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「魔法の果実」

「魔法の果実」


昔々あるところに、とても立派な王様がいました。

王様は優秀で、公平で、分け隔てなく国民を愛し、いつも国の人たちの想い、自分の幸せよりもみんなの幸福を考えた政治をしていました。

だから王様は国の人たちからとても慕われていて、とても人気がありました。

大人から子供、お年寄りまで、みんな王様を好きで、信頼していました。

だから国民たちは、王様が自分達を信頼してくれているように、王様を信頼し、尊敬し、優しい王様に依存せずに、自分達も率先して家族や地域を守り、一緒に国を作り、平和を作る努力をしました。

もちろん、日照りの時や飢饉や悪い病気が流行ることもありました。しかし、その度に王様は少しずつ蓄えていた食糧をみんなに配り、自分も一緒に苦しみ、耐えて、災難を乗り越えました。

そんな王様の政治に、国は繁栄していきました。

しかしある時、隣の国から「商人」と名乗る男がやってきました。

「さあさあ、この果実を食べると、嫌なことをなんでも忘れられるよ!」

商人が売っていた果実は、とても甘くて美味しい果実でした。しかし、その果実は美味しさだけでなく、食べると確かに気持ちがなんとなく幸せな気分になり、嫌なことを忘れ、悩みや心配事がなくなるという、魔法のような果実でした。

国ではその果実が大流行しました。国民みんな、その果実を食べて、嫌なことを忘れ、心配事や不安もなくなりました。

しかし、作物の取れなくなる寒い冬のことや、春先の荒れた海の漁のこと、いつ来るかわからない天候の変化などに心配もしなくなったので、人々は前よりも一生懸命に働かなくなりました。

やがて、冬が来ると、食物が足りなくなります。不思議な果実も、収穫時期は終わり、商人はやってこなくなりました。

食べ物がなくなり、そこで人々は、隣の人から奪ったり、騙し取ったりすることをするようになります。彼らは「我慢」や「忍耐」ができなくなっていました。いつも、簡単に満たされていたので、すっかりと目的を持って働くことができなくなったのです。

そしてそれよりも深刻だったのは、彼らは「取られた人の気持ち」の気持ちを考えることができなくなっていたことです。

王様はお城の中でその様子を見ていました。

王様は果実を食べませんでした。王様は賢い人だったので、その果実が「人から考える力を奪う」果実だと知っていたのです。

ですから何度も国民に伝えました。食べてはいけない、危険なものだと。

しかし、国民は王様の言うことより、目の前にある不思議な果実に夢中でした。

やがて、王様の部下たち、兵士たちも不思議な果実が出回り、みんな食べ始めました。

不思議な果実の種を植えて、国でもたくさん栽培され、翌年の夏には不思議な果実がたくさん実り、人々はまたひと時の優雅で満たされた気持ちを味わいました。

王様はもうどうすることもできませんでした。国の人は、むしろ「果実を食べない王様」の方が変人扱いされるようになりました。

なぜなら全員が「あまりものを考えれない人」なので、物事をしっかり考えれる王様の方が珍しい人になり、それは「考えすぎだ」「細かい性格だ」「気にしすぎだ」などの非難につながりました。

やがて王様のお城で働く人や、政治をする部下たちもみんないなくなりました。みんな不思議な果実を作り、実らせ、それを食べることに夢中でした。

やがて人々のやりとりは、すべて果実が中心で行われるようになりました。

例えば、パンを食べるのなら果実を1つとか、家を建てるのなら、果実を100個とか、そういうふうに果実は食べて味わうだけじゃなく、生活にかかせないものになりました。

不思議な果実は「魔法の果実」と、国民から言われるようになりました。

なぜならその果実さえあれば、どんな罪を犯しても、果実がたくさんあれば許されるし、逆に果実がないとそれだけで生活ができなくなり、そういう人は必ず果実を奪おうと暴力事件を起こすからです。

王様は国中の人たちから気難しい変人扱いされ、一人ぼっちでお城にいました。自分のお城で、細々と麦や野菜を育て、ひっそりと暮らしていました。

しかしある時、

「あんな広い場所に一人で住むなんておかしい!」

と誰かが言い出し、

「俺たちと同じものを食べないなんて間違ってる!」

と、みんなが言い出しました。

王様はお城を出て、食べたくないと言いましたが、でも実は王様も、

「ひょっとしたら自分の方がおかしいのかもしれない」

と思っていたので、果実を受け入れました。

魔法の果実を食べた王様はとても幸せな気分になり、寂しさも不安もなくなりました。

国民たちは王様が同じように果実を食べてくれたのでとても喜びました。

王様はそれから、みんなと同じように果実を食べて、育てました。王様はそれから、みんなと同じように、あまりものを考えられなくなり、人の気持ちを想像できなくなりましたとさ。

終わり

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