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『トラペジウム』の感想。

簡単な感想

本当に胃が痛くなる作品でした。

露骨と言って良いほど、東ゆうの性格の悪さを台詞ではなく映像として見せつけてきていたし、他の三人の性格の悪い部分も見せつけてきた。

でも、それは決して全否定される様なものでもない。本作の登場人物は皆、何かしら性格の悪い部分が描かれていたけれど、人間、生きる上では意識的にしろ、無意識的にしろやってる事だと私は思う。

だからこそ、私は彼女達の性格の悪さにネガティブなイメージを持っていないので、あえてこれ以降は生き方と書き換えていきます。

というか、本当に性格悪いのって制作側だよね!!

キャッチコピーに全てが詰まってるという話

わたし1人では、アイドルになれないんだって。

この一言に、本作の全てが詰まっている様に思う。

本作は主人公である東ゆうの挫折と再起を描いた物語なのだが、劇中の台詞にもある様に彼女は一度アイドルを目指し、失敗している。

彼女の実力不足は、彼女がオーディションに全て落ちたと言っていた事や、SNSのいいね数の低さ(描かれはしなかったが、"いいね"に対して明らかにコメントが多かった事から、誹謗中傷的なコメントが多かったと思われる。)、そして彼女の数少ない独白の中で描かれている所からよく伝わってくる。

一方で、彼女はアイドルになりたいというとても強い気持ちだけで、多くの努力をしてきたのだろう。だからこそ、蘭子に歌が苦手発言に苛立ち、怒ってしまった。彼女は本当に努力家であろう事がこのエピソードから感じ取れる。

しかし、アイドルは努力だけでなれるものでは無かった。その敗北が、彼女に可愛い女の子を集める決心をさせた。自分の魅力の無さを突きつけられ、否定できなかったからこそ、彼女は空を見上げ、涙を流しながら思ったのだろう。

「わたし1人では、アイドルになれないんだって。」

つまり、本作は挫折からの一度目の再起を果たした所から始まっているのだと思う。オーディションに全て落ち、自分1人の力の限界を知った。

だからこそグループを作る。

昔、「アイドルグループは1人では売れないからセットで売り出してる売れ残りの集団」とお酒が回った時に私の父が言っていた。その言葉選びには賛同できないが、その考え方の方向性には大いに賛同したし、今でもそうだと思う。(一応言っておくが、別にアイドルグループを馬鹿にしているつもりはないです。私だって虹ヶ咲っていうアイドルグループが好きです。)

東ゆうは1人ではアイドルとして売れない。だからこそ、周囲に可愛い女の子達を固めてアイドルグループとしてのデビューを目指した。

そして、それは実際に成功した。

途中に色々とあったが、それでも運は確実に彼女の味方をしていた。様々な過程を経て、アイドルになった彼女はその高揚感から1人邁進していく。そして、彼女は夢のような日々を歩き出したが故に、彼女は気づけなかった。他の三人がついて来れていない事に。彼女と三人のギャップを、その溝を本作は映像として残酷なまでに見せつけていた。

この溝を、本作は徹底して台詞ではなく、悪意のある演出によって描いていた。これが個人的にはかなりしんどかった。台詞ではないからこそ、このハッキリとしない。むしろその状況が、やり彼女と三人の断絶を突き続けてくる。そして、それが最終的にくるみの崩壊を皮切りに台詞と共に流れ出してきた。

それまで、あくまでも空気感に押し留められていた泥が溢れ出し、ゆうの背中を押していた運を全て押し流してしまう。三人はアイドルを辞め、ゆうも自らの手でアイドルを引退した。そもそも、ゆうは一度でも三人にアイドルになりたいなどと言っていただろうか。少なくとも、私の記憶の限りでは一言も言っていなかったし、だからこそ、終盤でのくるみの発言があるのだと思う。

彼女達に残ったのはセット売りされた歌東西南北(仮)というグループ名のみ。

それが東ゆうに二度目の挫折を与える。

三人のアイドルを辞める手続きを完了した連絡を受けて、自分も辞める事を伝えた。それは、彼女が三人とのアイドル活動を通してより強く自分の魅力の不足を感じていたからなのだろう。自分1人ではアイドルとしてやっていけない事を、アイドルグループの活動を通して彼女はより深く理解させられた。故に、彼女の心の中には再びこの言葉が現れたのではないだろうか。

「わたし1人では、アイドルになれないんだって。」

彼女は二度目の挫折を迎え、再び普通の生活に戻る。けれど、それは彼女には耐えられない事だ。普通であることを嫌い、アイドルであることを望んだ東ゆう。彼女の生き方は、彼女にアイドルになることを諦めさせなかった。

本作は彼女の二度目の再起とその後に何度挫折があったかはわからないが、彼女が最終的にアイドルグループとして活躍している未来を描いて幕を閉じる。彼女は、結局は1人でアイドルになる事はできなかった。けれど、その過程で確かなものを得た。

トラペジウム、この言葉はオリオン座の中にあるオリオン座大星雲の中心に位置する散開星団のことである。そして、その中でも望遠鏡で確認する事ができるほどに、特に光り輝く四つの星は台形を作り出している。

彼女達はそれぞれの生き方(輝き方)が異なっている。彼女達の作る形は不等辺四角形であるが故に、アイドルグループとしては成立し続ける事はできなかった。けれど、それは共に生きる事ができないと言っているのではない。あくまで、アイドルグループという形が合わないだけなのだ。

彼女達は友達という形を取ってこそ、それぞれが最も光り輝ける。きっと、東ゆうが最終的にアイドルになれたのは大河くるみ、華鳥蘭子、亀井美嘉の三人と友達という関係になったからなのだろうね。

まとめ

正直、観る前は舐めていたので映画を見てビックリしました。開始1分くらいで襟を正してみましたね。はい。

とにかく、作り手側の悪意が尋常じゃなくて、キャラデザが他の方だったら死んでましたね笑。私は乃木坂についてよく知らないですし、本作についても何も知らない状態で見に行ったのですが、寧ろそれが良かったのかもしれません。これだからアニメは公開日初日に観にいきたいのよね!

もちろん、爪の甘さを感じた部分とかは沢山ある。特に終盤のいつもの場所にみんなが再集合する場面は冷めた。あそこは本当におもんなかった。でも、本作で描かれたものを考えるとそれも本作の描いているものの一部と言えるよねと。

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