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論文まとめ325回目 SCIENCE 脳と筋肉の時計の連携が筋肉の老化を防ぐ!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Atomic physics on a 50-nm scale: Realization of a bilayer system of dipolar atoms
50ナノメートルスケールの原子物理学:双極子原子の二層系の実現
「原子は通常、光の波長である500ナノメートル程度の間隔で操作されますが、この研究ではそれよりはるかに近い50ナノメートルの間隔で原子を配置することに成功しました。ジスプロシウム原子を2層に並べ、一方の層を操作すると、もう一方の層に影響が及ぶことを観測。これは層間の強い双極子相互作用によるもので、500ナノメートル間隔に比べて1000倍も強力です。この手法により、原子を使った超高速量子ゲートの実現に道が開けると期待されます。」

Momentum-exchange interactions in a Bragg atom interferometer suppress Doppler dephasingBragg
原子干渉計における運動量交換相互作用によるドップラー位相緩和の抑制
「超冷却原子を光共振器に閉じ込めると、光子を介して無限に遠くまで及ぶ相互作用が実現します。本研究では、垂直な定在波共振器中のルビジウム原子を使い、レーザー光を照射することで、原子ペアが運動量を交換する相互作用を実現しました。これにより、量子磁性のモデルや、メスバウアー効果に似た集団的原子反跳現象が実現できたのです。この相互作用は、量子シミュレーションや精密測定の可能性を大きく広げるものです。」

N-type semiconducting hydrogel
n型半導体ハイドロゲル
「ハイドロゲルは水分を多く含むゼリー状の物質で、生体との親和性が高く、イオンの通りも良いので、生体センサーなどへの応用が期待されています。しかし、電子を通しにくいため、電気信号を取り出すのが難しいという問題がありました。今回、導電性ポリマーを使って半導体の性質を持つハイドロゲルの開発に成功。このハイドロゲルを使った素子を作製し、脳波を増幅して検出することに成功しました。生体に密着して使える新しいタイプのエレクトロニクスへの応用が期待できます。」

Brain-muscle communication prevents muscle aging by maintaining daily physiology
日々の生理機能を維持する脳と筋肉のコミュニケーションが筋肉の老化を防ぐ
「体内時計が狂うと早期老化や筋力低下が起こります。マウスで脳と筋肉の時計の働きを別々に復活させると、両方揃って初めて老化防止効果が見られました。筋肉時計は脳からの有害なシグナルを遮断する「ゲートキーパー」の役割を果たし、筋機能に重要なシグナルだけを選んで取り込んでいました。食事のタイミングも脳と筋肉の時計の連携に影響します。体内時計のネットワークを整えることが、筋肉の若さを保つ秘訣のようです。」

Cachd1 interacts with Wnt receptors and regulates neuronal asymmetry in the zebrafish brain
Cachd1はWnt受容体と相互作用し、ゼブラフィッシュ脳の神経細胞の非対称性を制御する
「脳の左右で神経細胞の性質が異なる現象は広く知られていますが、その仕組みには謎が多く残されています。ゼブラフィッシュを用いた遺伝学的スクリーニングにより、細胞膜タンパク質Cachd1が手綱核の神経細胞の左右差の獲得に必須であることが新たに分かりました。Cachd1はWntシグナル伝達の共受容体と結合し、神経発生のタイミングを調節することで左右差の形成に寄与していました。脳の左右性の理解が大きく前進する発見です。」

Realization of fractional quantum Hall state with interacting photons
相互作用する光子を用いた分数量子ホール状態の実現
「強い磁場中の二次元電子系で現れる分数量子ホール状態は、トポロジカルに保護された特殊な量子状態で、量子コンピュータへの応用が期待されています。この研究では、超伝導量子ビットを格子状に配置し、光子を用いて分数量子ホール状態を人工的に作り出すことに成功しました。4×4の量子ビット格子を用いて、電子の分数量子ホール状態に類似したトポロジカルな性質を持つ強相関光子状態が形成されることを実証。磁場を使わずに分数量子ホール状態を自在に操る新たなプラットフォームとして注目されます。」

Risk of meningomyelocele mediated by the common 22q11.2 deletion
一般的な22q11.2欠失によって媒介されるメニンゴミエロセルのリスク
「メニンゴミエロセルは最も重篤な二分脊椎の一種で、中枢神経系の先天異常として最も多いものです。多国間の大規模な研究コンソーシアムを設立し、715組の親子のゲノムを解析した結果、22番染色体長腕の一部(22q11.2)が欠失している患者では、メニンゴミエロセルのリスクが23倍に跳ね上がることが判明しました。さらにマウス実験から、欠失領域内の遺伝子CRKLを失うと神経管閉鎖不全が起こり、葉酸が不足するとより重症化することがわかったのです。一般的な22q11.2欠失は、葉酸サプリである程度予防できるメニンゴミエロセルの大きな リスク因子だったのです。」


要約

原子を50ナノメートルの超近接に配置し、強い双極子相互作用を実現

https://doi.org/10.1126/science.adh3023

本研究では、光の回折限界を超えて原子を50ナノメートル以下の間隔で配置する超解像技術を開発し、ジスプロシウム原子の二層系を作製した。2つの層は物理的に分離されているにも関わらず、層間の同情冷却と結合した集団励起を通じて、層間の双極子相互作用を観測することに成功した。50ナノメートルの距離では、双極子相互作用が500ナノメートルの場合と比べて1000倍も強力になる。光ピンセットで捕捉した2つの原子の場合、これにより純粋に磁気的な双極子ゲートをキロヘルツの速度で実現できると期待される。

事前情報

  • 大きな双極子モーメントを持つ原子間の双極子相互作用は、量子シミュレーションに利用できる

  • 原子間距離を縮めることで、双極子相互作用を増強できる可能性がある

  • 光の波長が実験の典型的な長さスケールを500ナノメートル程度以上に制限している

行ったこと

  • 原子を50ナノメートル以下の間隔で局在化・配置する超解像技術を開発

  • ジスプロシウム原子の二層系を作製し、層間距離を約50ナノメートルに設定

  • 一方の層に作用することで、もう一方の層に振動を生成

検証方法

  • 層間の同情冷却の観測

  • 2つの層の結合した集団励起の測定

  • 固体系のクーロンドラッグ測定に関連する実験の実施

分かったこと

  • 50ナノメートルの距離で、物理的に分離された2つの層の間に双極子相互作用が存在する

  • 50ナノメートルの距離では、双極子相互作用が500ナノメートルの場合に比べて1000倍強力になる

  • 光ピンセットで捕捉した2原子の場合、純粋に磁気的な双極子ゲートをキロヘルツの速度で実現できる可能性がある

  • 原子を配置する際の空間分解能に原理的な限界はない

研究の面白く独創的なところ

  • 光の回折限界を打ち破り、原子を50ナノメートル以下の超近接に配置する技術を開発した点

  • 2つの物理的に分離された原子層の間に、強力な双極子相互作用を実現した点

  • 一方の層を操作することで、もう一方の層に影響を及ぼせることを示した点

  • 固体系のクーロンドラッグ測定に類似した実験を、中性原子気体で実現した点

この研究のアプリケーション

  • 原子を用いた量子シミュレーションにおける新しい可能性の開拓

  • 双極子相互作用を利用した超高速量子ゲートの実現

  • 固体系で難しい極限状況下での量子多体現象の解明

  • 任意の原子配列を作製する超解像技術の応用

著者と所属

Li Du, Pierre Barral, Michael Cantara, Julius de Hond, Yu-Kun Lu, Wolfgang Ketterle (Department of Physics, MIT-Harvard Center for Ultracold Atoms, Research Laboratory of Electronics, Massachusetts Institute of Technology)

詳しい解説

本研究は、原子を光の波長よりはるかに近い距離に配置し、それらの間の相互作用を自在に制御する革新的な技術を開発した成果です。従来、原子を操作する際の空間分解能は、光の回折限界により制限されていました。可視光の波長は数百ナノメートル程度なので、原子間距離もそれ以上に保つ必要がありました。しかし、原子間の双極子相互作用を増強するには、原子をできるだけ近づける必要があります。
研究チームは、この課題に挑戦し、原子を50ナノメートル以下の超近接に配置する超解像技術を開発しました。この手法には原理的な分解能の限界がなく、原子を任意の間隔で配置できます。彼らはこの技術を用いて、双極子モーメントの大きなジスプロシウム原子を2層に並べ、層間距離を約50ナノメートルに設定しました。2つの層は物理的に分離されているにも関わらず、一方の層を操作するともう一方の層に影響が及ぶことを観測しました。これは、固体系で知られるクーロンドラッグ測定に類似した実験です。
層間の結合は、同情冷却と呼ばれる現象や、集団励起状態の振動を通じて確認されました。50ナノメートルの超近接距離では、双極子相互作用が500ナノメートル間隔の場合と比べて1000倍も強力になります。この増強された相互作用を利用すれば、光ピンセットで捕捉した2つの原子に純粋に磁気的な双極子ゲートを施し、超高速の量子演算を実現できると期待されます。
本研究は、原子物理学に新たな地平を開くものです。光の波長に制限されない自在な原子配列と、増強された双極子相互作用を武器に、これまで実現の難しかった量子多体現象のシミュレーションや、大規模な量子計算の実現が期待できます。また、この超解像技術は原子に限らず、他の量子システムにも応用可能であり、量子技術全般の発展を加速するでしょう。
原子を自在に操る技術は、量子コンピューターや量子センサーなどの次世代デバイス開発の鍵を握っています。本研究はその基盤技術の一つとなる可能性を秘めており、今後の展開から目が離せません。原子スケールの量子の世界を思いのままに設計・制御する。そんなSFの世界が現実のものとなる日も、もしかしたらそう遠くないのかもしれません。


Bragg原子干渉計における運動量交換相互作用がドップラー位相緩和を抑制する

https://doi.org/10.1126/science.adi1393

本研究では、無限に遠くまで及ぶ光子を介した相互作用を通じて相互作用する、レーザー冷却された大規模な原子集団を実現した。垂直な定在波共振器中の冷却ルビジウム原子を用い、共振器内にレーザー光を照射することで、原子ペアが共通の共振器モードから光子を集団的に放出・吸収し、運動量を交換する相互作用を実現した。この運動量交換相互作用により、物質波干渉計におけるイジング型の全結合相互作用が観測され、また多体エネルギーギャップが生じ、メスバウアー分光法と類似した、ドップラー位相緩和の抑制効果が見られた。この制御可能な運動量交換相互作用は、量子相互作用を利用した物質波干渉計の性能を拡張し、超伝導体やダイナミカルゲージ場のシミュレーションなど、新奇な現象の実現につながる可能性がある。

事前情報

  • 光共振器中の超冷却原子は、光子を介した無限に遠くまで及ぶ相互作用により、量子シミュレーションや精密測定に有用なプラットフォームとなる

  • スピン交換やXX型の集団的ハイゼンベルク相互作用に相当する、原子ペア間の運動量交換過程は、これまで実現されていなかった

行ったこと

  • 垂直な定在波共振器中の冷却ルビジウム原子を用いた実験系を構築

  • 共振器内へのレーザー光照射により、原子ペア間の運動量交換相互作用を実現

  • 物質波干渉計における全結合イジング型相互作用の観測

  • 多体エネルギーギャップの発現とドップラー位相緩和の抑制効果の観測

検証方法

  • 物質波干渉計を用いた、全結合イジング型相互作用の測定

  • 原子集団のラムゼー干渉実験によるドップラー位相緩和の評価

  • 理論モデルとの比較によるエネルギーギャップの検証

分かったこと

  • 運動量交換相互作用により、物質波干渉計における全結合イジング型相互作用が実現できる

  • 運動量交換相互作用に起因する多体エネルギーギャップにより、物質波パケットが束縛され、メスバウアー分光法と類似したドップラー位相緩和の抑制効果が生じる

  • 運動量交換相互作用は制御可能であり、量子相互作用を利用した物質波干渉計の性能拡張に役立つ

この研究の面白く独創的なところ

  • 原子ペア間の運動量交換相互作用を初めて実現した点

  • 物質波干渉計における全結合イジング型相互作用を観測した点

  • メスバウアー効果と類似した集団的原子反跳現象を見出した点

  • 量子シミュレーションや精密測定に新たな可能性を開いた点

この研究のアプリケーション

  • 量子相互作用を利用した物質波干渉計の性能向上

  • 超伝導体やダイナミカルゲージ場など、新奇量子現象のシミュレーション

  • 精密測定や量子センシングへの応用

著者と所属

Chengyi Luo, Haoqing Zhang, Vanessa P. W. Koh, John D. Wilson, Anjun Chu, Murray J. Holland, Ana Maria Rey, James K. Thompson (JILA, National Institute of Standards and Technology and University of Colorado, and Department of Physics, University of Colorado, Boulder, CO, USA)

詳しい解説

本研究は、光共振器中の超冷却原子集団における新たな相互作用の形態として、原子ペア間の運動量交換相互作用を実現した画期的な成果です。
研究チームは、垂直に配置された定在波光共振器中に閉じ込めた冷却ルビジウム原子を用いた実験系を構築しました。共振器内にレーザー光を照射すると、原子ペアが共通の共振器モードから光子を集団的に放出・吸収することで、お互いの運動量状態を交換する相互作用が生じます。この過程は、スピン交換やXX型の集団的ハイゼンベルク相互作用に相当します。
運動量交換相互作用が実現されたことで、物質波干渉計における全結合イジング型相互作用が観測されました。また、多体エネルギーギャップが生じることで、干渉計の物質波パケットが束縛され、メスバウアー分光法と類似したドップラー位相緩和の抑制効果が見られました。
この成果は、量子相互作用を利用した物質波干渉計の性能を拡張する新たな手法を提供するものです。運動量交換相互作用は制御可能であり、干渉計の感度向上や雑音の低減に役立つと期待されます。
さらに、この相互作用を利用することで、超伝導体やダイナミカルゲージ場など、新奇な量子現象のシミュレーションが可能になるかもしれません。光格子中の超冷却原子を用いた量子シミュレーションは、近年盛んに研究されていますが、本研究で実現された運動量交換相互作用は、そのような量子シミュレーションの対象を大きく広げる可能性を秘めています。
本研究は、光共振器中の超冷却原子集団という、量子光学と原子物理学の融合領域において、新たな相互作用の形態を実現した点で非常に意義深いものです。今後、この相互作用を利用した量子シミュレーションや精密測定の発展が大いに期待されます。


半導体の性質を持つ新しいハイドロゲルの開発に成功

https://doi.org/10.1126/science.adj4397

本研究では、水溶性のn型半導体ポリマーを用いて、単一および複数のネットワークを持つ半導体ハイドロゲルを開発しました。このハイドロゲルは良好な電子移動度と高いオン/オフ比を示し、低消費電力で高利得の相補的論理回路や信号増幅器の製造を可能にしました。また、生体との接着性と適合性に優れたインターフェースを持つハイドロゲルエレクトロニクスを実現し、高いS/N比で生体電気信号を感知・増幅できることを実証しました。ハイドロゲルに半導体特性を付与することで、従来の絶縁体や導体としての用途を超えた応用の可能性が開かれました。

事前情報

  • ハイドロゲルは力学特性の調整が可能で、生化学的機能が多様で、イオン伝導性に優れた生体インターフェース材料

  • しかし、半導体特性がないため、エレクトロニクスへの応用は絶縁体や導体に限定されていた

行ったこと

  • 水溶性のn型半導体ポリマーを基にした単一および複数ネットワークのハイドロゲルを開発

  • ハイドロゲルの電子移動度とオン/オフ比を評価

  • 半導体ハイドロゲルを用いた相補的論理回路と信号増幅器を製作

  • 生体接着性と適合性に優れたハイドロゲルエレクトロニクスを実現し、生体電気信号の検出と増幅を実証

検証方法

  • ハイドロゲルの電気特性(電子移動度、オン/オフ比など)の測定

  • 論理回路および増幅器の動作確認と性能評価

  • ハイドロゲルデバイスによる生体電気信号(脳波など)の測定とS/N比の評価

  • ハイドロゲルの生体接着性と適合性の検証

分かったこと

  • n型半導体ポリマーを用いることで、半導体特性を持つハイドロゲルの作製に成功

  • 半導体ハイドロゲルは良好な電子移動度と高いオン/オフ比を示す

  • 半導体ハイドロゲルを用いて、低消費電力・高利得の論理回路や増幅器が製造可能

  • ハイドロゲルエレクトロニクスは生体に密着し、高S/N比で生体信号を検出・増幅できる

この研究の面白く独創的なところ

  • 導電性ポリマーを用いて、半導体特性を持つハイドロゲルを初めて実現した点

  • ハイドロゲルの材料設計により、電子デバイスに必要な特性を付与した点

  • 生体適合性に優れたハイドロゲルを用いることで、生体信号の高感度検出を可能にした点

  • ハイドロゲルの用途を絶縁体・導体から半導体へと大きく広げた点

この研究のアプリケーション

  • 生体に密着したウェアラブル・インプランタブルエレクトロニクスへの応用

  • 脳波などの生体電気信号の高感度・低ノイズ計測技術への応用

  • 生体適合性に優れた医療用センサー・デバイスの開発

  • ソフトロボティクスにおける柔軟な電子回路への利用

著者と所属

Peiyun Li, Wenxi Sun, Ting Lei (北京大学、清華大学、中国科学院化学研究所)

詳しい解説

本研究は、ハイドロゲルに半導体特性を付与することに成功した画期的な成果です。ハイドロゲルは水分を多量に含むポリマー網目構造体で、柔軟性や生体適合性に優れることから、生体とのインターフェース材料として大きな注目を集めてきました。また、イオンを通しやすいという特性から、イオン伝導性材料としても幅広く研究されています。
しかし、ハイドロゲルは電子伝導性が乏しいため、エレクトロニクスへの応用は専ら絶縁体や導体としての利用に限られていました。電子デバイスの構築には、電荷のキャリアとなる電子の移動度が重要ですが、高い含水率を持つハイドロゲルでこれを実現するのは困難とされてきたのです。
研究チームは、この課題を水溶性の高い導電性ポリマーを用いることで解決しました。彼らが開発したのは、カチオン性の骨格を持つ導電性ポリマーと、ノンコバレントな架橋剤として働くジスルホン酸塩から成る半導体ハイドロゲルです。このハイドロゲルは水中で膨潤するものの、安定した構造を保ちます。
このハイドロゲルの電気特性を評価したところ、良好な電子移動度と高いオン/オフ比を示すことが明らかになりました。さらに、ハイドロゲルを用いて有機電気化学トランジスタや有機電界効果トランジスタを作製し、これらを組み合わせて相補的論理回路や信号増幅器を構築することにも成功しました。驚くべきことに、これらのデバイスは低消費電力で動作し、高い信号増幅率を示したのです。
研究チームはさらに、半導体ハイドロゲルが生体との高い接着性と適合性を持つことに着目し、生体信号の検出への応用を試みました。ハイドロゲルデバイスを皮膚に貼り付けて脳波を測定したところ、ノイズの少ないクリアな信号を検出することができました。このことは、ハイドロゲルが生体信号の増幅にも有効であることを示しています。
本研究の成果は、ハイドロゲルの可能性を大きく広げるものと言えるでしょう。生体適合性と電子伝導性を兼ね備えた半導体ハイドロゲルは、ウェアラブルやインプランタブルのバイオエレクトロニクスへの応用が大いに期待できます。また、脳波に限らず、心電図や筋電図など様々な生体電気信号の高感度・低ノイズ計測にも役立つことでしょう。
さらに、ハイドロゲルの柔軟性を活かせば、体になじむソフトなエレクトロニクスの実現も夢ではありません。将来的には、ソフトロボティクスにおける電子制御系への応用なども考えられます。
本研究は、ハイドロゲルとエレクトロニクスの融合という新たな分野を切り拓く重要な一歩になったと言えるでしょう。生体との高い親和性を持つ半導体材料の登場は、バイオエレクトロニクスの可能性を大きく広げるものです。今後のさらなる展開が大いに期待される成果だと言えます。


脳と筋肉の時計の連携が筋肉の老化を防ぐ

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj8533

体内時計は日々の生理機能の維持と健康に不可欠だが、筋肉での時計ネットワークの役割は不明だった。時計遺伝子Bmal1を欠損し早期老化を示すマウスで、脳と筋肉の時計を選択的に復活させたところ、両方の時計の連携が筋肉の恒常性維持と老化防止に十分だった。ただし筋機能全体には他の末梢時計の寄与も必要だった。筋肉時計は、脳からの有害シグナルを抑制し筋恒常性に重要なシグナルを選択的に取り込む「ゲートキーパー」として働いていた。食事のタイミングは脳と筋肉時計の相互作用に影響した。中枢と末梢時計の連携が筋機能の日内変動を生み、食事パターンがその相互作用を調節していることが明らかになった。

事前情報

  • 体内の分子時計ネットワークは日々の生理機能と健康維持に重要

  • 哺乳類には中枢(脳)と末梢(各臓器)の時計が存在

行ったこと

  • 時計遺伝子Bmal1欠損マウス(早期老化、筋萎縮)で、脳と骨格筋にBmal1を選択的に発現させて時計機能を復活

  • 脳、筋肉、両方の時計を復活させた際の老化と筋機能への影響を調べた

  • 時間制限給餌の効果も検証した

検証方法

  • 組織特異的Bmal1発現マウスの作製

  • 概日リズム、老化表現型、筋機能の評価

  • 筋肉の遺伝子発現解析

  • 時間制限給餌の影響の解析

分かったこと

  • 脳と筋肉時計の連携が、基本的な筋恒常性機能の維持と早期老化防止に十分

  • 筋機能全体には他の末梢時計の寄与も必要

  • 筋肉時計は脳からの有害シグナルを抑制し、筋恒常性に重要なシグナルを選択的に取り込む「ゲートキーパー」

  • 食事のタイミングは、脳-筋肉時計の相互作用に影響する

この研究の面白く独創的なところ

  • 脳と筋肉の時計を個別に操作し、連携の重要性を示した点

  • 筋肉時計の新しい役割「ゲートキーパー」機能を発見した点

  • 食事パターンが脳-筋肉時計の相互作用を調節することを示した点

この研究のアプリケーション

  • 体内時計の乱れが引き起こす筋肉老化のメカニズム解明に貢献

  • 時計遺伝子を標的とした筋萎縮・サルコペニア予防法の開発に応用可能

  • 食事のタイミング調整による筋機能維持効果の検証に発展

著者と所属

Arun Kumar, Mireia Vaca-Dempere, Thomas Mortimer, Oleg Deryagin, Jacob G. Smith, Paul Petrus, Kevin B. Koronowski, Carolina M. Greco, Jessica Segalés, Pura Muñoz-Cánoves (Universitat Pompeu Fabra, Institució Catalana de Recerca i Estudis Avançats, The Novo Nordisk Foundation Center for Stem Cell Medicine)

詳しい解説

体内時計の乱れは、日々のリズムの異常だけでなく、早期老化や筋力低下をもたらすことが知られています。本研究は、このような表現型の背景にある脳と筋肉の時計の連携メカニズムを解明した画期的な研究です。 時計遺伝子Bmal1を欠損したマウスは、概日リズムの消失に加えて寿命短縮や筋萎縮を示します。研究チームは、このマウスの脳と骨格筋でBmal1の発現を選択的に復活させ、両者の時計機能の回復が個体の表現型にどのように影響するかを調べました。 その結果、驚くべきことに、脳と筋肉の時計の連携が取り戻されるだけで、基本的な筋の恒常性機能が維持され、早期老化が大幅に抑制されることがわかりました。一方、筋機能の全体的な制御には、他の末梢組織の時計の寄与も必要であることが示唆されました。 さらに興味深いのは、筋肉時計の新しい役割の発見です。筋肉時計は、リズムを刻んでいるわけではなく、むしろ脳から送られてくるシグナルの選別に関わっていました。筋機能に悪影響を及ぼすシグナルを遮断する一方で、恒常性維持に重要なシグナルを積極的に取り込む「ゲートキーパー」のような働きをしているのです。 加えて、食事のタイミングが脳と筋肉の時計の相互作用に影響を与えることも明らかになりました。時間制限給餌は、中枢時計の欠損をある程度補償することができたのです。 本研究は、体内時計の乱れによる筋肉老化のメカニズムに、脳と筋肉の時計のコミュニケーションが深く関わっていることを示した点で非常に意義深いものです。中枢と末梢の時計が織りなすネットワークが、筋機能の日内変動を生み出し、それが食事のタイミングによって調節を受けているという新しい概念を提示しました。 今後、時計遺伝子を標的とした筋萎縮やサルコペニアの予防法の開発や、食事のタイミング調整による筋機能維持効果の検証など、様々な応用研究に発展することが期待されます。 超高齢社会を迎えた今、健康寿命の延伸は喫緊の課題です。筋肉の量と質を保ち、身体機能を維持することは、その実現に不可欠です。体内時計のメカニズムの理解が進むことで、より効果的な対策の立案に役立つことでしょう。本研究は、その端緒となる重要な知見を提供したと言えます。


ゼブラフィッシュ脳の左右非対称性を制御する新たな分子メカニズムを発見

https://doi.org/10.1126/science.ade6970

本研究では、ゼブラフィッシュの脳発生を解析し、膜タンパク質Cachd1が手綱核の神経細胞の左右非対称性の獲得に必要であることを発見した。Cachd1の機能喪失により、右側の手綱核ニューロンが左側の性質を獲得する確率が上昇した。Cachd1は神経前駆細胞に発現し、非対称な環境シグナルの下流で機能し、通常は非対称な神経新生のタイミングに影響を与えた。生化学的・構造的解析から、Cachd1はWnt共受容体のFrizzledとLrp6に同時に結合できることが示された。これと一致して、lrp6変異ゼブラフィッシュでは手綱核の非対称性が失われた。エピスタシス実験の結果は、Cachd1が脳内のWntシグナル活性の調節に関与していることを支持した。本研究は、ゼブラフィッシュ脳の側性化した神経細胞のアイデンティティを制御する、保存されたWnt受容体結合タンパク質としてCachd1を同定した。

事前情報

  • 神経系の左右の神経細胞はしばしば非対称な性質を示すが、その違いがどのように生じるかはよくわかっていない

  • 手綱核は脳の左右差が顕著な領域の一つである

  • Wntシグナル伝達は脳の発生や左右差の形成に重要な役割を果たすことが知られている

行ったこと

  • ゼブラフィッシュの遺伝学的スクリーニングにより、Cachd1の機能喪失が手綱核の左右非対称性に影響することを発見

  • Cachd1の発現パターンと機能喪失表現型を解析

  • 生化学的・構造的解析によりCachd1とWnt受容体の相互作用を検証

  • lrp6変異体とのエピスタシス解析によりCachd1のWntシグナルにおける役割を考察

検証方法

  • ゼブラフィッシュの遺伝学的スクリーニングとゲノム編集

  • 免疫染色と in situ ハイブリダイゼーションによる発現解析

  • 共免疫沈降と質量分析によるタンパク質相互作用の検出

  • X線結晶構造解析によるタンパク質複合体の立体構造の決定

  • lrp6変異体を用いたエピスタシス解析

分かったこと

  • Cachd1は手綱核ニューロンの左右アイデンティティの獲得に必要である

  • Cachd1の機能喪失により右側ニューロンが左側の性質を獲得する確率が上昇する

  • Cachd1は神経前駆細胞に発現し、非対称な環境シグナルの下流で機能する

  • Cachd1は通常は非対称な神経新生のタイミングに影響する

  • Cachd1はWnt共受容体のLrp6とFrizzledに同時に結合できる

  • Lrp6の変異でも手綱核の非対称性が失われる

  • Cachd1は脳内のWntシグナル活性の調節に関与している

この研究の面白く独創的なところ

  • 脳の左右差の形成における新たな鍵分子Cachd1を発見した点

  • 表現型ベースの遺伝学的スクリーニングにより重要な遺伝子を同定した点

  • タンパク質の立体構造解析により相互作用様式を原子レベルで明らかにした点

  • Wnt受容体との結合という新たなメカニズムを見出した点

この研究のアプリケーション

  • 脊椎動物の脳の左右非対称性の理解に役立つ基礎的知見

  • 脳の発生や神経細胞の分化におけるWntシグナルの新たな制御機構の解明

  • Cachd1の哺乳類オルソログの機能解析による高次脳機能の非対称性の研究への発展

  • 片側優位の脳機能に関連する神経発達障害の病態解明への手がかり

著者と所属
Gareth T. Powell, Ana Faro, Yuguang Zhao, Heather Stickney, Laura Novellasdemunt, Pedro Henriques, Gaia Gestri, Esther Redhouse White, Jingshan Ren, Stephen W. Wilson (ロンドン大学、ロンドン大学クイーンメアリー校、ケンブリッジ大学、シェフィールド大学)

詳しい解説
本研究は、脳の左右差がどのように形成されるのかという根源的な問いに、ゼブラフィッシュをモデルとして遺伝学的にアプローチしたものです。脳の左右の神経細胞集団はしばしば異なる性質を示しますが、そのような違いがどのように生じるのかは不明な点が多く残されていました。
研究チームはまず、ゼブラフィッシュで大規模な遺伝学的スクリーニングを行い、手綱核という脳領域の左右非対称性に異常を示す変異体を単離しました。原因遺伝子を同定したところ、細胞膜タンパク質をコードするcachd1であることが判明しました。Cachd1の機能を破壊すると、本来は左右で異なる特徴を持つ手綱核のニューロンが、右側で左側の性質を獲得しやすくなったのです。
Cachd1は神経の前駆細胞に発現しており、左右非対称な環境からのシグナルの下流で機能していました。通常は左右で異なるタイミングで起こる神経新生のパターンにも影響を与えていました。つまりCachd1は、神経細胞が生まれる時期の調節を介して、左右差の形成に寄与していると考えられます。
さらに研究チームは、Cachd1がどのような分子機構で働くのかを探るため、生化学的な解析を行いました。すると驚くべきことに、Cachd1はWntシグナル伝達経路の共受容体であるLrp6とFrizzledに直接結合することが明らかになったのです。Wntシグナルは脳の発生や左右差の形成に重要な役割を果たすことが知られていますが、Cachd1がその調節因子として働くことは予想外の発見でした。実際に、lrp6の変異体でも手綱核の左右差が失われること、cachd1変異の表現型がlrp6変異により増強されることから、Cachd1はWntシグナル活性を適切なレベルに調節することで、脳の左右差の形成に寄与していると考えられます。
本研究の成果は、脊椎動物の脳の左右非対称性の新たな制御メカニズムを明らかにしただけでなく、Wntシグナル伝達の調節におけるCachd1の予想外の役割を見出した点でも画期的です。ヒトを含む哺乳類にもCachd1のオルソログが存在することから、今後は高次脳機能の左右差の解明につながることが期待されます。また、左右差の異常が関与する神経発達障害の理解にも、重要な手がかりを与えてくれるかもしれません。ゼブラフィッシュから見えてきた脳の左右性の新たな制御機構が、ヒトの脳の理解にどのようにつながっていくのか、今後の研究の進展が楽しみです。


超伝導量子ビットの格子上で光子の分数量子ホール状態を実現

https://doi.org/10.1126/science.ado3912

分数量子ホール(FQH)状態は、頑健なトポロジカル秩序を持ち、耐障害性量子計算への応用に向いた性質を有している。本研究では、光子ブロッケードと人工ゲージ場を用いたプログラム可能なオンチップ二次元回路量子電磁力学系により、格子版の光子FQH状態を実証した。人工ゲージ場中で光子ローレンツ力とバタフライスペクトルを観測し、FQH状態の前提条件を確認。局在光子から1/2フィリング因子のLaughlin FQH波動関数を断熱的に構成し、FQH光子間の強い密度相関とカイラルなトポロジカル流を観測。外場に対するFQH状態の応答、準粒子生成の非圧縮性、分数量子ホール伝導度のシグネチャを検証。本研究は、光子で構成される新奇な強相関トポロジカル量子物質の生成・操作への道を示し、耐障害性量子情報デバイスの可能性を開く。

事前情報

  • 分数量子ホール状態は、強い電子相関により形成されるトポロジカルに保護された量子状態

  • 量子ホール状態は凝縮物質物理学や耐障害性量子計算において注目されている

  • 人工量子系を用いれば、磁場なしでFQH状態を実現・制御できる可能性がある

行ったこと

  • 超伝導量子ビットの二次元格子上に、光子ブロッケードと人工ゲージ場を実装

  • 1/2フィリング因子のLaughlin FQH状態を断熱的に生成

  • FQH光子間の密度相関とカイラルなトポロジカル流を測定

  • 外場に対するFQH状態の応答や分数量子ホール伝導度のシグネチャを検証

検証方法

  • 人工ゲージ場中の光子ローレンツ力とバタフライスペクトルの観測

  • 局在光子から断熱的にFQH状態を生成

  • FQH光子間の二体相関関数の測定

  • 準粒子生成に対する非圧縮性の検証

  • 外場に対する応答として分数量子ホール伝導度を測定

分かったこと

  • プログラム可能な二次元回路量子電磁力学系で光子FQH状態が実現できる

  • 1/2フィリング因子のLaughlin状態の光子が強い密度相関を示す

  • FQH光子間にはカイラルなトポロジカル流が存在する

  • FQH状態は準粒子の生成に対して非圧縮性を示す

  • 外場への応答として分数量子ホール伝導度のシグネチャが観測される

研究の面白く独創的なところ

  • 光子を用いて電子のFQH状態を人工的に実現した点

  • 超伝導量子ビットの二次元格子というスケーラブルなプラットフォームを用いた点

  • 磁場を用いずに人工ゲージ場を実装し、FQH状態を生成・制御した点

  • 様々なFQH状態のシグネチャを体系的に検証した点

この研究のアプリケーション

  • 耐障害性のある光子ベースの量子計算・量子シミュレーション

  • FQH状態の生成・操作・検出技術の確立

  • 他の強相関トポロジカル状態の量子シミュレーション

  • 凝縮系物理の未解決問題の解明

著者と所属
Can Wang, Feng-Ming Liu, Ming-Cheng Chen, He Chen, Xian-He Zhao, Chong Ying, Zhong-Xia Shang, Jian-Wen Wang, Yong-Heng Huo, Jian-Wei Pan (Hefei National Laboratory for Physical Sciences at the Microscale and Department of Modern Physics, Shanghai Branch, University of Science and Technology of China, Hefei, China)

詳しい解説
本研究は、超伝導量子ビットを用いて光子の分数量子ホール状態を実現した画期的な成果です。分数量子ホール効果は、二次元電子系に強い磁場を印加した際に現れる量子現象で、電子間の強い相互作用によって特殊なトポロジカル秩序が形成されます。このエキゾチックな量子状態は、凝縮物質物理学の重要なテーマであるだけでなく、量子コンピュータの実現に向けた耐障害性量子ビットとしても注目を集めています。
研究チームは、光子を用いてこの現象を人工的に再現することに挑戦しました。彼らが用いたのは、超伝導量子ビットを二次元格子状に配置したプログラム可能な回路量子電磁力学系です。量子ビット間の結合を適切に設計することで、光子にブロッケード効果を引き起こし、あたかも光子間に相互作用があるかのように振る舞わせることができます。さらに、人工的なゲージ場を導入することで、電子系で不可欠な磁場の効果を光子に再現しました。
このプラットフォーム上で、研究チームは局在した光子から出発し、1/2フィリング因子のLaughlin状態と呼ばれる分数量子ホール状態を断熱的に生成することに成功しました。生成された光子状態を詳しく調べたところ、FQH状態に特有の性質が観測されました。例えば、光子間の密度相関が非常に強いことや、系の端に沿ってカイラルな(一方向の)トポロジカル流が存在することが確認されました。
さらに、FQH状態の特徴的な応答も検証されました。外場に対する非圧縮性、つまり励起ギャップのため粒子の付加や除去が起こりにくいことや、分数量子ホール伝導度に特有のシグネチャなどが観測されたのです。これらの結果は、光子系で電子のFQH状態が忠実に再現されたことを示しています。
本研究の意義は、FQH状態という特殊な量子状態を、磁場を使わずに光子で自在に生成・制御できるプラットフォームを実証した点にあります。これまでFQH状態の研究は、主に半導体中の電子系で行われてきましたが、そこでは磁場の印加が不可欠で、状態の制御も容易ではありませんでした。一方、超伝導量子ビットを用いた光子系では、人工ゲージ場を用いて磁場効果を再現でき、量子ビットのパラメータを調整するだけで様々なFQH状態を生成できます。
この成果は、FQH状態という特殊な量子物質相の研究に新たな道を開くだけでなく、耐障害性量子ビットの実現にも大きく近づく第一歩となるでしょう。トポロジカルに保護されたFQH状態は、環境ノイズによる影響を受けにくく、ロバストな量子情報処理に適しています。今回開発された光子FQHプラットフォームを発展させることで、将来の量子コンピュータに不可欠な耐障害性量子ビットが実現されるかもしれません。
本研究はまた、凝縮物質物理学の難問にアプローチする新たな方法も提示しています。光子系は自由度が高く、パラメータの制御性に優れているため、FQH状態だけでなく、他の強相関トポロジカル状態も量子シミュレーションできる可能性があります。これにより、電子系ではなかなか実現や観測が難しい量子多体現象の解明が進むことが期待されます。
分数量子ホール効果の発見から40年以上が経過し、今なお魅力的な研究テーマであり続けています。本研究は、この古くて新しい量子現象を、光子という新たな自由度で探求する道を切り拓いたと言えるでしょう。人工量子系による量子シミュレーションは、凝縮物質物理学と量子情報科学の融合領域として、今後ますます重要になっていくに違いありません。


一般的な22q11.2欠失がメニンゴミエロセルのリスクを高める

https://doi.org/10.1126/science.adl1624

メニンゴミエロセルは最も重篤な神経管閉鎖不全(NTD)の一つであり、中枢神経系の最も頻度の高い先天異常である。原因解明のため、二分脊椎シーケンスコンソーシアムを設立した。715組の親子のエクソームおよびゲノムシーケンスにより、6人の患者で22番染色体長腕11.2部分(22q11.2)の欠失が見つかり、一般集団と比べて23倍のリスク上昇が示唆された。また、別の22q11.2欠失コホートの解析から、メニンゴミエロセルのリスクが12〜15倍高いことが示唆された。欠失領域内の神経管発生に関わる複数の遺伝子のうち、CRKLの喪失でマウスにNTDが再現され、母体の葉酸欠乏により浸透率と表現度が増悪した。つまり、一般的な22q11.2欠失はメニンゴミエロセルの大きなリスク因子であり、葉酸サプリである程度軽減できることが示された。

事前情報

  • メニンゴミエロセルは最も重篤な神経管閉鎖不全(NTD)の一種であり、中枢神経系の最も頻度の高い先天異常

  • 多くの国で主食への葉酸添加が導入されたことで近年発生率は低下したが、世界の多くの地域で今なお課題

  • 葉酸強化食品が常に有効とは限らず、薬剤や病態、遺伝的素因も発症リスクに影響

行ったこと

  • 二分脊椎シーケンスコンソーシアムを設立し、多国間で大規模な遺伝学的解析を実施

  • 715組の親子のエクソームおよびゲノムシーケンスにより、22q11.2欠失の関連を解析

  • 別の22q11.2欠失コホートを解析し、メニンゴミエロセルのリスクを評価

  • 欠失領域内の候補遺伝子について、マウスモデルを用いて神経管発生への影響を検証

検証方法

  • エクソームシーケンスおよびゲノムシーケンスによる、患者-対照群の遺伝子変異解析

  • 別の22q11.2欠失症候群コホートにおける、メニンゴミエロセル発症率の評価

  • Crklノックアウトマウスにおける神経管閉鎖不全の表現型解析

  • 母体の葉酸欠乏による、表現型の浸透率と重症度の評価

分かったこと

  • 22q11.2欠失は、一般集団と比べてメニンゴミエロセルのリスクを23倍高める

  • 別の22q11.2欠失コホートでは、メニンゴミエロセルのリスクが12〜15倍高かった

  • 欠失領域内の遺伝子CRKLの喪失により、マウスで神経管閉鎖不全が再現された

  • 母体の葉酸欠乏により、浸透率と表現度が増悪した

  • 一般的な22q11.2欠失は、葉酸サプリである程度予防できるメニンゴミエロセルの大きなリスク因子である

この研究の面白く独創的なところ

  • 多国間の大規模コンソーシアムにより、700組超の親子の大規模ゲノム解析を実現した点

  • 一般的な染色体欠失が、重篤な先天異常の大きなリスク因子であることを見出した点

  • マウスモデルにより、欠失領域内の単一遺伝子の喪失で表現型が再現されることを示した点

  • 葉酸欠乏による表現型の修飾から、環境要因との相互作用を明らかにした点

この研究のアプリケーション

  • 22q11.2欠失症候群の患者に対する、メニンゴミエロセルのリスク評価と予防的介入

  • CRKLを含む欠失領域内の遺伝子を標的とした、新たな治療法の開発

  • 葉酸サプリメントによる神経管閉鎖不全の予防効果のさらなる理解

  • 他の先天異常に対する、染色体欠失の関与の解明

著者と所属
Keng Ioi Vong, Sangmoon Lee, Kit Sing Au, T. Blaine Crowley, Valeria Capra, Jeremiah Martino, Meade Haller, Camila Araújo, Hélio R. Machado, [...], Joseph G. Gleeson (The Rockefeller University, New York, NY, USA; University of California San Diego, La Jolla, CA, USA; Rady Children's Institute for Genomic Medicine, San Diego, CA, USA; ほか)

詳しい解説
本研究は、一般的な染色体欠失である22q11.2欠失が、重篤な先天異常メニンゴミエロセルの大きなリスク因子であることを明らかにした画期的な成果です。
メニンゴミエロセルは二分脊椎の最も重篤な型の一つであり、中枢神経系の先天異常として最も頻度が高いものです。多くの国で主食への葉酸添加が導入されたことで近年その発生率は低下してきましたが、世界の多くの地域では今なお大きな課題となっています。また、葉酸強化食品が常に有効とは限らず、薬剤や病態、遺伝的素因なども発症リスクに影響することが知られています。
そこで研究チームは、メニンゴミエロセルの遺伝学的原因を解明するため、多国間の大規模な二分脊椎シーケンスコンソーシアムを設立しました。このコンソーシアムのデータを基に、715組の親子のエクソームおよびゲノムシーケンスを行った結果、6人の患者で22番染色体長腕11.2部分(22q11.2)の欠失が見つかったのです。これは一般集団と比べて23倍ものリスク上昇を示唆する結果でした。
さらに、別の22q11.2欠失症候群のコホートを解析したところ、メニンゴミエロセルのリスクが12〜15倍高いことが明らかになりました。
研究チームは次に、欠失領域内の遺伝子に着目しました。この領域には神経管発生に関わる複数の遺伝子が存在しますが、その中でもCRKLという遺伝子の喪失により、マウスで神経管閉鎖不全が再現されることを発見したのです。興味深いことに、母体の葉酸欠乏によって、その浸透率と表現度がさらに増悪することもわかりました。
これらの結果から、一般的な22q11.2欠失は葉酸サプリによってある程度予防可能な、メニンゴミエロセルの大きなリスク因子であることが明らかになりました。本研究は、多数の患者家族の協力によって実現した大規模ゲノム解析と、マウスモデルを駆使した綿密な実験から、先天異常の新たな遺伝的リスク因子を同定した点で非常に意義深いものです。
22q11.2欠失症候群の患者に対するメニンゴミエロセルのリスク評価と予防的介入、欠失領域内の遺伝子を標的とした新たな治療法の開発など、本研究の成果は医療の発展に大きく貢献すると期待されます。また、葉酸サプリメントと遺伝的リスクの関係についても新たな洞察を与えるものであり、神経管閉鎖不全の予防法の改善にもつながるでしょう。
先天異常の発症メカニズムは複雑ですが、本研究のように大規模な遺伝学的解析と詳細な分子メカニズムの解明を組み合わせることで、その全容解明が大きく前進すると期待されます。




最後に
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