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起業&エンジェル投資で見えた特許出願の最適解

おそらく日本で一番スタートアップ・ベンチャーの知財活動支援をしているarisadaです。
これまでにLINEとメルカリの知財立ち上げに従事し、現在は複数のスタートアップ・ベンチャーで知財活動立ち上げを支援しています。

先日、御縁を頂いたスタートアップにエンジェル投資をさせていただきました。
エンジェル投資の体験からスタートアップにおける特許出願の最適解が見えたので書き残しておきます。
(実は事業法人も持っていて、その観点からも同様の結論に至っているのですが、起業ネタは別のタイミングで書きたいので、エンジェル投資ベースで書きます。)

投資先の選び方

ここは色々な媒体でノウハウが紹介されているので割愛しますが、最終的には経営者のドライブ力という結論が多い用に思います。
いくつかの会社と面談させていただきましたが、ぶっちゃけわからんです。初めて会った人がどれくらい牽引力があるかは私にはわかりませんでした。なので、視点を変えて
・事業ビジョンが明確か?
・似たような企業の時価総額はどの程度か?
・今後5年程度で市場自体が伸びる具体的なシナリオがあるか?
というのを考え、そこに経営の強さを加味するようにしました。
スタートアップなんて直前までビジネスモデルや仕様が変わるので細かな部分は検証項目から外しました。
最終的には以前からお付き合いのある方が経営するスタートアップに出資させていただきました。

ストックオプション・エンジェル税制

ストックオプション(以下SO)とエンジェル投資税制の開始もエンジェル投資に手を出した背景にあります。

■SOの魅力
LINE・メルカリで上場前からジョインしているのでSOの魅力は十分知っています。(体験は薄い)
ただ、SOで十分な資産を築くには入社のタイミングが非常に重要で、いわゆる初期メンバー、または、C◯Oといったポジションでの入社が必須と思います。
C◯Oとなると、知財を専門にしている場合CIPO(Cheaf Intellectual Property Officer)狙い一択になりますが、CIPOを設置しているスタートアップはほとんどありません。
これが改善されてCIPOが一般的になる流れを待つわけにもいきませんし、多分このトレンドは定着しないと思います。
となると、SOでの資産形成をするためには初期メンバーとしてスタートアップに飛び込み、そのスタートアップがSO対応していて、かつ大きくエグジットできるという難条件をクリアしないといけません。
ここで、エンジェル投資でもよいのでは?と考えました。

■エンジェル税制
日本政府もスタートアップへの投資を推奨しており、エンジェル税制なる制度が開始されています。
簡単に言えば、スタートアップに投資したら投資金額に応じた税を優遇しまっせという制度です。
正直結構な税金を払っています。高いです。無税の国に移住したいです。
大した還元もない税金を払うくらいならスタートアップに投資しようと思いエンジェル投資に踏み切りました。
あと、人生経験として一回くらいはエンジェル投資してみたいという気持ちもありました。

知財の投資対効果を意識

知財担当、特許担当といえば「ちゃんと知財やりましょう、出しましょう」が基本スタンスと思います。
私も賛成ですが、資本力がある企業とスタートアップとでは「ちゃんと」の定義が異なると考えます。

私も事業法人を持っていますが、特許は自分で書きます。
なぜならば高いから。
限りある資本で、事業開始しないといけない状況で、知財に注力するとガンガン資本が減っていきます。
そうなると事業に回せる資本が圧迫されます。
しかも特許は短期的に回収できる性質のものではありません。かつ効果も数字で算出されません。
実際にエンジェル投資をしてみて気づきましたが、投資先企業の価値を高めるという意味では何でも出願すればよいわけではなく、検討時点において、会社全体で何に注力するのか?その中で(一部でも)知財を差し込むことで企業価値が高くなるのか?というのを気にするようになりました。

それでもリリース前には特許出願したほうが良いと思う

自分の事業法人、エンジェル投資を通して「特許出願はタイミングと内容が重要」という考えが強くなりました。
投資対効果を前提にしても、サービスのリリース直前に特許出願することを引き続き推奨したいです。
特にスタートアップは、リリース直前に分厚い明細書の特許出願を行うことをおすすめします。

■なぜ直前なのか?
サービスリリースすると新規性喪失するため、原則特許出願ができなくなります。1年以内であれば出願できる救済措置はあるものの、自社公開以外には適用されないので、自社リリース後に他社が同様の公開を行った場合は出願できなくなります(結構エンカウントする事象)

ここまではどの企業でも同じですが、スタートアップは仕様が直前までコロコロと変わります。
サービスリリース直前であれば、ビジネスモデル・サービス仕様が確定していることが多いため直前に出願完了させるほうが投資対効果が高いかと思います。

このビジネスモデル・サービスを実現する方法について、実際のUI/UX、機能、課金方法などを混ぜ込みながら1つの特許出願を作っていくことで、実施される形態を含めた特許出願ができる可能性が高くなります。
(仕様が変わらないなら早く出願する方がよいです)

■なぜ厚めの特許出願なのか?
特許出願には実施する形態以外のバリエーションを追加したり、ボツアイディアも追加したできます。
簡単に言えば、1つの出願に複数の発明を入れられます。
ここで厚めの特許出願しておけると、リリース時点で自社のコアビジネス・コアサービス・コア機能についてと、他のバリエーション・周辺領域について記載されている特許出願を保有している状態になります。

特許には補正や分割出願という制度があり、出願後も権利範囲を出願書類に記載された範囲内で変更できます。(細かい制限は色々あります)

つまり、先んじて複数の発明を含む特許出願をしておくと、事後的に望む権利範囲を取得できる可能性が高くなります。
特許出願を厚めに作っておくことで、他社が類似の事業や機能を展開し始めた場合に補正や分割出願で事後的に参入障壁を作れる可能性が高くなります。

そして、新規出願に比べれば分割出願は安いです。
結果として、1つの特許出願の投資対効果を高くすることが可能です。

複数の発明であっても上位で関連があれば1つの特許出願に含めることができます。コストがシビアな状態で新規出願の数を増やしてコストをかけるのはおすすめしません。
複数件出願できますと言われても1つにまとめられないかを検討してください。特許的には1つの出願に複数の発明が包含されている方が強いです。(権利化のタイミングで使い勝手がよい)

参考金額:
・新規出願:50万円程度
・分割出願(自発補正込み):20万円程度

リリース後は、ビジネスモデルの変更や、機能のアップデートなどに応じて適宜投資対効果を考慮しながら追加の特許出願を進めていくのがよいと思います。
※実際に良い特許を保有するのは難易度が高いので、資本力がついたタイミングで長期目線に切り替えて、継続的に出願する方針にスライドすることをおすすめします。

ざっくりまとめると、資本力が弱いスタートアップの特許出願は、
・リリース直前に内容の多い特許出願を行う
・リリース後は上記の特許出願の分割出願などを検討しながら、新規要素は新規特許出願で対応する。でよいと思います。

多くのスタートアップから面白い特許が出てくるのを楽しみにしてます!
エンジェル投資成功しますよーに🙏

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