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〜〜波待ち日記〜〜 サーフィンを23年続けてきて、いま最も後悔していること

2022年2月28日(月)カールカール
肩頭

頭サイズのセットが入ってきた——運よく密集地帯を避けて奥にいた僕の目の前に。

サイズはあるけれど、比較的厚めだから、落ち着いてテイクオフできる最高の波だ。

レールをセットする。スピードをつけてボトムに降りる。

頭の中で反芻してきたいくつかのポイントを瞬間的に実践に移しながらボトムからトップへ。

カットバック——決まった。

ここから波が切り立ってくる。次のセクションでリップ。ボトムターンが浅かった。やや体勢を崩すが、まだ波は続く。

立て直して3発めのリップ。今のはボトムターンは良い感触だったが、トップで意識したいポイントが実践できてなかった。それでも波は続く。次がラストセクションになりそうだ。

落ち着いて、トップで改善ポイントを実践する。板がオートマチックに返る。スプレーが飛ぶ感触。確かな手応え。

最後のセクションをメイクすると、僕はそのままボードに腹這いになり、ビーチを目指した。

満足。

完璧、とまではいえないが、4発ターンが入る波なんて、そうそうない。間違いなく今年に入ってからのベストライドだ。

僕はビーチに上がると、真っ先に向かった。三脚に取り付けたiPhoneの元に。

しかし——

思ってたのと違う

のである。

そこに映っていたのは、ライディング中脳内で再生されているプロサーファーさながら、とは言わないまでも、結構いいセン行ってたはずの自分の姿とは似ても似つかない代物なのだ。

(すげー猫背だな…)

(全然ボトムまで降りきってないな…)

(角度あさ…)

(スプレーしょぼ…)

(腕ジタバタ動きすぎ…)

こうして、自分はまだまだ課題が満載であることを思い知る。

それでも。

大分良くなってはきているのだ。

あくまで自己採点だが、置き撮りを導入するようになってからの成長曲線は急上昇を描いている、ような気がする。

初めて自分のフッテージを真面目に見た時の、あまりの衝撃に愕然とした気持ちは忘れられない。画面内で蠢くガチャガチャとした自分を細い目で見つめながら、(俺は、こんな感じで20年もサーフィンまあまあできてる気でいたのか……)と、誰が見ているわけでもないのに無性に恥ずかしくなった。

それに比べれば、今はだいぶサーフィンらしさが出てきている。

そしてそう感じることこそが、僕が23年間サーフィンを続けてきた中で最も後悔していることにつながる。

動画を残そうと努力するのが遅すぎた

のだ。

サーフィンはただでさえ上達が難しいスポーツと言われているし、自分自身それを痛いほど実感している。

スポーツにおいて、自分の映像を客観的に見ることが劇的に上達速度を高めてくれるのは周知の事実だが、サーフィンも例外ではない。

そんなことはとっくの昔から頭ではわかっていたのに、今の今まで動画を撮る努力をしてこなかったこと、それがサーフィン人生を振り返った時に一番後悔していることだ。

そりゃあ昔は、自分のフッテージを残すこと自体、ハードルが高かった。僕がサーフィンを始めた頃はまだスマホも出ていないどころか、ムービーカメラだって、今から考えると高価な代物だった。もちろん、GPS機能も付いていなければ、デバイスと所有者を結びつけるデジタルなIDもなかった。そんな機材をビーチに置きっ放しにしていたら、たちどころに盗難に遭う。そういう時代だった。

しかし、百歩譲ってそう考えたとしても、ムービーカメラはiPhoneで十分、と言う時代になってからもう随分と経っている。

それでもなお、僕は動画を撮る努力をしてこなかった。サーフィンを上手くなりたいとは思っているクセに、である。

キッカケはロックダウンとTwitter

僕がようやく自分の動画を撮るようになったキッカケは、皮肉にもサーフィンができないロックダウン中だった。

サーフィンができない代わりにサーフスケートを毎日やっていたのだが、ある日、ふと自分の滑りを撮ろうと思った。それは、Twitterでフォローしている方たちが、よくスケートの自撮り動画をアップしていたからだ。みんな上手いな、自分はどんなふうに見えているのだろう?そんな軽い気持ちだった。

案の定、愕然とした。脳内の自分の映像とあまりにかけ離れた不恰好な滑り。別にそれでも滑れてるんだからいいや、とはならなかった。どうせやるならカッチョ良く滑りたい。

自分の映像を眺めると、プロのコーチではなくとも改善点はごまんと見つかる。上手い人と比べて形を少し修正するだけでも、劇的に印象が変わる。

それを実感してから頻繁に動画を撮るようになった。

海ではサーフラインの課金

ロックダウンが解け、サーフィンに復帰できた僕が、次に考えたのは、波情報サービス「サーフライン」で課金することだった。

シドニー近郊のビーチは、多くの場所でサーフラインのライブカメラが搭載されている。そして、課金すると、その映像のアーカイブにもアクセスできるようになるのだ。

スケボーであれだけ滑りが改善できたんだから、サーフィンでも自分の映像を見ることの効果は大きいはず。

そしてそれは、想像以上だった。

撮れた自分のライディングに愕然とすることの方が多かったが、毎回「次はこうしよう」と思えるポイントが見つかる。そして、それを実践した時に、時折自分でも「おっ、今のはマグレかもしれないけど、結構いい感じじゃない?」と思えるターンが撮れたりする。

もちろん、サーフィンの上達が目的ではあるものの、まあまあいい感じに撮れた自分のライディング映像を何度も見返してニヤニヤするのもまた、時間を忘れるぐらい最高なものである。

しかし、サーフラインのライブカメラには問題点もあった。

多くのポイントでは、ビーチ全体のコンディションを中継するために、カメラが定期的に左右にパンするのだ。

こうなると、タイミングが良くないと自分のライディングはカメラに収まらない。自分的に「今のは最高の手応えだ」と感じるライディングが出ても、カメラはあらぬ方角を向いていた、ということもしばしばだ。

次第に、思うようにフッテージを残せないことにフラストレーションを感じるようになった。

iPhone+三脚で置き撮り開始

そして、僕が置き撮りを始めたキッカケは、またしてもTwitterだった。

(そういえば、フォローしているサーファーの方は何人か自分のカメラで置き撮りしてるな……しかもiPhoneでやってるらしい)

気づくのが遅すぎた感じはあるが、僕は今年の頭にようやくiPhoneでの置き撮りをしようと思い至ったのである。

そして、Kmartで6ドル(500円ぐらい)というチープなスマホ用の三脚を入手し、置き撮り族の仲間入りを果たしたというわけだ。

置き撮りは難しい

ただビーチに三脚を立てて、ラウンド前に録画ボタンをポチッと押すだけの置き撮りなのだが、これがなかなかどうして、頻繁にトラブルが起きる。

風で倒れる

これは一番多く発生するトラブルだろう。ポイントの環境にもよるが、風速10ノット(5m/s)あったらもう使えない印象だ。三脚の足を砂で固めたりしたが、あまり意味がなかった。三脚転倒防止用のウェイトなんかもあるようなので、ペットボトルで自作したりすれば、もう少し対応環境を広げられる可能性もある。

鳥に倒される

風のない穏やかな日を見計らって三脚を立てたのに、鳥に薙ぎ倒される、ということがあった。よほど運が悪かったのだろうと思ったが、Twitterでフォローしているサーファーの方にも同様のアクシデントが発生していたので、レアケースとは言い切れないのかもしれない。

人に邪魔される

置き撮りは、なるべく画角をワイドに取っておいた方が、より多くのライディングを収められる。そのため、ビーチの波打ち際ではなく、奥の方に三脚を立てることが多い。すると、当然カメラの前を多くの人が行き交うことになる。時にはウォームアップ中のサーファーが完全にカメラの視界を遮ることもある。カメラに気づいてピースをしてくる愉快な人々もいる。

僕の場合は、ちょうど自分が波に乗っている瞬間、家族に邪魔されたこともある。

雨に濡れる

エントリー時に快晴でも、天気が急変してゲリラ豪雨が降ることもある。「この雨ヤバいな……」と思っても、iPhoneを守るために海から上がるのは面倒なのが正直なところだ。

結果、iPhoneが壊れる

いくら新しいiPhoneは耐水性があると言えども、ゲリラ豪雨の中で2時間放置したり、風で倒されて砂まみれになれば、そのダメージは徐々に基盤を侵食し、やがて起動しなくなる憂き目に合ったりもする。実際、僕は今現在iPhoneを修理に出している。

後でフッテージを探すのが大変

1ラウンド1時間〜2時間ノンストップで録画することになるので、そこから自分のライディングを探し出すのは意外と大変だ。貸切ポイントのフッテージなら訳ないが、少しでも混雑しているポイントだと、10本のライディングを探すのに1時間、みたいなこともザラである。

でも、僕は時間を忘れて没頭する感じなので、その作業を楽しんでいるのかもしれない。どちらかというと、時間を使いすぎて他のことをやるのに支障がある、というのが困ってしまうところだ。

ストレージを食い過ぎる

毎回2時間程度の動画を収録するわけだから、その容量のデータを放置したら、iPhoneのストレージはあっという間に限界に達してしまうだろう。したがって、毎回ライディングをチェックし、気に入ったフッテージを1本ずつ切り出す編集を終えたら、元の動画はこまめに削除する必要がある。

と、まあ、トラブルも多いし、後処理のために時間も食うし、結構大変なのである。

それでも、やっぱり置き撮りは必須だな、と思う。特にいつまで経ってもレベルが変わらないと感じている中級サーファーには。

中級サーファーの上達スピードを加速させる

再三繰り返しているが、自分のライディングを客観的に見て改善点を具体的に掴めるため、圧倒的にサーフィンの上達速度が上がる。

プロのライディングフォームがスタイリッシュなのは、身体の使い方が理想的だからそうなっているワケだが、置き撮りを始めてからというもの、その形になんとかして近づけようと努力するだけで、ライディングは随分変わる、という実感がある(実際は簡単にコピーなんかできないからサーフィンは難しいのだけど)。

自分のフッテージがなければ、いくらプロのフォームをコピーしようと思っても、どこがどう違うのかを把握することは難しい。すると、自分の脳内では真似できているつもりになってしまい、それ以上の改善をしようと考えなくなってしまう。ここに、中級サーファーの上達スピード鈍化の一要因があると個人的には思う。

置き撮りをしていると、自分以外のとてつもなく上手いサーファーのライディングも運よく撮れたりして、そういうサーファーが同じコンディションの波をどう乗っているかまで研究できる。これは、知らないポイントで入っているプロの映像を見るのとは得られる情報量がケタ違いの貴重な映像になるのだ。


仕掛ける場所が全然違うなとか、あそこで垂直に当てられるのか、とか、あのピークではテイクオフのあと真っ直ぐ降りて合わせてるな、とか、実際に体感した状況と重ね合わせて自分にできていなかったことを分析できるのは大きい。

今すぐ置き撮りのススメ

動画を撮ることで、47歳でもまだまだ上手くなれるという手応えを感じるたびに、それならばなぜもっと若いうちに動画を残す努力をしてこなかったのか、という後悔の念も同時に押し寄せてくる。

伸び代を感じられるとはいえ、20年以上のサーフィンで身に染みてしまった変なクセを修正するのは一筋縄ではいかない。身体の可動域だって加齢とともに狭まってきているワケだから、その作業はなおさら時間がかかるだろう。

これが、まだ身体が動きやすく変なクセもついていない段階から動画を撮ることの重要性を本質的に理解していたら、今頃、みんなから憧れられるめちゃくちゃスタイリッシュなサーファーになれていた可能性もなくはないと言えそうな気がしないでもないのである。

なので、少しでも上手くなりたいと思っているサーファーは、今すぐフッテージを残すべきだと言いたい。ソロショットみたいな機材は必要ない。映像クリエイターとしての作品を撮影するワケじゃないから、高価なカメラもレンズも必要ない。スマホを安い三脚に立てて、ズームしないで画角をワイドにしたまま撮ればそれで充分だ。

別に思い出作りのために撮影しているワケではないのだが、時には期せずして泣きそうになるほど美しい映像が撮れたりもして、結果的にいい思い出になるというオマケもついてくる。

ただし、置き撮りする場合は、ビーチに貴重品を放置することにはなるので、撮影ポイントの治安や天候などのコンディションには充分に注意を払うべきだろう。

そして当たり前のことだが、サーフィン用のスマホケースなど防水防塵対策も万全に整えた上で撮影に臨んでもらえたらと思う。

〜〜波待ち日記〜〜


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