見出し画像

『テンシンシエン!』第24話

◆「メリハリ?」

 せっかく二つの就職支援サイトに登録しているのだから、もう少し効率の良い使い方ができるのではないかと考えてみた。その際、就職支援センターに通い始めた頃、カウンセラーの山泉さんに言われた言葉がヒントになった。

「職種に合わせて、内容の強弱を変えたりする工夫が必要になるでしょう。」

 改めて私の経歴書やキャリアシートを見てみる。
・・・まるで大会社をリストラされた面倒くさいおやじが、昔話を自慢しているようなメリハリのない内容・・・これではダメだ。
 そこで、就活の入り口となる経歴書やキャリアシートの書き方を変えることにした。

 私はもともと技術屋で、大学院では情報工学を専攻していた。今風に言うとデータサイエンスと言うらしいが、入社当時は、FORTRAN(フォートラン)やCOBOL(コボル)を使って、経理システムとか受発送システムとかを作っていた。その後もしばらくは、システム課に籍を置き、社内インフラの構築の仕事を続けていたのだが、当時所属していた会社が、ネットショップを開設したいとなって、そこから新規事業に関わることになった。
 当時、32歳だった私は、システム屋でインターネットの知識があるという理由だけで、異例の速さで管理職に昇進し、ネットショップ事業の責任者に抜擢された。学生時代から、ECサイトの構築と運営には興味があったので、密かに勉強していたことが幸いした。サイトの開設に関する細かな業務、例えば、基幹システムの構築、信販会社とのシステムリンク、サイトのデザインといったような仕事は、特に難しくもなく、周りが驚くほどの速さで完成させることができたのだが、事業責任者として必要なマネージメント、つまり金や人の管理に関しては、全くと言っていいほど知識がなく、”走りながら考える”・・・いや、”走り方を学びながら走る”と言ったほうが的確であろう、そんな全く余裕のない環境で、短期間でしかも強制的に経験させられることになった。ただ、その時に新事業の設立や経営の面白さを知り、この仕事がターニングポイントとなって、私は新事業関係の領域に、軸足を移すこととなった。

 その後、私はいくつかの会社を渡り歩き、様々な業種で新事業や新サービスを立案、事業化していった。中でも思っていた以上にうまくいったのは、そうあれだな・・・駅でスープを専門に販売するあのお店とか、携帯でその時の気分を入力すると、気分にあった紅茶やコーヒーが届くあのサービスとか・・・日本で初めてタッチパネルで注文できるあのレストランのプロデュースは面白かったな・・・当時は回線速度が遅くて苦労したんだ。最後のプロジェクトはモノづくり関連のECサイトで、デジタルデータと使用環境をアップロードすると、構造設計と素材の最適化をAIが・・・おっと、これはまだ言ってはいけない。退職時の守秘義務契約に反するな。

 まぁそんな感じで、私にはシステム屋と起業家といった二つの顔がある。今の書類はどちらもたっぷりと書いてあって、私が何者かがわかりにくい内容だ。ここは割り切って、この二つの顔をうまく使い分けたほうが、効率の良い再就職活動ができるだろうと考えた。

 さて、登録した二つの就職支援サイトの傾向を分析してみる。

 まず、両サイトから届くメールの中身を見ると、以前と変わらず、支援VIPは”ものづくり”業界向けの”DX”コンサル、キャリフロは”幅広い業界”への”新事業企画”のコンサルといったように、業界や領域は異なるもののコンサルに関する紹介ばかり。これは、希望年収を比較的高く設定しているため、このゾーンに当てはまる職種がコンサルが多いということと、私の職歴や希望する職種にも、”新事業”や”事業企画”、”経営企画”と言ったキーワードが多いことが理由であろうと推察した。そこで両サイトの求人検索機能を使って、職種や業界の求人登録の傾向を比較してみた。
 なんとなく予想はしていたが、支援VIPは、製造業、いわゆるメーカーからのエンジニアや研究開発職の求人が多く、キャリフロは、新サービスなどの事業開発系コンサルタント、つまり圧倒的にコンサル会社からの求人が多い。

「なるほど、だから山泉さんはこの二つのサイトを勧めてくれたんだな。」

 そこで私は、両サイトに登録してある経歴書やキャリアシートの書き方を作為的に変えることにした。
 つまり、支援VIP向けには、”エンジニアとしての成果”を、より具体的に詳しく表現した。そして、キャリフロ用には、新事業の企画や、その運営実績、加えて社外との協業、つまりオープンイノベーションをどれほど広くたくさんの国や企業と行ったかなど、”マネージャーとしての手腕の高さ”を強調してみた。

 さぁ食ってみろ・・・


■第25話へつづく


この記事が参加している募集

就活体験記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?