見出し画像

kuma kuma寮に入ってみた! 第1話

やった!京大に合格した!

今日は京大受験の合否発表日だ。合格したようだ。

わたしの名前は熊野入る子。クマ子、とかクマとも呼ばれる。


経済学部に入学が決まった。京大の自由な学風に憧れてた。

そして"自分は働かない資本主義"という経済学の新しいフィールドに興味を持った。


京大を受験した理由は、京大以外の大学の学費が2.5倍に値上がりしたからだ。

そんな中、京大の学長だけが「京大だけは学費値上げはしない」と言ったので、京大を受験することに決めた。

けど合否発表の直後に「やっぱり2.5倍に値上げする」というアナウンスがされた。


仕方ない。学費免除を申し込むか。

そしてあとでkuma kuma寮を見学しに行こう。

あそこは寮費が格安らしい。


「京大合格おめでとうございます」

大学の職員っぽい人が拡声器で言った。

「学費免除の説明をしますので、そのままでお聞き下さい」


説明が始まり学費免除の説明を聞かされた。

内容を聞く限り家の収入が少ない人は、申請すれば学費免除がもらえるとのことだ。

「説明は以上です。ではこれより京大の役員との握手会にお並びください」

と言われた。握手会?なんだろう。


学費免除の説明を聞いてた合格者たちは一列に並んだ。

そして役員の人に握手をし一万円札を渡し、そして役員から「合格おめでとう」と言われていた。

そうかなるほど。一万円の賄賂で学費免除というわけか。

出費キツいな。けど仕方ない。

わたしも握手して一万円渡した。


さて、kuma kuma寮に行ってみるか!

向かいながら歩いていたらタクシーが近寄ってきて「150円で送っていくよ」と声かけてきた。


乗らない。これはボッタクリだ。わたしは受験日に一度騙されている。

運転手は「迷子になりました」と言ってわざと関係ない道をウロウロして5千円くらい請求してくるのだ。

わたしは断った。すると運転手は中指を立ててそのまま去っていった。


そうこうしてるうちに気がついたらk寮についた。

以下、kuma kuma寮のことをk寮と省略します。

k寮の壁の上には有刺鉄線が張り巡らされている。

『不審人物の身の安全は保証しない』と入口の門にペンキで書かれていて、監視カメラが作動している。

本格的だなー。


門を通過したら駐輪場があり、そこの玄関付近で寮生っぽい人たちが喫煙していた。

壁に貼り紙があり

『注意。ヤクザたまにうろついてる』

と書かれていた。


それでもk寮に入った。ドキドキ。なんか一線を越えたって感じする。

「入寮希望の方ですか?」と受付で寮生っぽい人に聞かれた。

「はい!できれば見学もしたいです!」と答えた。

わー、京大生と話したー。緊張は感じない。むしろわくわくする。


「こちらにおかけして少々お待ちください」と言われたのでソファーに座って面接官を待つことにした。

「面接官の人手が足りていません。寝ている寮生は起きて受付室まで来てください」という放送が流れた。

なるほど。寮の仕事も大変なんだな。


30分くらい待たされ2名の面接官がやってきた。一人は男性、もう一人は女性だ。

(男性面接官)「こちらへどうぞ」

寮食堂に案内された。広い。ところどころ散らかってる箇所もあるが、全体的に見るときれいだ。


わたしは面接官の指示に従い食堂のテーブルの椅子に座った。

テーブルをはさんでわたしと向かい合うように、二人の面接官も座った。

(男性面接官)「これから入寮面接をしますが、ここで話したことは後の入寮選考で不利に扱われることはないので、安心してお話しください」

(女性面接官)「どちらかというと、これはk寮についてざっくり紹介するお話みたいなものなので、肩の力を抜いて気軽に話してくれて大丈夫です」


(男性面接官)「まず、このk寮は京大の学籍があれば年齢・性別・国籍を問わず誰でも入れる寮です」

(女性面接官)「ただ、この寮は自治寮。住んでいる寮生たちの自治権で運営するのよ。例えば入寮選考権も大学当局ではなく、k寮自治会にあるわ」

(男性面接官)「一般の学生寮は大学によって全てを管理される、言わば管理寮。例えば留年をした学生は追い出されたりする」

(女性面接官)「その点、うちの寮では留年し放題で9割の寮生は留年しているの」


これは良いのか悪いのか。まあ、良くも悪くも自由な世界なんだなー。

(男性面接官)「また管理寮では、寮費がぼったくり価格。安いところでも寄宿寮2万円で水光熱費は全部自分払いなんですね。」

まあそれはそうだろうなー。

(男性面接官)「ところが我々のk寮では、水光熱費込みで寮費が毎月4.2円。」

(女性面接官)「我々の寮自治会が大学と交渉して勝ち取った権利なんです。大学の学生寮は経済的な負担なく暮らせる寮にすべきだ、と」


4.2円って半端ないな。水光熱費込みで。

(女性面接官)「当然大学当局は、私たちに大して良く思わない。やつらは少しでも学生から搾り取りたいからね」

(男性面接官)「なので事実上、当局と我々は対立関係にある。なので我々はこの自治寮を守っていくために寮自治会として活動していかなければならない」

(女性面接官)「ま、パレスチナ自治区みたいなものね」


「Holy shit !!」

後ろから突然聞こえた。後ろでも面接をやってるようだ。

「Fuck, Kyodai」

熱くなってるなー。みんな血の気が高そう。


(男性面接官)「お金ない人にとってはこの寮はとても助かる。ハハ」

(女性面接官)「そうね。ところであなた、熊野さん?あなたの実家の収入を聞いて良い?」


(わたし)「年収?400万くらいですね」

(男性面接官)「な!なにぃ!?」

男性面接官が突然テーブルを叩いて叫んだ。

(女性面接官)「貴様!ブルジョワか!!」


びっくり。こわ。突然ふたりの面接官にキレられてしまった。

(男性面接官)「うちは毎月12万5千円だぞ!」

(女性面接官)「えwww 少なwww 私んちでも月14万はあるよwww」

(男性面接官)「なんだと!!この野郎ども!!」


異世界すぎるな、これ。

(男性面接官)「チ、この資本家どもが。とにかく面接を続けよう」

(女性面接官)「プww」

わたしはビビってるあまりだが、女性面接官の方は腹筋がちぎれそうな様子だ。


「ワタシハ道デ、パンヲ、モライマシタ。タベマスカ?」

後ろ側の面接から聞こえてきた。外国人の入寮希望者かな。

「ありがとう!!」と後ろ側の面接官がさけんでた。


(男性面接官)「これは愚痴だけどな。この寮は格差がはげしいんだよな」

(女性面接官)「年収70万円のご家庭もあれば、年収5000万円もいる」

なんじゃそれは。ひどい格差だ。


(わたし)「京大生って良いバイトないんですか?」

(女性面接官)「なくはないよ」

(男性面接官)「金持ちの寮生が時給2000円のバイトを紹介してくれるよ」

ほう!2000円!気持ちが前向きになった。


(わたし)「あ、いいですね、どんな仕事ですか?」

(女性面接官)「召使い」

(男性面接官)「金持ちの寮生様の、ありとあらゆる身の回りの世話をすると時給2000円もらえるんだよ」

(女性面接官)「掃除洗濯だけじゃなく代理の授業出席、レポートとかね。寮食を代わりに運んであげたりとか」

は?奴隷?中世ヨーロッパかよ…


その後面接では、寮の仕事や義務が説明された。

(男性面接官)「寮費は水光熱費込みで4.2円。安いように聞こえるが実際は滞納者は多い。4か月以上滞納すると退寮処分になる可能性があるから気を付けて」

(女性面接官)「毎月4.2円をちゃんと残しながら生活していくようにね。滞納すると吊るし上げられるからね」

この寮の吊るし上げは何かやばそうだな。気を付けよう。


寮の仕事はいろいろあるけどわたしは文化部というところに入ることにした。

『前進』という機関紙の勉強会があるけど、最近の若者の活字離れのせいで難しくて理解しにくいらしい。

そこでホワイトボードにイラストでわかりやすく説明する、というのがわたしの仕事だ。


(女性面接官)「以上で面接は終わり。この後は寮の生活設備の見学。ついてきて」

二人の面接官に寮のあちこちを見せてもらうことになった。


(男性面接官)「この寮はトイレもシャワーもオールジェンダーなんだ」

へー!ほんとにそんなのあるんだ。あ、壁に落書きがある。

『マッチョな言動をするやつは、コンクリブーツで日本海』

なんてメッセージだ。

『オールジェンダー、夜露死苦』

というのもある。学生って感じだなー。


(女性面接官)「じゃあD棟を案内するわ」

この寮はA棟からはじまり、B, C, D棟の合計4つからなるらしい。面接官は二人ともD棟らしい。

D棟1階を案内された。D1ブロックというらしい。そこの談話室にわたしたち3人ではいった。


(男性面接官)「よう、おまえら」

談話室に入るなりにそう言った。この方、えらい人?

すると談話室にいた人たち10人くらいが、いっせいに起立して手を後ろに組み、背筋をピンと伸ばしてお辞儀した。

(談話室の人々)「カシラ!おつかれさまです!」

(男性面接官)「オヤジはどうしたんだい?」

(談話室の人)「いま鬱なようでして、お部屋で休んでられます」


ヤクザかよ、このブロック。

この談話室で定例の会議があるらしい。

談話室の見学のあと、炊事場などを見せてもらった。


あ、大きな貼り紙がある。

『岸田まる夫 寮費5か月分滞納 ただちに21円支払いなさい』

おー。ほんとに寮費滞納の吊るし上げあるんだな。


寮の見学も終わりに近づいてきた。廊下の窓から中庭が見える。

10人くらいの人が中庭で殴り合いをしてる。ゲ…マジか。

(わたし)「なんですかあれ?!止めないんですか?!」

(男性面接官)「ああ、あれはファイトクラブ人狼と言ってな、最初に殴り倒された人から吊られるゲームなんだ」


キチガイすぎるだろ。あれ?よくみたら女の子もいる。

(わたし)「女性の方もいますよ。やばいでしょ」

(女性面接官)「あの子にはハンデとしてメリケンサックと催涙スプレーが渡されてあるの。だからあの子が一番つよいって言われてるわ」

(男性面接官)「やってる本人たちはめちゃくちゃ楽しいから止めないでくれって言うんだよ」


確かにそういわれてみれば異様な興奮の仕方をしている。

確かに楽しんでそうかも。わたしはごめんだけど。

ま、やばいのに関わらないように生活していけば大丈夫でしょ。


面接も見学も終わった。気が付いたら夕方だ。最後に食堂に顔出して、おつかれさまを言いに行こう。

食堂に入った。すると『前進』の勉強会をしてる人たちがいた。

ホワイトボードに『労働者』と『資本家』と大きく書かれていて、その間に『対立』とも書かれていた。

そして司会の人が「労働者と団結して革命をすれば資本家をたおせるのだ!」と言った。

勉強会の参加者が「おお!なるほど!」と言って、ウンウンうなづいていた。


寮生活、少し楽しそうかも。

京大に合格したし、賄賂で学費免除ももらえそうだし、k寮も楽しそうだし。

入れるといいな。こんな楽しい日は久々だ。


帰り際にふと中庭を見ると、3匹の子イノシシが母イノシシについて歩いてた。

かわいいなー。

こうして今日のわたしの一日は終わったのだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?