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MEDERI資金調達の裏側。「FemTech」にお金が集まりづらい説は本当か?

資金調達前後に周囲の起業家たちから「女性向けヘルスケア業界・FemTech(フェムテック )ってお金集まりづらそうだよね」と聞かれることが多かったです。

結論からお話しすると、「女性向けヘルスケア領域」だからといっても、投資家の方はフラットに判断してくれてお金が集まりづらいということはなかったです。

初めての資金調達に際し、多くの方々からの応援メッセージやアドバイス、ご協力をいただきましたこと、心よりお礼申し上げます。

MEDERI資金調達の裏側

「ん〜今の条件、考え直していいと思いますよ」

オンライン越しでしか会ったことのないキャピタリストのその人は、あ!今日の僕ちょっと髪の毛ボサボサしてますかね、と言葉を続けて笑っている。

zoomに映る彼の名は、木暮 圭佑(こぐれ けいすけ)さん。TLMというファンドの注目されている若手キャピタリストで、私がスタートアップ業界に入った6年前から一方的に存在を知っている。

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MEDERIの事業について

「MEDERI」は、妊活・不妊領域のスタートアップで2020年1月から本格始動した。代表である私が26歳で早発閉経(AMH0.02で45歳くらいの卵子の残数)ということがわかり、「子を授かれない可能性がある」と医師からいわれたことが起業のきっかけ。

現在販売しているのは、膣内環境のチェックキットとその環境改善サプリメント。20〜30代の女性へ妊娠・出産・不妊治療に関する「正しい知識」の伝達や、自分と向き合う時間の確保、マインドセットの実現をサポートするために全力を尽くしている。
この手の女性の健康に関わる問題をテクノロジーで解決する分野をFemale + technologyでFemTech(フェムテック)と総称され、欧米スタートアップは資金調達の伸びも含め盛り上がりを見せている。

MEDERI社はじめての資金調達は、5月のゴールデンウィーク明けからスタートした。これまでは制作金融公庫から借り入れた資金でプロダクトを作り、運営していた。4月までプロダクトや公式通販サイト制作に集中していたのだが、ふと起業前に引いたPLを見返して「あ、そろそろ資金調達タイミングだなぁ」と思い出したのだ。

VCの反応

1日で10社ちかくのVCとお話しさせてもらうサーキットピッチを含めると、実際に話したVCの数は20社くらい。
資金調達スタート時は、女性向けヘルスケア業界ということもあり、圧倒的に男性が多い投資家のみなさんはどんな反応をするんだろうか?と多少の不安があった。

私の「妊娠準備をより楽しく前向きな時間にしたい」という想いは、もはや女性だけの問題ではなく、男性の投資家も「僕も子を授かるまでに時間がかかったんですよ」「まさに知人が悩んでます」と自分ごととして捉えてくださった。

日本で不妊検査や治療を経験する夫妻は約5.5組に1組、そして体外受精による出生児数は増加傾向にあるという社会背景もあり、ニーズがある領域だと、どの投資家も共感してくれた。

もちろん、共感はいただけてもオファーはいただけなかったVCもある。これは私の実力不足だ。いただいた声を集約すると「多様で大きな妊娠・不妊領域の山をどのように登って行くのか、事業の解像度がまだ見えづらい点も多い」という理由だった。

最近、起業家という括りでもジェンダー問題がたびたび話題にあがるが、私が資金調達をしていて唯一ジェンダーを感じた言葉は

「役員には男性がいたほうがいいですね、その方がコミュニケーションとりやすい感じがするから」

という言葉くらい。

まだまだニッチな領域ではあるので事業進捗の様子をみたいという雰囲気はあったが、結果的に、女性向けヘルスケア領域だからといってお金が集まりづらいというのはなかった。

投資家のみなさんもきちんとフラットに事業を見てくださったし、激励の言葉をくれたVCがほとんどである。

5月中にはリードVCとCVCの計2社で進めるという方向性が見え、6月末着金予定で調整を進めていた。

しかし、投資委員会2日前にキャピタリスト側の都合で断られ、突然振り出しに戻ってしまった。

着金前想定外の事態

着金前の想定外の事態は、資金調達あるあるだとは頭でわかっていても、当事者としてはきつかった。起業してからスッキリしない憂鬱な朝には慣れたが、断られた翌日は起業していちばん最悪な朝だった。

ほぼまとまりかけていた調達がいきなり飛んだ、という体験はトラウマになりそうだった。
あと、直前まで投資検討してもらっていたキャピタリストさんから、事業と同じくらい外見について指摘されていたので自分自身の見え方に葛藤を抱いていた。

「坂梨さんのいまのプロフィール写真はもったいない。こんなに真面目に頑張っているのに、写真のせいで親近感が持てずマイナスに働いていると思うから、例えば黒髪にして、メイクや服を変えるとかできませんか?」

私は目鼻立ちがはっきりとしていて明るい雰囲気だし、華やかな色でユニークなデザインの服が好き。そのことから「華やか」「派手」と抵抗を感じる人もいるのだと思う。見た目が9割っていう本もあるくらいなので、それは仕方のないことだけれど投資検討の際にも指摘されてしまうのか、なんだか新卒採用みたいだなぁと思った。
悔しかったけど、そのキャピタリストさんが言っている意味もちょっとは理解できたし、一旦黒髪にしてメイクを変えることで片付く問題ならとてもイージーな解だと、イメチェンした矢先の破談だった。

スタートアップはリソースが限られる。そろそろ私が事業に集中しなければ進まないので、もうこれ以上、資金調達に時間をかけられない。
自信喪失の私だったが、そんな状況でも、会社を存続させなきゃとは強く思えていた。
着金を見越して進めている事業もあるし、諸々の希望条件を調整してでも、調達しようという覚悟を決めた。

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木暮さんとの出会い

そうして、ひょんなご縁からオンライン上で話すことになったのが、TLMのキャピタリストである木暮さんだ。

いまだから話すが、絶対断られると思った。

私の前職は、男性が1人で、あとは華やかな女性社員が多かったので、男性比率の高いスタートアップ界の中で異質な空気感を出していた。
スタートアップ界隈の中では、好きな人は好きだし、嫌いな人は嫌いな社風だったと思う。賛否両論はっきりわかれるところにいた。

当時、木暮さんも近しいスタートアップを手伝っていたので、いくらいま黒髪でナチュラルメイクをしていても、きっと過去の偏見から私のことを毛嫌いしているだろうと予想したのだ。

しかし木暮さんは、予想を裏切る笑顔でzoomに登場し、真剣に話を聞いてくれた。事前に妊活・不妊領域の下調べもしてきてくれていて、険しい山を登ろうとしていることも把握してくれていた。

「あれ、希望条件、このままでいいんですか?」

「つい最近まではいまより良い条件を提示していたんですけど、事業に集中したいので早く着金させる方が先決だなと思って、投資を決めてもらいやすい条件にしたんです。」

「なるほどー。そっかぁ。あ、なにか坂梨さんから質問はありますか?」

「いま、木暮さんの投資先で女性起業家の割合はどれくらいですか?」

「あー、んー、女性?考えてみれば、結構いるかなぁ。そういえば意識したこと、なかったすね。」

ハッとした。彼の中には「女性起業家」という言葉がないのだと気付いた。偏見を持っていたのは、私の方だった。彼にとっては、男性も女性も「起業家」なのだ。

そうして、「ちょっと検討のお時間ください。僕的にはケッコー前向きです。」という言葉でその場は終わった。

それから数日後、絶対断られるだろうけど、一応ハッキリさせておいた方がいいなと、木暮さんに連絡した。

あ、ちょうど連絡しようと思ってました!と、続くメッセージに驚いた。

TLMがオファーをくれた。

しかも弊社の今後を考えてこちらの提示より良い条件で。

「あのー、本当にありがとうございます。でも、わたしは前回提示した条件でいいんですが……(普通はそうでしょ?ね?ね?)」

「んー・・・。たしかにその条件のほうがぶっちゃけこっちにはおいしい話だったりするんですけど、正直考え直したほうがいいと思うんですよ。妊活・不妊領域に挑むことは社会的にも意味があることだと思っているし、MEDERIの資金繰りやこの次のファイナンスを加味すると、僕がご提示している条件の方がいいと思ってます。あ、でも坂梨さんにもオファーを断る権利はあるのでお構いなく!」

・・・いやいや、お構います!
もちろんあなたがご提示してくださっている条件の方がいいです。でも、そんなオファーあり得るんですか!?私が気付いてないだけで、何か盲点があるのかもしれない。

「ちなみに、私7月末にクローズしようと思ってるんですよ。いま7月2週目ですけど、投資委員会とか大丈夫ですか?」

「はい、そのスケジュール感で大丈夫です」

「以前、投資委員会のために黒髪にしたんですが、そういう必要ありますかね?」

「え?なんだソレ(笑)よくわかんないけど、逆に金髪でもいいんじゃないですか。」

「私、割と見た目でマイナスに見られがちなんですよね・・・」

「ふーん。ま、事業で結果だしましょう。あと、前職のイメージのことで坂梨さんのことを色々言ってくる人ももしかしたらいるかも知れませんが、そういうのは僕がうまくやりますから大丈夫ですよ。」

木暮さんは自分で、コミュ障・非モテって言っているけど、絶対ウソだと思う。本質的で漢気があるから男女問わず好かれていて、みんなが彼を放っておかないのも理解できた。

そこから、MEDERIに彗星の如く現れた木暮監督の導きのもと、仲間集めが始まった。

「今回の調達はVC1社、あとはエンジェル投資家で構成しましょう。まずは携わってほしいエンジェル投資家をリストアップしてください。その際は、なぜ携わってほしいのかも明確にしたほうがいいっす。エンジェルが集まらなかったら?んー、まあそのときは僕がなんとかします。」

20営業日中、15営業日はTLMというロゴが入ったトップスを着ているに違いない木暮監督の指示出しは、論理的で明確である。

MEDERIのエンジェル投資家たち

まず、エンジェル投資家と聞いてパッと思い当たったのは株式会社サイバー・バズの社長、高村 彰典(たかむら あきのり)さん
実はMEDERIを立ち上げる前に、解像度が低い状態で「こんなことしようと考えているんです」とお話しさせてもらった人だ。その時にポジティブな反応をしてくださったことが嬉しく、1年ぶりの面会を申し入れ、すぐに出資を決めていただけた。
マーケティングの助言もくださって、困った時は「この人に相談するといいよ」と繋げてくれる。
投資家のみなさんには貴重なお時間を奪わないよう、連絡はむやみやたらにとらないよう心掛けているが、SNSで見かけたシャツが気になってブランドを尋ねると、「ユニクロだよw」と教えてくれる。一見クールだがフレンドリーな一面も兼ね備えている。

ビタミン株式会社 Founder CEO 高松 裕美(たかまつ ひろみ)さんは、絶対いてほしかった。
高松さんは日本のエンジェル投資家でいち早く、女性ならではのヘルスケア問題解決に注目し、Femtechイベントや情報発信を積極的にされているこの領域の第一人者だからだ。実際に何度かお話をさせてもらって、自分の考えに芯があり、気持ちがいい人だなぁと思っていた。友人の起業家にも高松さんファンが多く、今回賛同していただけてとても嬉しい!これからどんなディスカッションができるのか、想像するだけでもワクワクしている。

株式会社GHOST CEO の小柳津 林太郎(おやいづ りんたろう)さんは、弊社が実施したクラウドファンディングにも支援&拡散をしてくださった理解者。
弊社のメディアで取材させていただいた際にヴィジョンやサービスに共感くださり、「出資したいなぁ」と嬉しい言葉をくださったのだ。
小柳津さん=2代目バチェラーの印象が強い方も多いだろうが、私はハイブリッドサラリーマンズクラブというコミュニティをうまく運営されている印象の方が強い。人を巻き込む、魅了する力が抜群にある小柳津さんに、MEDERIを共に盛り上げてほしいと連絡をしたら、秒速でOKをいただけた。

さらに、マッチしそうな投資家を積極的に繋げてくださって、Seven Rich会計事務所の代表・服部 峻介(はっとり しゅんすけ)さんにもご出資いただけることとなった。
フリーランス時代からSeven Richさんにお世話になっているので、服部さんのことは4年前から存じ上げている。
士業にとどまらず、渋谷区でパーソナルトレーニングジムやパンとエスプレッソとまちあわせ、スープカレー屋さんを展開するなど、常に新しいことを手掛けていらっしゃる。オフィスにいく度、新事業のリーフレットが増えていくので良い意味で会計事務所っぽさはない。
小柳津さん、そして服部さんは、領域に囚われないチャレンジをしていて、話していると私の脳内から新しいアイデアが湧き出てくる。スパイスをくれるお二人。

起業家の松山 高和(まつやま たかかず )さんは約1年前に、商標関係でお世話になった石原弁護士から「Femtechに興味ありそうな人いるから紹介します!」と繋げてもらったのが出会い。
穏やかな笑顔で包み込むように話を引き出してくださる方で、一方的にイメージを抱いていたコンサルティングファーム出身者とは思えない。
正直、松山さんには出資いただけるとは思っていなかった。突拍子もないタイミングで「出資します!」と連絡がきた時は、“クラシック音楽が似合う上品な松山さん”という印象が良い意味で裏切られた。まだ私の知らない一面がありそうでこれからのコミュニケーションが楽しみだなと思っている。

株式会社LOB CEO 竹林 史貴(たけばやし ふみたか)さんは、初対面にも関わらず「出資するんで振り込み先、教えてくださいね!」と言い放った漢of漢だ。これほどまでにリズミカルに物事を決断するのか!?と感動し、それからというもの、竹林さんの本業はラッパーなんじゃないかと疑っている。
これは特殊能力を持っている私だからこそわかるのだが、竹林さんはハッピーの引き寄せ力を持っている人。参画が決まって以降、他の投資家さんたちからもトントン拍子にオファーをいただけるようになった。
「MEDERI 株主の会」というFacebookグループがあるのだが、投稿すると必ずコメントをくれるムードメーカーで、私が慌ただしそうにしていると察して「生きているか!?」と連絡をくれる。竹林さんがいると怖いものも怖くなくなるので、セコム感覚で1家に1台タケバヤシの時代が近い将来やってくるだろう。

帰り道、木暮監督に真っ先に報告したところ「うお〜、タケさんもう決めたんだw 仲良いです!」と返ってきて、監督がうまく働きかけてくれた部分も大きいのだろうと察した。

そんなこんなで、投資家のみなさんのあたたかいご声援のもと、7月に始動した仲間集めプロジェクトもようやく終わりに近づいてきた。

リフレッシュ目的で使用している音声メディアの配信で、「もうすぐ資金調達が希望額に達しそう、あともうちょっと頑張る」という私の発言をたまたま聞いていたのが、もっち〜さんこと望月 祐介(もちづき ゆうすけ)さんだ。
エンジニアバンクを運営する株式会社メイプルシステムズの代表取締役である。まだ友達にもなっていないメッセンジャーで「いくら?事業資料ちょうだい!」と連絡をくださったのだ。

共通の知人を通じて、間接的にECサイトのカートについて相談に乗っていただいていたのだが、お会いしたことも特にお話ししたこともなかった。

資料を送っていくつか質問に回答すると、あっという間に投資してくれることになっていた。とにかく、もっち〜さんはストイックでスピード感が半端じゃない。一見、強面だが誠実な人にはちゃんと優しいワイルドな経営者だ。ちなみに趣味・特技はDIYで、最近は木材へのねじの付け方を画像付きでわかりやすく教えてくれる。

7月31日の着金日&資金調達の発表日

いつも連絡は16時以降でおねがい(実際は時間関係なくメッセしてしまってる)、という木暮さんからいつになく朝8時台に連絡がきた。

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ちゃんとプレスリリース発信時間を覚えててくれて、よいスタートを切れるようにと立ち回ってくれたのだ。

木暮さんのおかげでたくさんの人にいいね!してもらえて嬉しかったので、1日の終わりにメッセをしたら喝をいれられた。

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今度はこのプレスリリースを超えるインパクトを事業で実現せねばと気合が入った。

相談できる、心強い自慢の投資家の方々が参画してくれたことはかなり有難いが、実際は資金調達が一旦クローズしたからと言って大して嬉しくはない。
実現したい世界に対して、まだ何もできていないに等しいからだ。

MEDERIの今後

私はしばらく、子どもを産めないと思う。
きちんと卵子が出現しないということは、みなさんが思っている以上に深刻な事態で、治療はまだまだ長引きそうだ。

不妊治療は時間とお金がかかる。そして、それ以上に精神的につらい。楽観的な私ですら、状況を受け止めるのに4年かかった。
こんな思いをするのは私だけでいいと、本気で思っているからわざわざ公表までして起業をしている。

私のような「子を産みたいけれど、なかなか授かれない」という方に少しでも楽しく日々を過ごしてほしい。そしてライフプランに悩む女性に1つでも多くの選択肢を残したい。

どうか多くの女性に、子を産むためだけでなく、健康のためにも、産婦人科に行って女性ならではの機能に異常がないか確認してほしい。

でも実際は、こう当事者が述べても他人事のように思えて行く人は少ないだろう。

例えば乳がん検診は、タダなのに、日本の6割以上の女性は受診していないという調査結果がある。無料でも、死の危険があっても、そういう状況なのだから。

「忙しいから」「怖いから」「私はきっと大丈夫だから」という方々の気持ちも十分にわかる。

だからこそ私は、忙しくて自身の健康状態に根拠のない安心を抱き産婦人科に行かない女性が、産婦人科に行こうと思えるきっかけをつくりたい。

自分のカラダや、女性ならではの生殖機能に興味がもてるプロダクトを作り続けたい。

もちろん、自宅でできることには限度があるので、その先の本質的なケアもサポートできるような体制づくりは急ピッチで進める前提で。

木暮さんは、きっと今夜も眠れない

並々ならぬパッションを抱えた起業家たちをサポートする木暮さんは、きっと今夜も眠れない。

「本当は働きたくないんすよぉ〜」と笑いながら、TLMのTシャツを着て、世界中の情報を誰よりも多くキャッチし、今後の社会、事業傾向に目を光らせているに違いない。そして明日、これを読め!と英字ニュースが投資先に共有されるのだろう。

そう、決して忘れてはならない。私のおいしい投資条件を飲み込まず、「起業家」として対等に向き合ってくれる木暮さんは、タダモノではないのだ。

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