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離婚後共同親権を導入する「民法等の一部を改正する法律案」についての充実した審議を求める会長声明(群馬弁護士会)

4月30日、群馬弁護士会が、「離婚後共同親権を導入する「民法等の一部を改正する法律案」についての充実した審議を求める会長声明」を発表しました。

「良識の府」である参議院においては、本改正案の国会提出までの異例さや本改正案に内在する問題点を真摯に受け止め、これらを解消するため、現実に事案対応にあたる裁判所や弁護士らの声にも誠実に耳を傾けて、衆議院において可決された法案を抜本的に修正することも視野に入れて、充実した審議・採決を行うべきである。

共同親権について声明等を出した弁護士会は以下の通りです(4月30日現在)。
日本弁護士連合会、札幌市弁護士会、函館弁護士会、群馬弁護士会、千葉県弁護士会、愛知県弁護士会、岐阜県弁護士会、金沢弁護士会、福井弁護士会、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会、広島弁護士会、福岡県弁護士会

群馬弁護士会 (gunben.or.jp)

※noteへの掲載にあたり、読みやすいように項目間の改行(余白)を追加しています。


離婚後共同親権を導入する「民法等の一部を改正する法律案」についての充実した 審議を求める会長声明

1 2024年3月8日、いわゆる離婚後共同親権の導入を含む「民法改正等の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」という)が閣議決定され、国会に提出後、同年4月16日に衆議院にて可決され、同月19日から参議院での審議が開始された。


2 本改正案については、国会提出に至るまでの経緯について、以下の極めて特異な事情があった。

(1)本改正案の閣議決定に先立ち発表された「家族法制の見直しに関する要綱案」は、これを審議してきた法制審議会家族法部会の審議過程において複数の委員が反対を表明する中で、全会一致の慣例を破って採決がなされ、委員21名中3名が反対、部会長を含む2名が棄権し、多数決で承認されるという異例の経過をたどっている。

(2)また、パブリックコメントの結果について、法務省は、8000通を超える一般個人の意見のうち3分の2が共同親権に反対・慎重だったとして割合を示したが、具体的な意見については全てを開示しておらず、パブリックコメントに対する不透明な対応という点でも異例であった。

(3)さらに、裁判所も、令和5年2月のパブリックコメントにおいて、「父母の双方を親権者とするか一方を親権者とするかについて、要件該当性を判断し、次に、父母の一方を親権者とする場合には、父母のいずれかを親権者と定めるかを判断するという2段階の審理を要する上に、前者の争点を審理する段階では後者の争点について調査官調査を実施することができずに紛争が長期化するおそれがあ」るとの懸念を示している。


3 本改正案の国会提出に至るまでの経緯について、前項のような特異な事情があった原因は、本改正案について、以下のような極めて困難かつ深刻な問題が内在しているからである。

(1)本改正案では、父母の合意によらない場合でも共同親権が定められる可能性がある(本改正案819条2項)。
 このような「非合意・強制型」の離婚後共同親権の下では、進学、転居、医療など子に関する重要な事項を父母の協議で決定することが必要となるが、離婚に至った父母の間では高葛藤状態にあり、すでに信頼関係が損なわれていることが多く、協議が円滑になされず意思決定が停滞し、子の利益が害されるおそれが大きい。
 この点、本改正案では、「子の利益のため急迫の事情があるとき」及び「監護及び教育に関する日常の行為」については単独の親権行使を認めているが、そもそも「急迫の事情」や「日常の行為」の範囲が不明確であり、当該範囲をめぐって紛争が生じ、紛争が長期化する可能性もある。
 子の重要事項に関する意思決定について家庭裁判所の関与が激増することが見込まれる一方で、家庭裁判所の人的・物的体制の強化がいまだ不十分である現状で拙速に離婚後共同親権が導入されれば、適時適切な判断ができなくなり、子に不利益が生じる結果となってしまう。

(2)本改正案では、親権の単独行使の可否、単独親権と共同親権のいずれを選択するかについて父母の意見が対立した場合、家庭裁判所が決定することができる旨を定める。
 しかし、家庭裁判所の負担を考えれば、速やかな紛争解決を期待することは困難である。
 そして、裁判所が、令和5年2月の異例のパブリックコメントにおいて、離婚後共同親権の導入について、重大な懸念を示していることは前述の通りである。

(3)本改正案では、虐待やDVの事案について、裁判所は父母の一方を親権者と定めなければならないとしている。
 しかし、虐待やDVは密室で行われることが多く立証が容易でないため、裁判所が虐待やDVの存在を認定しにくく、ともすればこれを看過して共同親権を命ずる結果も生じかねない。特に精神的な虐待やDVでは客観的証拠の取得が困難なため、そのおそれはより一層強い。
 また、裁判所が関与しない協議離婚においては、DV加害者が離婚に応ずる条件として共同親権を要求した場合に、被害者が早期の離婚のためにこれを受け入れざるを得ない状況に追い込まれるおそれも大きい。
 このように虐待やDVの事案でも共同親権が選択されてしまう可能性があり、その場合、離婚後も虐待やDVの加害が継続し、被害者が危険にさらされるおそれは非常に大きい。
 「父母の双方の真意に出たものであることを確認するための措置」を講じたとしてもこのおそれが無くなるものではない。


4 本改正案の国会提出までの特異な事情は、本改正案提出までに、前項の問題が解消されなかったことを意味するものである。
 これらの問題の議論は、国会に委ねられたが、国会審議の場では、国民の代表者である国会議員によって、これらの極めて困難かつ深刻な問題を解決するために、知性に富んだ充実した審議・採決が行われなければならない。
 ところが、衆議院では充実した審議・採決がなされたとはいい難く、本年4月16日の衆議院本会議における採決では、与党議員の中から、「審議が拙速であった」として、造反者が出る状況であった。
 以上の経緯に鑑みて、「良識の府」である参議院においては、本改正案の国会提出までの異例さや本改正案に内在する問題点を真摯に受け止め、これらを解消するため、現実に事案対応にあたる裁判所や弁護士らの声にも誠実に耳を傾けて、衆議院において可決された法案を抜本的に修正することも視野に入れて、充実した審議・採決を行うべきである。

2024年(令和6年)4月30日
会 長 関 夕三郎


各地の弁護士会の声明については、こちらをご覧ください。


その他、離婚後共同親権に関する声明などは、こちらにまとめています。


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