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材料力学から始まる変形理論 -5-

材料力学を起点とした変形理論に関する連載記事。物理的な「変形」にまつわる理論を深掘りします。

前回は材料力学の観点から「曲げ」「ねじり」の現象を取り上げて、その詳細について深掘りしました。

今回は数値解析の分野でもよく使用する「主応力」と呼ばれる考え方を取り上げます。応力やひずみは一般的に複数の軸方向に対する数値(成分)を持ちます。まずはこの辺の話から始めていきましょう。

3次元の応力とひずみ

応力とひずみは垂直成分とせん断成分に分かれます。ここでは主に応力を取り上げますが、垂直成分とせん断成分を「σ」「τ」のシンボルで表記します。

荷重を受けている3次元の物体内部の応力状態を直交座標系で表現すると、下記の通りになります。各面において1つの垂直応力と2つのせん断応力が作用することが分かります。これはひずみでも同じことが言えます。

実際の構造部材のほとんどが3次元の応力状態になるので、弾性範囲において成立するこの関係式は重要な意味を持ちます。

応力やひずみを明確に決めるには、内力が発生する面と方向を指定する必要があります。せん断成分には共役性が成立するため、2つのせん断成分は基本的に同値ですが、意味が通じるように両者を区別しています。

3次元の主応力の考え方

面と方向を区別するために座標軸の名称を用います。第1添字で面の法線方向を表し、第2添字で作用方向を表します。

ここで、座標軸が回転するとどうなるでしょうか。成分の値は座標軸を基準に決めているので、座標軸が回転すれば成分の値も応じて変化します。このことを「座標変換」もしくは「回転変換」と言います。

回転変換を進めていくと、あるタイミングでせん断成分がゼロになる状態が見つかります。擬似的に引張または圧縮だけが生じている状態です。その際の応力の垂直成分のことを「主応力」と言います。

座標変換を通して応力成分は変化しますが、主応力は座標変換に依らない固有の値を持ちます。3次元では3通りの主応力が存在し、最大主応力・中間主応力・最小主応力と呼びます。

成分表記で見ると全部で9個になるため、全てを確認するのは面倒です。主応力は現在の応力状態から最も影響度の高い部分を取り出して、それを定量的な観点で議論する際に役立ちます。

主応力と固有値問題

3次元の応力状態から主応力を解析的に求める手順を示します。今回は計算式も長くなるため、順番を追いながらノートに整理しました。

9個の応力成分を整理する際に、数学的に「行列」の表記が役立ちます。行列および行列式の詳細はここでは割愛します。

方向余弦が全てゼロになることはあり得ません。主応力は座標変換で純粋な垂直成分だけになる状態を指すためです。明確な解を持つには、係数行列の行列式がゼロになることが必要になります。

この計算の流れは数学で言うところの「固有値問題」と同等です。今回で言えば、主応力が固有値と等価な意味を持ちます。固有値問題は材料力学に限らず、様々な工学の問題で登場する方法でもあります。

最後に記載した3つの不変量ですが、これも座標変換に依らない固有の値です。一緒に理解しておくと良いかもしれません。

おわりに

今回は「主応力」について見ていきました。主応力は実験よりも解析に端を発した考え方です。そのため、数学の話がどうしても絡んでしまいますが、便利に感じる部分もまたあります。

数値解析では、主応力は解析結果を迅速に分析する際に使える評価方法です。これまでは単軸方向のみを考えることが主でしたが、一般的には3次元の複雑な形状に対して変形問題を扱うためです。

3次元の情報をどのように扱うかは、問題次第で変わりますが、このような考え方もあるということを頭に留めて頂ければと思います。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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