見出し画像

「新聞大学」で学ぶ日本国憲法~憲法記念日の社説から

 憲法記念日(5月3日)には、新聞各社の社説や論説を読んで、改めて日本国憲法の原文を見るように心がけています。今は社説をネット上で読むことができるので、コロナ禍で外出を控えている身にとっては、ありがたいことです。
 さて、表題の「新聞大学」ですが、この名前の4年制大学があるわけではありません。日本農業新聞のコラム(2021年4月6日)で知ったのですが、英文学者の外山滋比古さんが提唱したそうです。自宅にいながら日々、最新情報が得られる新聞こそが、最良の知のテキストだということです。
 新聞を読むことで、知らないことを学んだり、「そういう見方もできるのか」と新たな気づきを得たりできます。「新聞大学」の5月3日の講義は、迷うことなく「憲法」を選びました。
 改めて日本国憲法の生い立ちを学び直したのが、中日新聞(東京新聞)の「憲法記念日に考える 人類の英知の結晶ゆえ」でした。1945年12月に民間の「憲法研究会」が新憲法案を起草し、連合国総司令部(GHQ)に出していました。統治権が天皇ではなく、「国民ヨリ発ス」として、国民主権を明確にしていたことが特筆されています。
 さらに、戦争放棄の第9条冒頭の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」は、GHQ案にも政府案にもなく、議会の小委員会で提案された文言だったということを知りました。
 社説は憲法の押しつけ論に対して「歴史を深く顧みてほしいものです」と結んでいます。早速、「新聞大学」から課題を出されました。

 最近の政治、社会、特にコロナ禍での法治システムのあり方を問題提起する社説が目立ちました。
 朝日新聞「コロナ下の記念日 憲法の価値 生かす努力こそ」。毎日新聞「コロナ下の自由と安全 民主社会の力を示したい」。読売新聞「憲法記念日 新たな時代へ課題を直視せよ」。産経新聞「憲法施行74年 抑止力阻む9条は不要だ 菅首相は改正論議を加速せよ」。北海道新聞「きょう憲法記念日 生きる権利の支柱として」。西日本新聞「コロナ禍と憲法 問われる民主主義の真価」。信濃毎日新聞「憲法記念日に 法の下の平等貫くには」。高知新聞「法の支配のゆがみを正せ」。佐賀新聞「危機こそ法の支配徹底を」などです。
     ◇
 感染拡大で非正規労働者らへのしわ寄せが深刻化するなか、「生存権」に注目が集まります。憲法25条1項が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に言及した社説が、いくつもありました。この文言もGHQ草案になく、帝国議会衆院憲法改正小委員会の審議で追加された(北海道新聞)ことも、「新聞大学」で知りました。
 この生存権について、一般紙とひと味違った主張をしたのが、日本農業新聞の「憲法と食料安保 農こそ生存権の基本だ」です。感染症のまん延で、「生存に欠かせない医療や介護、マスクなどの衛生用品や食料などのサプライチェーン(供給網)の大切さを突き付けた」と問題を提起。スイスが憲法で食料安全保障条項を加え、政府が食料供給に責任を持つことを明確にした事例を挙げて、基本的人権や生存権の基盤として食料安全保障を位置付けることは、一考に値すると指摘しています。我が意を得たりの思いでした。
 このほかの条項では、憲法第23条の学問の自由も多く取り上げられました。日本学術会議が推薦した候補者のうち6人の任命を菅首相が拒否したことについて、「恣意的な人事であるのならば、学問の自由を脅かす不当な政治的介入である」(高知新聞)、「人事を盾に明確な理由の説明もしていない」(新潟日報)など、説明責任がないことに言及していました。

 憲法改正の手続きを示した国民投票法改正案についても、多くの社説がふれていました。琉球新報は、自民・公明両党が週明け5月6日の衆院憲法審査会で採決し、11日に衆院通過させる方針だとして、「多くの問題について議論は一切深まっていない」と指摘します。
 政党のテレビ・ラジオへのスポット広告について費用制限などがないことが国会でも議論されています。中国新聞は一昨年の参院選広島選挙区で自民党本部が陣営に渡した選挙資金1億5000万円の使途すら明らかにされていない管内の現状を指摘して、「カネを大量投入して多数派を握ろうとする動きが広がるとすれば公平ではない」としています。

 今年も感染拡大の中で迎えた憲法記念日です。手元に置いて読み返している「新訂版教科書・日本国憲法」(一橋出版)と、「新聞大学」の生きた教材を使いながら、憲法条文を見直してみると、どれも大切なことばかりでした。
 なかでも、感染症対策で後手に回っている感じがする昨今。憲法第25条2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」は、感染症予防や検疫も含めた対策の責務を明確にしています。そして、感染症については、私たちも正しい情報を調べて、自らを守っていく努力も欠かせません。

 「第12条は自由や権利を保持する『不断の努力』を国民に求めた。憲法が社会に生かされていなければ声を上げるのは、主権者としての国民の責務と言える」(北海道新聞)。
 変異型ウイルスが主流となった感染症拡大のなかで、憲法を考える大事な1年となりそうです。
(2021年5月5日)

(表紙写真は、多彩な色とかたちの風船たち=2021年4月3日、名古屋市千種区の揚輝荘で)(2枚目写真は、こいのぼり風が吹くまで昼寝かな=2019年4月21日、長野県飯田市天竜峡で)(3枚目写真は、バンクシーのCCTV〈監視カメラ〉の下のひとつの国=2021年2月2日、旧名古屋ボストン美術館のバンクシー展で)(4枚目写真は、いたずらか啓蒙か?=2021年3月23日、名古屋市東区の公園で)(最後の写真は、ロダンの「考える人」)=2021年4月22日、名古屋市博物館で)いずれも©aratamakimihide

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?