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新春,東京の展覧会 上

あけましておめでとうございます。

東京の展覧会をいくつか巡りました。

1.国立新美術館「DOMANI 明日展」

コロナウイルス感染症拡大期を除いて、毎年開かれている現代アートの展覧会です。今回初めて観覧しました。
 展覧会タイトルだけでは伝わりにくいのですが、要は第一線級で活躍する現代アーティストを海外に派遣する「新進芸術家海外研修制度」に選ばれた作家をピックアップする展覧会ということです。今回は10名の作家を取り上げています。

展覧会ポスター等、キービジュアルとして取り上げられているのは、石塚元太良氏の写真作品「Shoup Glacier #001」です。北極の氷河を撮影した大判の写真作品で、われわれのイメージする「青い」氷河を象徴的に切り取っています。氏の写真は単なるアートではなく、ドキュメンタリー性を包含したものであることが、展覧会で掲示されていた本人のコメントからも伝わってきました。ほかにも、写真を編み込むことで写真の2次元的な表現からの脱却を考察した作品も興味深いものでした。


展示会場である国立新美術館は、黒川紀章氏設計の名建築です。波状の正面ファサードは、内部で展開する円錐形のヴォリュームに呼応したもので、RCの円錐型ヴォリュームは楔のように突き刺さり広大なホワイエを適度に分節しています。
 一見して大胆な造形の建築物ですが、美術館としては合理的な設計で、直前状に伸びるホワイエに展示室が複層に面しており、フロントとバックヤードが明確に区分けられています。気になることといえば、カフェと展示室が一連の空間に属していることでしょうか。


2.TOTOギャラリー間「How is Life? ---地球と生きるためのデザイン」


TOTOギャラリーでの展示としては珍しく、特定の建築家を取り上げるのではなく、あるテーマをもとに建築家をキュレーターとして迎えた展覧会です。
 キュレーターは、塚本由晴氏、千葉学氏、セン・クアン氏、そして田根剛氏の4名です。

持続可能な開発目標、SDGsが提唱され多くの業界で浸透しつつありますが、そこから一歩進んで「成長なき繁栄」(展覧会リーフレットより)を検討していくための建築的提案を複数取り上げた展覧会です。
 個人的に興味深かったものを1つ取り上げて紹介しますが、「ReBuilding Center JAPAN」の取り組みを紹介した展示では、長野県諏訪市で同名の団体が取り組んでいる、地域内で民家が解体される際に古材・古道具等を「レスキュー」して価値づけ、再流通させる事業を紹介しています。

実際の展示のようす
レスキューされた建具等を配置

これは現代の価値観においては先進的で、建築のリサイクルや発生するエネルギーの問題が叫ばれている中での1つの解決策として位置付けられる取り組みだと思いますが、建具や道具を繰り返し使うという行為は近世以前では当たり前のように行われていたはずです。もちろん、現代でもセレクトショップ等で古道具が扱われているのはよく見かけますし、町家や古民家のリノベーションで古い建具をうまく使う事例もあります。しかし、この取り組みがもっとも特徴的なのは、デザインの力で古材に主観的ではない価値を与え、流通に乗せるということかと思います。また、一定の地域内でネットワークを形成し流通により循環のサイクルを生み出している、という点において、取り組み自体の持続性や発展性を担保できている事業になっています。
 このほかにも、農業、都市インフラ等をテーマとした取り組みは興味深いものばかりでした。建築を専門としない方にも身近に感じられるテーマも多いのではないのでしょうか。HPにもコンテンツがあるので、併せて見ることでより興味を深められるかもしれません。


3.東京都庭園美術館「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」

旧朝香宮邸を保存・活用した東京都庭園美術館で開かれている展覧会です。

旧朝香宮邸は1933年竣工のアールデコ様式の建築です。あっさり書いてしまうとこうなりますが、内装はやはり元々宮家の住居ということもあり非常に装飾的で、様式建築の系譜を色濃く残している部分や、ウィーン工房的なデザインの壁紙、建具等も見られます。それも、当時の第一線級のデザイナーを用いた文字通り一級品ばかりです。
 この展覧会では、アールデコをはじめヨーロッパを中心に同時多発的に発生した近代の芸術運動の流れについて、ウィーン工房からモダニズムに至るまでの動きを家具、食器、テキスタイルなどの展示物から紐解いています。
 建築やデザインを学んでいる人にとっては、よく知っている内容の展示かと思いますが、やはり同時代の、それも一級品の建築の中で見るというのは、ホワイトキューブの展示室で見るのとは異なり、製作当時の様子などが大いに掻き立てられます。
 この展覧会で取り上げられている建築やデザインの近代運動が、大戦間期の20〜30年ほどで展開されたことを考えると、当時のデザイナーがそれまでの様式から脱却し、独自のスタイルを生み出そうと、いかに試行錯誤してきたのかがわかります。
 展覧会はバウハウスのデザインで締めくくられていますが、個人的な好みとしてバウハウスはデッサウ時代よりヴァイマール時代のデザインが好みです。ウィーン分離派から始まりモダニズムまで、グラデーション的に変化していく中で、ちょうど手仕事としてのデザインの末期にあたる部分であり、手仕事としてのデザインの完成形にあたるのでは、と思います。
 また余談ですが、建築家・上野伊三郎とリチ(フェリーツェ・リックス)についても取り上げられていますが、上野の「スターバー」を初めて見て以降、彼のデザインのファンになってしまいました。建築史の中ではあまりメジャーな建築家ではありませんが、こういった形で紹介されるのはありがたいですね。


展覧会のあと、お洒落な書店やセレクトショップに詳しい友人に連れられて、恵比寿にある「POST」という書店を訪れました。(外観の写真は撮り忘れました)

輸入書籍、それも大判本を中心に扱う書店で、建築関連の本も数は少ないですが取り扱っていました。ここで買ったのが『HORTA AND AFTER -25 Masters of Modern Architecture in Belgium』です。

ふたたび個人的な好みなのですが、学生時代よりアール・ヌーヴォーの建築を愛好していました。学生時代には、ヴィクトリア・オルタの建築が見たいがためにブリュッセルを訪れたほどです。しかし、オルタはじめとしてアール・ヌーヴォーの建築家は知っていても、以降のベルギーの建築家はあまり知らないため、この本を手に取って新しい発見がたくさんありました。まだきちんと読んだわけではないのですが、戦後期にはオランダ表現主義的な建築家や純モダニズム的な建築家が活躍したようです。


下では、
・東京国立近代美術館「大竹伸朗展」
・国立近現代建築資料館「原広司ーーー建築に何が可能か」展
・高島屋史料館Tokyo「百貨店展」
と、見つけた建築についての紹介と感想を書く予定です。

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