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立春,兵庫の展覧会など

いくつか、最近訪れた展覧会や建築をレポートします。

1.兵庫県立美術館「李禹煥」展

兵庫県立美術館が現在のHAT神戸に開館してから20周年を記念して開催されている、「もの派」を代表する国際的芸術家の李禹煥の回顧展です。東京・国立新美術館との共催で、兵庫県立美術館が後の巡回となりました。
 李が中心メンバーとして牽引する「もの派」の作風は、その名前の通り自然・人工の「もの」そのものを限りなく無加工で使用しているところが特徴です。なお、「もの派」という名前自体は、もの派メンバーが作品を生み出し始めた1960年代当時、批判的に付けられたことがルーツのようです。
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展示は兵庫県立美術館の企画展示室をたっぷりと使い、1室に1テーマが割り当てられた明快な展示構成でした。大きくは前半に彫刻、後半に絵画が配置され、それぞれのジャンルに対してどのように李の取り組み方が変化してきたのかを作品自体を通して理解することができます。
 冒頭に現れる印象的な彫刻のシリーズ「関係項」は石・鉄・ガラス等を組み合わせた立体作品です。これらは異なる素材同士や、場合によっては複数の同じ素材の反復で、素材の特性が可視化されています。例えば、複数枚の巨大な鉄板が壁に立てかけられており、それらが滑って地面へと倒れていく様子を順に表現した「関係項」では、鉄板に加わる重力や時間の経過があたかも切り取られたシーンの連続のように感じられます。また、絵画作品「点より」「線より」では時間の経過を単純な行為の反復によって見出そうとしていることが伝わりました。
 これらの作品に共通して感じたことは、作品の中に包含された「間」が感じられるということです。それは時間としての「間」であれば、何か変化が起こる前と後が同じ作品内に同居しており、鑑賞者は自ずとその間にある時間を想像することにつながります。また、空間としての「間」であれば、ものとものの間にある視覚化された空間もあれば、カンヴァス上に表現された空白としての空間もあります。こういった「間」は李の考えるところの、あらゆるものの相互関係によるものと言えるかもしれません。
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展示室は基本的にはホワイトキューブなので、作風も相まって展示空間全体がとてもプレーンな印象を受ける展覧会でした。中にはサイトスペシフィックな展示もあり、以前に李がフランスのラ・トゥーレット修道院で展示を行なったものを再現した、「関係項-棲処(B)」は、美術館の光庭を使用して展示されました。石を敷き詰めたり積み上げたりして古代からの人間の営みとしてのすみかを表現したこの作品は、元々はコルビュジエの建築の持つモダンさ・純粋さに対して、ダイナミックさや荒々しさを表現する狙いがあったようです。今回の展示では、安藤忠雄の建築の中で展開されることとなり、建築の無骨なコンクリートの壁面や重厚な建具によって、対比ではなく、良く調和していたように思います。

(展示室内は土日のみ撮影禁止でしたので、詳しくは館HPの展示構成を参照ください。)

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ちなみに、今回の展示が非常にプレーンでピュアな印象を持ったのは、解説パネルの類を一切排していたことも要因の一つでした。代わりに、音声ガイドによって作品の背景等を説明していました。個人的な話ですが、音声ガイドは作品への理解を深めるにはとても良いツールだと思う一方で、鑑賞のテンポが音声ガイドに合わせる形になってしまうことや、音声ガイドの操作に気を取られてしまうのがあまり好きでなく、普段は使用しないことが多いのです。今回は使用しましたが、活字で読む方がいいなあ、とも思いました。あと、ガイド内容はWEB上でストリーミング再生する形式でしたが、楽天モバイルユーザーでしたので電波環境が悪い館内でやたらと準備に時間がかかりましたね。


2.姫路市立美術館「庭園アートプロジェクト 中谷芙二子《霧の彫刻 #47769 白鷺が飛ぶ》」

中谷さんの「霧の彫刻」は有名ですが、そういえば生で見たことが一度もないぞと思い、見に行きました。実際に間近で見た感想としては、風向きや日差しの状態で大きく印象が変わってくる作品であり、その面白さを前提とした作品だなあというものです。私が見ている間も、風によって大きく霧が流されて、撮りたい写真のアングルに上手くハマらず、ということがしばしばありました。また、訪れた日は太陽が出ている日でしたが、もしかすると曇天の方がより霧の厚みを感じられるのかも、とも思いました。
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ところで、姫路自体は仕事の都合で10回以上は訪れており、姫路城へのありがたみも薄いのですが、そういえば一度も天守に登ったことが無いということもあり、もうすぐ関西を離れることもあって、せっかくなので天守に登りました。

やはり単独で世界遺産になっているだけあり、流石の規模です。天守以外も門、塀などが多くが残っており、城郭全体の保存状態がかなり良いことがわかります。私自身は特に城郭建築に詳しかったり好きであったりするわけではないので説明は省きますが、天守の造形は大きいだけではなく唐破風・千鳥破風などの重なりによる豪華さが上手くまとめられた美しいバランスを持っていると思います。

入母屋破風の内側。
なかなかこういう部分が見られるのは珍しいですよね

直近で、復元城郭で内部が博物館化している福山城を見ていたこともあってか、がらんどうで質素な内部空間には、「そうか、城の中って普通はこうだよな」と妙に感心してしまいました。同時期の書院や住宅などと比べると、城はやはり軍事施設であり、居住空間も装飾もない飾り気ない空間は、戦国の世を映す最後の建築のようにも思います。
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余談ですが、私は公私関係なく姫路を訪れた際は、必ず姫路駅構内で御座候を買って帰ります。この御座候にまつわる商品名称の論争はいろいろある(大判焼き、回転焼き、今川焼きetc)と思いますので割愛しますが、やはり御座候は他の商品と比べても、あんこの量が多く、しかもおいしいのです。このこだわりが知りたい方は、御座候のあずきミュージアムに行くとよくわかると思います。

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