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自分らしいのがきっといい【小説『男ともだち』より】

千早茜さん著『男ともだち』を読みました。

あらすじ

イラストレーターである神名(かんな)は、恋人と同棲しながらも妻子ある男性と関係を持っていた。
ある日、長く連絡をとっていなかった大学時代の「男ともだち」であるハセオから電話がくる。

男女の友情について

主人公の神名は、どんな異性とも簡単に関係を持ちますが、ハセオとは関係を持ちません。
大事な「男ともだち」だから失いたくないのです。

うーん。
友達は友達っていうのもわからなくないし、価値観として受け入れたいとは思う。
でも失いたくないならそれは愛じゃん。
異性の友達って常に曖昧な立ち位置にいる気がします。

わたしは常々、男友達みたいな恋人がほしいと思っています。女の子の友達じゃなくて「男」友達なのがキーです。
なんでも言い合えて、気楽で、どんなときもどんな感想を持っても受け入れてくれるゆるい関係。でもその「ゆるい」と感じる部分が実は「信頼関係」だったりするのかなと。
だからわたしには男友達と呼ぶ異性の友達がいないし、恋人に親しい異性の友人がいたら憤慨します。

じゃあこの小説はわたしに刺さらない物語だったのかというと、まったくそんなことありません。むしろ余韻に浸っています。
この小説の胸に刺さった部分、名付けてグサリポイントを2つ紹介します。

グサリポイント①ハセオを通じて求めているもの

ハセオは本当にタイミングがいいんです。
弱っているときにふらっと連絡してきて、状況を察して、言葉をくれたり動いてくれたりする。
一番大事なのはハセオなんだと自覚したとき、神名に葛藤が生まれます。
行きつけのバーで働く露月さんにハセオを会わせたところ、「あんたはファザコンだ」と指摘されます。
幼いころ、男性に対して恐怖心を抱く出来事を経験した神名にとって、男というものは穢らわしい存在。だから神名はハセオを、そんな穢い存在だと思いたくないのです。

いい?あの坊やはあんたの幻想

第五章,P242

露月さんのはっきりとした主張に頭をガツンと殴られたようでした。

幻想かー。
ファザコンかー。
もしかしたら、いま自分が理想として掲げている異性も幻想なのかもなー。

グサリポイント②クリエイターからアーティストへ

絵本の仕事をするのが夢だった神名。
イラストを仕事にするため様々なバイトもこなし、だんだん仕事がもらえるようになっていました。
その一方で、神名の個性的な絵は受け入れられず、個性を殺してクライアントの要望に応えるようになっていきます。

「表現ってさ、本当は自由じゃないんだよね。世の中に出ているものって全部きまった枠があるんだもの。その中だけで自由なの」

第二章,P100

バーで神名が吐き捨てた本音。
好きなことを仕事にできて羨ましいと言う人たちへのアンチテーゼにも聞こえます。

その後、過去に少しだけ一緒に仕事をした大手出版社の担当・笹野から連絡がきます。
当時、神名が描いたイラストに感銘を受け、書籍の部署への異動をきっかけに一緒に仕事をしてみたいというものでした。
絵本の仕事ができるチャンスです。イラストを見せると、笹野は核心をついてきます。

「本当に描きたいものを描けてますか?」

第四章,P197

胸がちくりとしました。
生活していくには、描きたいものだけを描くわけにはいかないのに。でも誰かの要望に応えるだけだと、尖っていた個性はだんだん使い慣れた消しゴムみたいになっていく。

ここでも、殻をやぶるきっかけをくれたのはハセオでした。
二人で広島に行き、原爆ドームを見たときのこと。
神名はそれを美しいと感じ、自分は不謹慎かどうかハセオに尋ねます。

ええんちゃう。おまえがそう感じるんなら、誰に否定されたってそれが真実や。

第六章,P292

その言葉で神名は、誰かに攻撃されて批判されても、ひとりぼっちになっても、自分がいいと思ったものを描き続ける強い自分になりたかったと気づきます。

何を感じようと私にとっては正解だ。私の世界は私だけのものだ。今ならきっと恐れずに描ける。

第六章,P293

それから半年後、神名は個展をひらきます。そこに笹野が訪ねてきて、絵を見てこう告げます。

これからも好きに描いてください、感じるままに。あなたの絵は何を描いても汚くなんてならない、醜さもいびつさも魅力なんです。そんなあなたの作品を必要としている人がいます

終章,P305

そして神名は、アーティストとして前に進んでいくのでした。

自分がどうしたいかが重要

結局、恋愛も仕事も自分の気持ちが一番大事なんだなと感じました。
異性との関係性については、いろんな人が自分の経験に基づいてアドバイスしてくれるけど、どんなに親身に聞いてくれる人でも、その人は自分ではありません。
自分の出した答えが正解なのかなと思います。

このnoteのあとがき

小説を読み終えるといつも、「うわあああああ」「ぐはあああああ」って感情になるのですが、うまく言葉にできません。
30%くらいしか魅力を伝えれられていないように感じるんです。

もどかしい!!!!!

自分がいいと思ったもの、もっと言語化できるようになりたい。いや、なります!!!


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