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全財産盗られる


また来るよと約束し、宿を出た。


今日は山を越え、
パナウティという村まで8時間のトレッキングを行う。

1時間ほど歩くと、だだっ広い田園が広がる。
のどかだ…
のどかすぎる…

少女が営む駄菓子屋でアイスを買ったり
仲良くなった家族と歩いたりしながら

2時間ほど歩いただろうか。


お腹も空いて来たので、丘の上の食堂に寄ることにした。
中に入ると勝手にメニューを決められる。
よくあることだ。

お腹いっぱいで歩けなくなり、
残り6時間の道のりをタクシーで行くことにした。


そんなこんなで、
目的地「パナウティ」に着いた。

カメラ持ってくればよかった…
変な髪



凄い!!!!!



ネパール随一の古都として栄えたこの町は、
ヒンドゥー教の聖地でもある。


美しい彫刻が施された、ネワールの建築。
赤レンガと木の褐色に芝の緑が映える。本当に美しい町だ。


1時間ほど景色に吸い込まれるように座り込んだ後、宿まで歩くことにした。


宿についた。

やり過ぎたラブホだ…

ここは家の一部屋を貸す形式のゲストハウス。

ママはとにかく可愛い物が好きなのだろう。


「とても可愛い部屋ですね!」
と愛想振りまいておいた。


汗だくだった僕は、
部屋に荷物を置いてシャワーを浴びることにした。


シャワーは家族と共用で、部屋とは別のフロアにある。



タオルだけ持ってシャワーを浴びた。

至福…


そのあとは部屋に戻り、荷物の整理をすることにした。

ない。




今朝は確実にあったはずの、、


財布が、、


ない、、、、




というのも、僕は財布を2個持ち歩いている。

一つは常に3000ルピーだけ入れバッグへ

もう一つは10万円ほど入っている為、
服の下のシークレットバックに隠し持っている。


その、
大金の
入った方の
財布が
ないのだ…

道で落とすハズは無い…

無くしたとすれば、
朝、銀行に行った時に忘れたか、、
もしくは、、、、


一瞬
宿主の顔が頭に浮かんだが、
疑ってもキリがないと自分に言い聞かせた。



10万円…
僕の10万円…



この10万円で、  
仮面とか、置物とか、装飾とか、、買いまくろうと思っていたのに…

終わった…何も買えない…

僕の部屋がもっと楽しくなるはずだったのに…

愛おしい僕の日本の部屋
これが壁一面続く


頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。


混乱しながらも
部屋の隅々を50万回探し回ったが無い。

とりあえず、
「銀行に忘れているかもしれない」と宿の人に相談してみよう…

リビングまで行った。

「銀行に財布を忘れたかも…どうしよう…」

魂の抜けたような声で伝えた。
疲労で顔も真っ青だ。



ここで僕はある作戦を考えた。

「コイツらの心苦しませ作戦」だ。

宿の人が盗っているという過程のもと進む。

「僕が死ぬくらい落ち込んでる姿を見せれば、コイツらの心が苦しくなるだろう。
だから、
明日から何をするにも僕の事を思い出すくらい、

生活に支障をきたすくらいにまで、コイツらを申し訳ない気持ちにさせてやろう。」

という作戦だ。

もし宿主が盗ってなくても、
[ただの可哀想な少年]
として受け取られる。いい作戦。

せめてもの悪あがきだ。


「僕は学生で勉強の為に来たけど、もうどこにも行けない…」

「食費を払えないから、明日からはご飯無しの生活が始まる…」

「まだ来て3日しか経ってないけど、もう帰らないといけない…」

「貧しい家庭に生まれたから、必死に働いて貯めたお金なんだ…」

「帰りの飛行機に乗るお金もない、、どうやって帰ろう…」


翻訳機を駆使し、有る事無い事言いまくった。

ほぼ「無いこと」だが…



宿の人は
「大変だったね…明日銀行に行けばいいよ…」
と、優しい言葉をかけてくれた。


僕は全てを忘れようと、すぐに眠りについた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝起きた。
6:00だ。

遠くの方でニワトリが鳴いている。


銀行に行く為に、荷物の準備をしようと立ち上がった。



“僕の財布だ!!!!!!!!”


僕の寝ている部屋の

机の上に

財布が

置かれておるではないか。!!!!!



恐る恐る中を見た。全額ある。


どういう事だ?妖精の仕業か?

ネパールだからガネーシャの仕業だろうか。

一瞬で血の気がひいた。



『考えたら怖い』
そう思い、財布が見つかった事の喜びに全集中し、
なぜここに財布があるのかを考えないようにした。

そして慌てて宿を出た。

心なしか、僕を送り出す時、
宿主は全く目を合わせてくれなかった。




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