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21arts|クールベと海 展― フランス近代 自然へのまなざし(パナソニック汐留美術館)

19世紀フランスを代表するレアリスムの巨匠ギュスターヴ・クールベ(1819−1877)の展覧会に行ってきました。
どうどうと音が聞こえてきそうな絵と独白のようなテキストが印象的なメインビジュアル。22歳の時に初めて海を目にしたというクールベは、1860年代以降、何度も波を描きます。

反骨精神を養った生まれ故郷

西洋美術史でよく紹介されるクールベ作品は、《オルナンの埋葬》(1849)や《画家のアトリエ》(1854-55)、《出会い(こんにちは、クールベさん)》(1854)。田舎町の葬式を「歴史画」として巨大な画面に描き、「現実的寓意」と称して当時の社会を批判し、道中で会ったパトロンに帽子を脱いで挨拶をさせる、そんな挑発的な作品で知られています。
加えて、1855年の万国博覧会のために描いた作品を出品拒否され、会場内に小屋を建てて世界初の個展を開催した人物でもあります。う〜ん、ロック!!

クールベの生まれ故郷は、フランスのフランシュ=コンテ地方オルナン。この地方は皇帝への臣従義務を免除され、17世紀にルイ14世の侵略を受けても自治が続いていたそうです。
彼の性格は、こうした地理的な要因も関係しているのかもしれません。

野生の動物と雪景

クールベは地元の険しい山々や水辺の風景とともに、自身も楽しんだ狩猟の風景を多く描いています。森を駆ける鹿、それを追いかける猟犬、しなやかな筋肉を持った馬といった、力強く荒々しい野生の動物たちに惹かれていたのでしょう。なかでも雪中の狩りを描いた作品は、環境の厳しさとともに清廉な冷たさや静けさが感じられます。

クールベ以前の海、同時代の海

海景画は、黄金時代を迎えた17世紀のオランダで盛んに描かれるようになりました。穏やかな海に大型船が浮かぶ、海上貿易がもたらす国の繁栄を表現するものです。

18世紀には、自然そのものに関心が向き、人間がコントロールできない側面が描かれるようになります。ここで登場するのが、「崇高」「ピクチャレスク」という概念。前者は嵐の海や峻厳な岩山、海難事故といった、畏怖の対象でもあり美しさも見出せるもの。後者は絵のような風景、景観美を指します。
(展覧会では、この辺りの作品から紹介されていました)

そして19世紀になると、鉄道網が発達し、中産階級の人々は海のレジャーに夢中になりました。日傘にドレス姿の女性や紳士が浜辺にテーブルセットを出してくつろぐ様子を描いたウジェーヌ・ブーダン《浜辺にて》や水着(アメリカのもので、資料として出品)からは、海と人々との親密な関係が見て取れます。
同時代の他の作家たちにとって、海は晴れ晴れとして、楽しい気持ちを抱かせるものでした。

異様な波への執着

一方のクールベ。海を主題にした彼の出品作品は11点、そのほとんどが国内収蔵作品です。新潟、山形、富山、東京、兵庫、広島、愛媛、島根、そしてフランスのオルレアン美術館から海や波を描いた作品が集められました。
日本人、クールベ好きなんですね! ミレーも好きですよね、国民性に合っているんですかね。

クールベの海は、奇妙というより異様。山生まれ山育ちのクールベにとって、海、特に黒々としたうねる波は衝撃的で、とても奇妙なものに映ったのでしょう。その存在を確かめるように、何度も何度も、波だけを描いています。
起き上がる波は野生動物の筋肉、白い波頭は雪、そして空と岩肌。雪中の狩猟風景で培った表現が、波の連作にも活かされているようでした。

海の表現として近いと感じたのが、現代アートチームの目による《景体》(2019)。触ると飲み込まれそうで近寄り難い、得体の知れない恐ろしさをクールベも感じていたのかもしれませんね。

モネの海景が絶品

睡蓮でおなじみの印象派の画家、クロード・モネも海の風景をいくつか描いています。
私がときめいたのが、愛媛県美術館所蔵の《アンティーブ岬》(1888)。遠くに小さく山脈を望む海辺に一本の松がひょろりと斜めに生え、どこか日本の風景のようにもみえます。揺れる水面とそよぐ葉は、海辺を吹き抜ける風や潮の香り、水飛沫、陽光のきらめきを感じさせました。

「海」から想起されるものは、人それぞれ。海水浴や波乗り、日本海の荒波、いつまでも眺めていられる凪の海、海に沈む夕日、漁港や魚市場、水族館。
自分にとって海とはどのような存在か、考えてみたくなりました。

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ジョルジュ・ルオー生誕150周年!

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パナソニック汐留美術館といえば、ジョルジュ・ルオーのコレクションで世界的に知られています。今年はルオー生誕150年の節目であり、その一環として所蔵作品の《マドレーヌ》(1956)が撮影可能でした。オレンジ系統の暖かな色彩と微笑みが、ルオーを祝福しているようですね。おめでとうございます!

Tokyo Art Navigationでもルオーを取り上げているので、こちらもお読みいただけると嬉しいです。

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