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平塚市美術館「こどもたちのセレクション」エピソード15

●色がキレイ、もうそれだけでときめく
(写真は本稿で紹介する5年生のお子さんの作品です)

・関主税『鳥』(1971年 219.0×127.5cm 彩色・紙)
 (平塚市美術館さんの「所蔵作品データベース」で画像を見ることができます)
 https://jmapps.ne.jp/hiratukabi/index.html

 二羽の白鷺が水面でむつみあう、とても色合いが美しい作品です。白鷺の姿と空の雲のが水面にも反映していて、天地全体が同質の色合いで一体となり、幻想的な画面となっています。
 それにとても大きい作品で、絵の前に立つと、輝くブルーグリーンの世界に包まれた気持ちになります。

 「結婚しようって言ってるんじゃない?」とおしゃまな感想を言ってくれた子もいました。ご明察! これは求愛行動をしているのだそうです。

 学芸員さんによると、この作品は、美術館で所蔵しているけれど、あまり展示されることがなかったそうです。珍しく展示された期間に鑑賞ツアーがあり、子どもたちが「きれい」「すてき」と好んでいました。「我々学芸員と違って、この作品に子どもたちはこういう反応をするのか!」と、その様子に意外さを覚えたそうです。

 今回の展覧会「こどもたちのセレクション」では、来場したお子さんたちが一番気に入った作品にシールを貼ることができるパネルが、展示室の外に設置されています。大まかな年齢でシールの色を変えて配布しています。
 会期前半から、この作品にはどんどんシールが貼られていました。小中学生の割合が多い様子。9月19日の会期終了時には、どうなるか? 他にパネルを増設した作品もあり、目が離せません。

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●自分でも日常的に描く経験をしている子が鑑賞すると

 今回の会期中に、主催している子どものワークショップ「アートケアひろば」のお子さんたち数名と観覧しました。どの作品にシールを貼る?となった時、ある5年生の子が「色がきれいだし自分の名前と同じだから」と、この作品を選びました。
 観覧した数日後のワークで描いたのが、「イルカ」の水彩画です。色を繊細なグラデーションにと、丁寧に作っていました。

 赤ちゃんの頃から、もう10年以上、通ってくださっているお子さんで、ここ1年ほどは、水彩やパステルなどで「紙の上で色を作る」ことに没頭していました。「名前が一緒だから」とこの作品を選んでいましたが、本人の創作の流れに呼応しての選択だなぁと思います。

 アートケアひろばの記録用紙に書いてくださったお母様のコメントより:
「今回描いたイルカの絵に出てくる波は、先日平塚美術館の鑑賞で一番のお気に入りだった作品に描かれた雲に影響を受け、自分はそれを波にして描いてみたいと思ったようです。他の方の作品を観る機会や展覧会の影響ってすごいですね」

 日常的に創作活動していない子も、鑑賞を通じてさまざまな好影響を受けますが、創作活動している子が鑑賞すると、如実に変化が現れることがあります。
 ただ、変化が現れるのは、その子の制作の流れや軸があってこそ」のようにも見受けられます。漫然と描いているのではなく「自分で課題意識を持ちながら創意工夫を続けていると、作品との出会い方が一段と深い。そんな様子を感じます。

 この作家さんは、先達のどなたの影響を受け、美術史においてどんな流れを汲んでいらっしゃるのか、大きくなったらそのあたりも紐解いてもらえたら、一段と絵画への理解が広がると思います。


(本稿は美術館ご担当者様に確認いただき掲載しております)

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