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“わたし”という神話 第10話「古代の叡智の破壊」

第1話   天地創造
第2話   人間の誕生
第3話   闇の誕生

第4話   堕天使降臨
第5話   悪の誕生
第6話   広がる恐れ
第7話   光と闇
第8話   堕天使による支配と偽りの光
第9話   宗教の誕生
第10話  古代の叡智の破壊
第11話  神になる堕天使

  10 古代の叡智の破壊

 堕天使の支配する国で、無知と偽りの神の下の考え方や風習が広まるのに何百年もかかったが、そのくらい長い時間をかけてやる必要があった。堕天使はどこまでも慎重だった。

 一方、外の地に住まう、古代の叡智を持つ人々は昔から変わらず、自然や宇宙と調和した、平和で満ち足りた、創造的な暮らしを続けていた。

 彼らは純朴であり、すべてに偏在する神と共に暮らし、性格も穏やかだった。自然の中に神を見て、祈りと共に生きていた。瞑想や神とつながる儀式を欠かさなかった。

 堕天使は一神教の神官の長として、そんな彼らをどうやってこちらの支配下に置くかを常に考えていた。堕天使は彼らが許せなかったのだ。堕天使は光を憎み、調和を嫌い、創造的な生を認めない。

 彼は長い時間をかけて、古代の叡智を持つ人々に、姿を変えながら、徐々に接近していった。

 時に怪我をした旅人として。

 時に飢えた農民として。

 時ににこやかに国の名物を売る善良な商人として。

 そして、神に仕える聖職者として。

 古代の叡智を持つ人々は、異国からやってくる人たちに徐々に慣れていった。

 多少の警戒はしていたが、素朴な旅人や聖職者の背後にいる、堕天使の意図や、その禍々しさを完全に見抜けてなかったのだ。

 そしてそもそも、古代の叡智を守る善良な彼らは、自分達の創造した調和の世界が、暴力や悪意に乱されることなどないと信じきっていたし、あらゆる人間の根底は「善である」と、心底から信じていたからだ。

 さらに、異国で信じられている神の“代理人”と名乗る聖職者たちの言っている言葉や態度だけなら、本気で愛と善を語る、穏やかな態度であったからだ。

 もちろん、聖職者として神に仕える者たちの多くは、神官長の衣を被った堕天使の意向を知らない。聖職者になり、神官の部下になる者たちの心情の多くは、純粋で思いやりを持つ素直な若者だったのだから、古代の叡智と共に暮らす賢い人々にも、見抜けないのだ。

 準備は整った。

 堕天使はそう確信すると、ついに攻勢に出た。

 と言っても、まだ直接的な武力行使はしない。堕天使は慌てない。決して急がない。確実に勝てる方法のためには、時間と、最大限の労力をかけることを惜しまない。

 神官長として君臨する堕天使は“たった一つ”の神を信じていない、古代の叡智と共に暮らす人たちを「邪教徒」と呼び、彼らは悪魔の使いだと、民衆に少しずつ言いふらした。

 焦らず、根気強く、その噂をあらゆるところで、あらゆる階層の人々に伝えた。何年も、何十年もかけて、世代を跨いでその噂を広め、恐れを植え付けた。

 古代の叡智を生きる人々が健康で強い肉体を持つの理由、それは“悪魔の力”であり、彼らがとても賢いのも悪魔の力であり、彼らがとても長生きなことも、すべて悪魔の力だと教えた。

 そしてこのままでは、真実の神に使える我々は、邪教徒と悪魔に乗っ取られるだろうと予言をした。

 邪教徒は人間を食う。

 邪教徒は子供をさらう。

 邪教徒は死後も地獄で人々を苦しめる。

 徹底的に、そんなイメージを民衆に植え付けた。

 女性や子供たちは恐れおののいた。だから男たちは、正義と愛と光の名の下に、邪教徒を倒さないとならないと本気で思った。

 殺される前に、殺せ。

 無知が生んだ洗脳による、純粋な暴力装置がここに誕生した。

 このようにして、古代の叡智と共に暮らす、純粋で、素朴で、争わず、神の恩恵に感謝する祈りの民の暮らす地域へ、暴力的に支配する侵略が始まった。

 堕天使の分身である神官長自ら先頭に立ち、王とその軍隊を指揮した。

 彼は戦士たちに高らかに告げた。

 邪教徒を倒したものは神から永遠の祝福と死後の天国が約束されるのだと。そして、罪ある者はその行いによって許されて天の国へ行けるのだと。

 邪教徒を倒すための正義の軍隊は、愛国心に溢れた若い男たちと、これまでの犯罪行為が邪教徒を殺すことで神から免除されるという触れ込みを信じた犯罪人など、多くの男たちが志願し、軍隊は大部隊となった。

 邪教徒は人間ではなく、悪魔の使いなので、殺すことで、神の戦士は光の称号を得ることになる。悪魔の苦しみは神の喜びなので、苦しめて殺すことがむしろ正義で善なる行為だと、神官長は皆に伝えた。

 すでに内外に内通者がいて、“邪教徒”と呼ばれた善良な人々の暮らす地域に、あっという間に愛と正義という名の凶器と狂気を携えた光の戦士の軍隊が攻め込んだ。

 戦士たちは、正義と愛と神のために、残虐の限りを尽くして、純朴な人々の暮らしを破壊し、命を奪い、婦女子を襲い辱め、奴隷にした。

 彼らになす術はなかった。過去に戦で攻めてきた軍を撃退したことは何度もあったが、今度はなんと言っても人数が違う。そもそも、古代の暮らしをする人々は、人口も少なく、大集団で暮らすことはない。

 その必要がなかったのだ。自然の中で悠々と、家族単位で暮らし、年に数回、冬至や春分の日などに、その地域の者たちが祈りの場に集まり、収穫物を持ち寄り、儀式と祭りを行うが、せいぜい100名程度だ。

 古代からずっと、それくらいの規模の集落が離れた場所に点在としている状態で彼ら同士の交流はあまりなかったのだ。

 そこに大都市からやってきた武装した何千人という大部隊が、自身の信仰する神への正義感と、悪魔への憎しみを募らせてやってきたのだ。

 堕天使に操られた神官の率いる軍隊によって、古代の叡智と共に暮らす人々はその暮らしを蹂躙され、破壊された。

 古代から続いていた祈りの祭壇は破壊され、そこに彼らの宗教のための「教会」という立派な建造物が建てられた。集会をしたり儀式をする山やその麓には、大きな岩や巨木などがあったが、それは削られ、切り倒された。

「お前らの神は弱い。俺たちの信じる神を信じれば幸せに暮らせる」

 兵隊たちは征服した人々にそう告げた。

 そのように、神官によって操られた国は境界線を広げた。

 どんどん国は大きくなった。点在していた古代からの叡智を引き継ぐ人たちは殺され、女性たちは奴隷にされ、辱めを受け、子供を産ませられた。生まれた子供たちは奴隷にとなるが、古代からの言葉を教えることはなく、彼らの国の言葉しか使わせなかった。

 それでも一部、生き延びた者たちはいて、彼らは高い山奥でひっそりと暮らすことを余儀なくされたが、地上の豊かな土地は、神官長の意のままに動かされる「国」によって支配されて行った。

つづく

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