君を必要としていた時に
君はどこにいた?
君が活動を続けるほどの
成果を挙げられない時に
僕はただ一人だった
そんな日々は終わる
僕たち二人は夢から覚める
多分君にとって憎む相手は
僕だ
 
いいえ
それはあなたの本音?
 
そうだ

そう
ありがとう、本音を
言ってくれて
そんな風にあなたが
辛い時を過ごしていたことを
私は知らなかった
そういう風に本音を言ってくれる人が
きっと私には必要なんだ
今分かったよ
一番近くで
偶像じゃない私を支えてくれた
あなたがそう言ってくれなかったら
私はずっとあの光に囚われていたまま
大丈夫、もう大丈夫
 
きっと君は恋しくなるよ
長い間そんな生活を
続けて来たんだから
 
きっと最初はね
でも、あなたと一緒なら大丈夫
 
僕は君のファンじゃない
今夜、あの人たちは本当に素晴らしかった
あの人たちの代わりには
僕は絶対になれない
 
そう、だから私はあなたを選んだ
私自身のもう一つの
人生を諦めるために
そして、あなたは誠実だから
幻を失った私が
光を失わないようにいられる
きっとあなたと一緒なら
私も誠実になれると思う
そう努力する
 
ありがとう
僕も努力する
感情的になってすまなかった
 
いいえ
ようやく夢から覚める準備ができた
あの音楽と歓声がこだまする舞台
あそこには愛と優しさしかなかった
ファンのみんなの愛が
確かにあったことを覚えているから
私は何かを失っても生きていける
今までバイトだってやってきたんだから
新しい生活にも馴れる
 
もう落ち着いた?
 
ええ、きっと眠れば大丈夫
これは夢だから
夢の中で眠れば現実に戻る
子供の頃
欲しくても手に入らなくて泣いた
きれいな宝石やおもちゃを
忘れるように
こんな痛みも忘れるようになる
 
君が夢から覚めたそばに
僕もいる
 
ええ
起きて、私たちはまた歩き出す










(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。

※過去の「スナップショット」置き場



今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


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