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私と吹奏楽(3)

私が最初に憧れた楽器は、トランペットだった。華やかで迫力のある音が好きだった。もしかすると、目立ちたいという思いもあったのかもしれない。吹いてみるとお世辞にも綺麗とは言えない音だったが、音が出るだけで嬉しかった。それに、何より楽しかった。

しかし、希望者が多く、担当楽器を決めるオーディションを受けることとなった。そのオーディションに落ちてしまった私は、人数の空いていた打楽器を担当することになった。打楽器は最も想定外のパートだったが、何だかんだ楽しかった。吹奏楽部員として、演奏できるというだけでとても嬉しかった。

1番好きだった時間は合奏だった。皆んなで音を合わせることの楽しさと、難しさを実感できる貴重な時間だった。最初の頃は自分の音を聞くことに精一杯だったが、徐々に周りの音を聞けるようになっていき、演奏に余裕が生まれた。余裕ができると以前より楽しいと感じることが増えた。

入部して半年ほどたったある日、予想外のことが起きた。コンクールと文化祭の日が被り、文化祭での演奏を中1のみで行うということになったのだ。当時の私は、スネアドラムすらまともに演奏をしたことがなかったが、ドラムを演奏することになった。ドラムは想像以上に難しく、とても苦戦した。当時通っていた塾の先生にもこの譜面より、数学の方が何倍も簡単だと言われるくらいだった。

私は、部活がない日も学校に行き、ドラムをひたすら叩いた。足が痛くて階段を降りれなくなるくらいにまで懸命に努力した。これほど一生懸命に何かに取り組んだのはほぼ初めてだったかもしれない。でも、とても楽しかったし、上達していくことが嬉しかった。何度練習してもリズムがずれていると言われたり、厳しい言葉に胸が痛むこともあったが、本番前日にはほぼ完璧に演奏できる状態になっていた。

本番当日、思いがけないハプニングもあったが、今までの中で1番と言えるくらいの演奏をすることができた。あの日、ステージの真ん中で、パフォーマンス(演奏)ができたこと、それを多くのお客さんのに見てもらえたこと、何より、同い年の部員皆んなで演奏できたことが本当に幸せだった。心の底から楽しいと思えた時間だった。





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