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タイサル!第41話「ついに完了!コツコツ骨計測&オンラインガイド振り返り」

みなさんこんにちは、ポンコツ研究員の豊田です。

ここ数日、謎の首痛に悩まされております。首が痛すぎて肩は凝るし頭痛はひどいし、痛くて首が回らないせいで生活に支障は出るしで、踏んだり蹴ったりです。

さて、先週は日本モンキーセンター(以下JMC)のオンラインガイドに参加しました。ご視聴いただいた皆様、そして、お世話になった担当の舟橋さんと北原さん、どうもありがとうございました。

その時の動画はこちら。3本立て構成です。

紹介が「ベニガオの豊田さん」ということで始まっていますが、一応私はホモ・サピエンスのつもりでこれまで30年くらい生きてきました。

動画はアーカイブとして残してもらえるようです。コメントでたくさんのインサイダー情報が流れていて、私のnoteとTwitterをご覧の皆さんに来ていただけているんだなーというのが伝わってきて、とても嬉しかったです。

というわけで今週は、JMC連携研究の振り返りと、ガイドで伝えられなかった話を追加でご紹介しようと思います。


2ヶ月に渡るコツコツ骨計測、ついに終了

先週で、予定していた骨格標本の計測作業がついに終了しました。計測した標本数は260を超えました。長き戦いでございました。

実はこのワタクシ、ポンコツながら、ちゃっかり博物館学芸員免許をもっています。そして、博物館実習でお世話になったのがJMC。私が学部3年生の頃ですから、かれこれ十数年前...その時は実習業務として、骨格標本の作成や、標本庫の整理・整頓をやった経験があります。そんなJMCに、自分が研究者としてやってきて、連携研究でこの標本庫に戻ってくる日が来るとは、思いもしませんでした。

さて、骨計測ですが、ひとつの標本に対して計測項目は全部で10項目。それぞれの項目について3回の反復計測を行うので、単純にひとつの標本に30回ノギスを当ててポチポチデータを出力するという作業をやっていました。それを260個体以上...振り返ればなかなかにクレイジーな作業です。でも、形態学者さんたちにとっては当たり前、むしろデータ数的にはまだ「不足」気味であることは否めません...

私の場合は、第3大臼歯が完全に萠出しているオトナ判定の個体を対象に計測していたので、対象となる標本が限られていましたが、それでも260を超える標本から計測できたのは、まさにJMCが世界に誇る標本庫パワーだと改めて痛感します。


標本計測作業で大変だったこと

標本の計測作業自体は極めてシンプル。標本箱から骨を取り出して、まずは状態記録のために写真を撮ります。そしたらあとは計測部位にノギスを当てて、ひたすら計測値を取得していくというもの。

最初は結構時間がかかる作業でしたが、慣れてくれば標本1式の計測にかかる時間は5分くらい。ひたすら無心で、ノギスのデータ出力ボタンをポチポチ押しまくります。計測作業そのものよりは、むしろそれ以外のところで、大変だったことがいくつかありました。


標本探しが結構大変

そもそもJMCの標本庫には、7000近い標本が収蔵されています。それらはすべて通し番号で管理されています。つまり、種ごとにまとまって収納されているわけではない、ということです。

当然ですが、種ごとにまとめて収蔵しようと思ったら、膨大なスペースを必要とします。なぜなら、将来その種で増えるかもしれない数を想定してスペースを確保しておかなければならないからです。建物的にも棚のスペース的にも余裕があればそういうアレンジも可能かもしれませんが、JMCのように膨大な標本を維持管理するには、もはや通し番号で管理するしかありません。

その結果、例えば「今日はトクモンキーの計測するぞー」といってトクモンキーの標本を探そうとすると、当然ですが番号が飛び飛びになっています。それを、7000近くある標本の中から発掘せねばならないのです。

もちろん、標本庫内では棚ごとにきちんと通し番号順に並んでいるので、大体の場所はわかりますが、各棚に飛び地的に収納されていることが多々あります。

おまけに、ちらっと映像で写りましたが、標本は天井まで高々と収納されています。なので、一番上に収納されている標本をゲットするには、脚立が必要です。一番上の隅っこから目的の標本をゲットし、次の標本を探したら反対側の一番上にあった、なんて時には脚立を持って移動しなければなりません。所狭しと並んでいる標本の中から目的の標本を探すほうが、時間がかかったりします。


ノギスの不調

デジタルノギスについているアウトプットツールは、データ入力では超強力な効率化ツール。目盛りを読んで手で入力すると、当然入力ミスなどのヒューマンエラーが生じます。デジタルで自動で数値を取得してくれるツールはめちゃくちゃ役に立ちます。

一方で、ポチポチするボタンにクリック感がないので、押したつもりでも数値が入力されていなくて、データシート上でどんどんズレていくという事態がちょいちょい発生します。

おまけに、同じ数値を短い時間で連続で入力してしまう誤作動がたまに起きます。そうすると、Excelがフリーズして、PC再起動を余儀なくされます。もうおわかりですよね...そう、データがぶっ飛びます。

こまめに保存をかけるのですが、調子に乗っていると忘れがち。そんな時に画面がフリーズして「あーーーーーーーー!」と思った時にはもう手遅れ。数個体分のデータを測り直し、なんて事故が何度も起きました。やる気ポイントを大量に失うタイプの事故です。

ほんま勘弁してくれ...


たまに出現する「匠の箱」

すべての標本は、多分JMCの特注品と思われる統一規格のダンボール箱に収納されています。パッと見、3サイズくらい用意されています。アカンボウとか小型の新世界ザルの場合は小箱、マカクとか中型類は中箱、ヒヒとか大型類は大箱、という感じ。類人猿とか入りきらない系は別途衣装ケース的なプラ箱があります。

今回私の計測対象は「フルアダルト」の「マカク属」だったので、殆どが中箱に入っていました。一部、体のでかいチベットとかベニガオのオスは大箱に入っていたりしました。

ところが...

計測数が増えてくるにつれて、箱を持った瞬間に「あー、これは相当でかいオスだ」とわかるようになってくるわけですが、そのレベルの重さの箱が「中箱」だった時には「あーーー...やべぇやつや...」となります。開けるのが億劫になります。

なぜなら、その中箱に骨たちが「みっちり精密に」収納されているからです。

本来大箱に収納されてもいいレベルの体格の良いオスの骨格が、中箱にきれいに隙間なく収められています。そういう「超精密収納箱」は、不用意に中身を取り出してしまうと、もう二度と元通りに収納できなくなります。

「超精密収納箱」が出現したら、中身を取り出す前の箱の様子を写真にとって、どの骨が、どの角度で、どの順番で収納されていたかを記録せねばなりません。そして、そのとおりに収納し直さないと、蓋が閉じなくなります。

適当に取り出してしまうと、計測しているうちに元がどんなふうに収納されていたか忘れてしまい、下手をすると骨を箱に戻すだけで何十分と苦戦せねばならなくなります。

頭骨の向きを変えてみたり、下顎を外して横に並べてみたり、腕の骨をまとめてみたり、細かな骨の入った袋を平らにしてみたり...あれこれやってようやくきれいに元通り収納できた時は一安心します。

私は、このすさまじい精密な収納能力を持った誰かを「収納の匠」と呼んでいます。そして、その収納の匠によって生み出された完璧な超精密収納箱を「匠の箱」と呼んでいました。計測作業最大の敵は、この「匠の箱」だったかもしれません。

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週に1回「ホルマリンを吸いまくる日」

実は骨標本の計測と並行して、液浸標本で臓器計測もやっていました。

私の場合は計測目的は精巣。

全部で143個体分、数にして280個以上のキ◯タマのサイズを測り続けました。狂気の沙汰です。

液浸標本の場合は、パウチされている標本を取り出して目的の臓器を計測後、ホルマリンを入れ替えてパウチし直すという作業が必要となります。というわけで、ホルマリンが大量に廃棄・消費されるので、臓器計測は週に一回と決まっていました。

毎週水曜日は臓器計測の日。ホルマリンにやられて目がシパシパしながらも、精巣を見つけてきては重量と大きさを計測するという作業を5回ほど実施したでしょうか。

最初こそ精巣と腎臓の区別がつきにくかったのですが、今はすぐに精巣が発見できるようになりました。私みたいな研究やっていると、こういう世の中の役に立たないスキルばかりが磨かれていくので、ホント転職とかできないんですよね。全臓器の中から秒で精巣を発見できるスキルを活かせるお仕事をご存じの方がいたら、ぜひ教えて下さい!



そんなこんなで、週4日JMCに通い詰めだったこの2ヶ月間。大変なこともありましたが、個人的にはとても楽しい毎日でした。

コロナでタイに調査に行けなくなってからというもの、2年間日本の閉じこもっていたわけですが、まともに「研究をしていたな」と実感を持てる2ヶ月でした。私はやっぱり机に座ってデータを弄って論文を書くよりも、なにかを地道に調べている方が好きだなぁと思いました。


今回の研究は、JMCとの連携研究として実施しました。連携研究の対応キュレーターになっていただいた高野さんと新宅さんには、この2ヶ月間にわたり多大なるご協力、ご支援、ご助言をいただきました。また、私の上司の松田先生と、計測作業のバイトを引き受けてくれた2名の霊長研の院生のおかげで、無事に期限内に目標を達成することができました。多くの皆さんのご協力によって計測作業を終えることができたこと、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

当然ですが、計測しただけでは意味がありませんで、このあとは計測データの成形と、各種解析が待っています。みんなで頑張った作業が、無事に論文になるといいなと思っています。


さて、次回のタイサル!は、タイの調査地の話題に戻ります。一夜にして突如建設されたお社のお話です。

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タイサル!シリーズ過去の配信アーカイブはこちらから↓

連載コラム「タイでサル調査!研究奮闘記」配信開始のお知らせ
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n28a1dc0c9402
第1話「海外調査の生活拠点」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n985accf6fef3
第2話「調査地で楽しむタイ料理!食事編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n5444528ab0bb
第3話「シャワーも命がけ!?お水事情その①」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nf5bcd9a17bc1
第4話「シャワーも命がけ!?お水事情その②」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n7c4f68bf12d1
第5話「シャワーも命がけ!?お水事情その③」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n56d26d529251
第6話「泥水との激戦を終えて」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n375ca4ab7be2
第7話「調査生活のオトモ!タイの犬たち」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n7968f75aea75
第8話「その日のことはその日のうちに!調査の1日のルーティンワーク」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nfdac8fac1ec6
第9話「忘れ物確認ヨシ!調査時の装備について」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n4fef7eb2e320
第10話「写真へのこだわり」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/na4da37e13e8d
第11話「誰だ誰だかわからない!個体識別の話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n1648bde20bab
第12話「ゲシュタルト崩壊!全頭識別への道」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n24c3478ea661
第13話「サルたちの名前の付け方の話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nb6a8e6119ced
第14話「タイの仏教文化とサルたちの関係について」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n9a7a6814730d
第15話「タンブン行為で私が心配していること」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nd1360f5568af
第16話「タイ生活の必需品、プラクルアンとは?」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n6bcc5b875bb5

タイ南北調査特集はこちらから↓
第17話「南北調査シリーズ開始&YouTubeチャンネル開設のお知らせ」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/ncab1c13b6bf9
第18話「南部調査その①:Puckerを拝みに...キタブタオザル編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n5d3df0969439
第19話「南部調査その②:白いメガネが印象的!ダスキールトン編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/na32091a5b055
第20話「南部調査その③:見慣れたサルのはずなのに...ベニガオザル編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n3488e5942c1a
第21話「南部調査その④:アナタどこにでもいるわね!カニクイザル編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n219720155be3
第22話「北部調査その①:黄金の赤ちゃんを求めて〜ファイヤールトン編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/ndeb079c8825c
第23話「北部調査その②:ガイコツの隣でうんち拾い...アッサムモンキー編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/naf23f701a677
第24話「南北調査おまけ:噂のココナッツモンキーを求めて−モンキースクール編」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nfb50e551aa1a

第25話から調査地シリーズに戻ります↓
第25話「年に一度の風物詩!コウモリ集団飛翔の撮影秘話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n0b4911b372e2
第26話「気づけば部屋が虫だらけ!マレーンマオ大量発生の悲劇」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n264fade216ea
第27話「思い出いっぱい!タイで購入したmy冷蔵庫の話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n071966d6f39a
第28話「クリスマスにひとりで死にかけた話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nead29459b1db
第29話「調査地での同居人・チンチョッとの日々のあれこれ」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nab48db873ca1
第30話「30回更新記念:タイサル!シリーズの振り返りと今後について」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nd7f4df7fdc46
第31話「雨の日の定番!カエルの唐揚げができるまで」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n46e0aa051425
第32話「ベニガオザルの噂の真相」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/ndde380f51a93
第33話「担当イラストレーターさんとnoteコラボやオリジナルグッズ誕生について対談してみた」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n2d34def8697b
第34話「調査地を思い出すタイの歌ー独断と偏見で選ぶ私的25選」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n95cddb7e6dfb
第35話「11月といえば!タイの恒例行事、ロイクラトンの話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n2999bc1434a5
第36話「調査地の山に眠る黄金の仏陀像を拝みに行った話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nf5f6521ee811
第37話「第2の調査地開拓なるか!?お隣さんの視察調査の話」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n913898fb06a2
第38話「あくびシリーズの隠れミッション:ベニガオさんの犬歯サイズを記録せよ!」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/ne3dcefbabb72
第39話「謹賀新年!2021年の振り返り&調査地で過ごした年越しの思い出」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n70a15e661168
第40話「調査地で出会った憧れの奇蟲スペシャル※蟲警報再発令!」
https://note.com/arctoidestoyoda/n/nc0b490d76cf7

番外編の過去の配信アーカイブはこちらから↓
私論:「ココナッツモンキー」は動物虐待なのか?
https://note.com/arctoidestoyoda/n/ne6add28fc064
遺跡の街ロッブリーに住むカニクイザルの歴史
https://note.com/arctoidestoyoda/n/n1679cb4029b2

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