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●乳幼児鑑賞会の活動で、とってもありがたい「2人の親」と思える美術館さん

 「0歳からの鑑賞会」をスタートして11年目、ワークショップ活動は31年目に入りました。たくさんの方々のお力添えで、続けることができています。
 人の目に触れる文章を頼まれもしないのに書くのは、私にとっては勇気がいることなのですが、「10年続けたのだから、そこで感じたこと知ったことは、どなたかのお役に立つかもしれない」と自らを鼓舞し、書き記すことにします。

 初めて0歳からの鑑賞会を手がけたのは、2012年5月12日、茅ヶ崎市美術館「韮崎大村美術館所蔵響きあう女性美術家の世界観」でした。

 貸し出しアトリエ室を会場に、赤ちゃんから小学生のワークショップを開催していて、学芸員さんと時々お話することがあります。ある日、当時在職されていた学芸員さんから「今度、女子美術大学卒の作家さん方の展覧会をするんです。作家も女性、ご来場も女性の方が多いでしょうし、赤ちゃん連れの方のために美術館ができることってなんでしょう?」と質問を受けました。

 学芸員さんは「おむつ替えシートとか、授乳室とかですかね?」とハードの面を気にされていました。10年前、まだそれらが普及していなかった時代なのです! 
 「それも大事ですけどソフト面というか…赤ちゃんも鑑賞すると思うんです。赤ちゃんの鑑賞会はどうでしょう?」と口にしていました。「赤ちゃんが鑑賞?!」と驚かれましたが、お子さんを出産して間もなくの方で「やってみるのもいいかもしれませんね」と、館長さんにすぐお声かけしてくださいました。

 ワークショップで実感してきた、「乳児は言葉を話さなくても様々な方法でコミュニケーションをとっていること」「乳児にも好みがあること」「保護者が乳児の気持ちや考えを想像して働きかけることは親子関係を良好にする機会になり得ること」などをお話してみました。

 じっと聞いてくださった館長さんは「おもしろそうじゃない、やってみようよ」その一言で、「0歳からの家族鑑賞会」がスタートしました。バラエティに富んだ企画展で、たくさん鑑賞会をさせていただきました。

 そうこうするうち、以前からワークショップをご依頼くださっていた平塚市美術館さんでも「うちでも鑑賞会を!」と、2012年11月に鑑賞会をスタートしました。
 平塚市美さんでのワークショップは、3回1クールで毎月というペースでしたので、各シリーズの2回目に鑑賞を入れました。それだけで年4回、鑑賞会ができます。さらに鑑賞ツアーを行うなど、平塚市美さんでは「どんどんやりましょう!」と言ってくださって、数多くご一緒しています。

 私は、乳幼児の鑑賞会を始めてまもなくの頃から、子どもの作品への興味の持ち方は、社会性や感情、言語など、発達とかなり関連があること、それを解き明かすことで鑑賞の場においても育児支援ができると感じ、研究しています。
 もとになるのが、ご家族と書いた「記録用紙」です。

 鑑賞会以前から、ワークショップで「お子さんのアートと成長の記録」を書いてプレゼントしていまして、「育児に悩んだときに振り返ってみたら元気が出ました」「思春期に子どもと、しみじみ見直しました」と、嬉しいメッセージをいただいていました。そこで、鑑賞会でも同じように記録をプレゼントすることにしました。たった1回でも、心に残る幸せなひとときとしてご家族に残せますように。

 記録用紙は、ご家族とお子さんの宝物になればと思うので、まずはご家族がお子さんの様子について感じたことを記入していただき、次の回までに私たちからお返事を書く、という流れです(単発の時は私たちからのコメントなしです)。

 ご家族の許可を得てコピーを保管します。作品ごと、年齢月齢ごとに反応を入力し、蓄積していきます。入力と集計作業は結構膨大なので、私1人ではできずスタッフやアルバイトさんとコツコツやっています。そして新しい企画などの際、集計し、特徴の抽出などをして考察した内容を、美術館や関係先へ提供しています。

 さて、鑑賞会を始めて1年半経った2013年12月。平塚市美術館の館長さんへ、記録を考察して作品を挙げた「子どもたちが選んだ名品展」という企画書を出しました。今から考えると無鉄砲! でも館長さんは「冨田さん、これとてもおもしろいわね。共同調査ということで展覧会に向けて取り組みましょう」と言ってくださって、所蔵品展「赤ちゃんたちのセレクション」が2015年に開催されました。

 その後も鑑賞会やワークショップを継続、担当学芸員さんから「第2弾をやりますよ!」とお声かけいただき、現在「こどもたちのセレクション」が開催されています(2022年9月19日まで)。

 こうして、各地の美術館さんにも興味を持っていただいて、今に至ります。
 茅ヶ崎、平塚、両館の館長さんが揃って、館外の私にも分け隔てなく新しい提案を「いいね、おもしろい」と、即断即決で実行に移されたことが、とても印象に残っています。館長さんとは、こういうものなのだ、すごいなぁと感じました。

 柔軟に、美術館にとって良いと思うことはどんどん取り入れていく。子育てする人や小さい子どもたちにも美術館を身近に感じてもらおうとされている。そんなところが共通していらっしゃいました。

 そして学芸員さんや職員の皆様との暖かい連携が、何よりありがたい。続けて来られたのは「美術館を子どもたちの居場所に!」という思いで繋がっていたからだと思います。

 茅ヶ崎市美術館さんと平塚市美術館さんは、私の乳幼児鑑賞活動にとって「生みの親・育ての親」のような存在です。


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