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ミッションインポッシブル 第1話

京都大学kuma kuma寮の寮祭のシーズンが来た。(以下、kuma kuma寮をk寮と略す)

寮祭は毎年11月下旬から10日間くらい行われる。

ふだん授業に行かない寮生たちがその期間存分に寮祭を楽しむ。

自己肯定感を上げ、青春を謳歌する。


例年と変わらずとてもテンションの上がる、楽しい企画が盛りだくさんだ。

『AB棟間バンジージャンプ』から寮祭はスタートし『打ち上げ花火10億連発』では車も花火になり、絶好調。みんな学校を忘れる。

近年まで人気だった『女装コンテスト』は、ジェンダーの偏りがあるとの指摘があり、ジェンダーの偏りなく参加できる『犬装コンテスト』になった。

そしてk寮の寮祭目玉企画の『時計台占拠』に向けて、みんなやる気を充電してパトスを高めている。


もちろん寮祭中といっても、夜の受付室では宿直の当番の仕事がある。

宿直当番は深夜に受付のドアを閉め鍵をかけて、カーテンを閉じ照明の電気を落として、朝まで受付室の当番をする。

その日の夜の当番はA3の寮生、イーサン・ハントだ。

イーサンは暗闇の中ノートパソコンを開け、IMF(インポッシブルミッションフォース)からの動画メッセージを見る。


   
「おはよう、ハント君。今回、君に与えられた任務はkuma kuma寮の寮祭企画、時計台占拠の支援だ。

君は、味方のハッカーであるルーサーと組むこと。ルーサーはニートだが、非常に腕の立つ、悪いハッキングをするプロだ。

時計台占拠の当日中にルーサーと合流しともに、時計台占拠の邪魔をしてくる京大職員の足を引っ張るのだ。

今回の時計台占拠では、IMFのコンピューターで何度シミュレーションをしても、100%寮生側が負ける。

しかし不可能とされているこの時計台占拠を、ルーサーと組んで寮生側を手伝って成功させることが君の今回のミッションだ。

例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。

成功を祈る。なお、このメッセージは5秒後に自動的に消滅する」

5秒後にノートパソコンから煙が出てデータが消滅し、そのPCがこわれた。


その翌日の昼、寮祭企画『四条河原町人間競馬』の最中に、京大当局がk寮をゆるがすニュースをTwitterで発表した。


「例年のk寮の寮祭企画である『時計台占拠』に関して、高い建物である時計台にはしごをかけて登るのは危険だからやめろ、と寮生に毎年言ってる。

なのに、ろくに授業にもいかない寮生たちは聞きもせず、毎回時計台にのぼる。

いくら言っても言う事聞かないから、我々は方針を変えることにした。

寮生たちが時計台占拠にやってきても、我々京大職員は力でねじふせて、時計台占拠をさせないようにする。

こうすることによって、今後寮生たちはあきらめ、ギャラリーが時計台占拠に勝手に参加して協力するのもやめることになるだろう。

では、常識のない寮生たちが常識のある人間になり更生することを願う。

京都大学 総長の人」


寮生たちはこのニュースをTwitterでみて、すごく動揺した。

「もう当局に勝てないのでは」と諦める寮生も、すこし出てきた。

しかし寮の中で声のでかい人たちが少々強引に、時計台占拠はちゃんと実行するよう、話をもっていった。


時計台占拠の日がやってきた。寮生側も職員側も、ともに緊張感が走る。

学生部厚生課の職員たちは「早めの腹ごしらえだ」と言って、天一の出前の豚骨ラーメンを食べている。

職員の月給は手取り10万200円。当然辞めたくなるが、そんな職場から退職しても働くあてはない。

なので役員会が厚生課の職場の士気を挙げるよう週に一度、天一のラーメンをタダで食べさせるように、予算をみとめたのだ。


「天一の豚骨ラーメンを食べる以外に、この職場に良いことは何もないな、ハハハ」

学生部厚生課で職員たちはラーメンを食べながら軽いジョークを飛び交わす。

この日は時計台占拠の対抗作戦のために、学生部の職員は7倍になるようたくさん増員された。

職員たちはラーメンを食べつつ寮生を待っている。


そのとき、一人の職員が変装マスクを脱いだ。

(ほかの職員)「貴様は…!イーサン!」

マスクを脱いだ人は、厚生課の職員ではなく、イーサンだ。

職員の中にA3のイーサン・ハントが潜伏していたのだ。

ミッションインポッシブルのあの音楽が流れる。イーサンの任務が開始された。


イーサンはコショウのふたをあけて、中のキャップを外しすばやい身のこなしで、職員が食べているラーメンにコショウを大量にぶちこんだ。

(職員)「何をする!スープが…コショウがキツい!ゲホゲホ!」

職員たちがせき込んでる中、イーサンは走ってその場を去った。


(職員)「はやくラーメンを食べ終えろ!イーサンを追うんだ!」

(別の職員)「コショウがキツいんです!」

そうやってる間に、イーサンは走って学生部の建物の玄関まで走った。


すると、玄関の近くでは生協のトラックが待っていた。

「よう、待たせたな、イーサン」

ルーサーだ。レンタカーのトラックに、生協の絵を塗り、生協のトラックのふりをしてキャンパスの正門の検問を潜り抜けたのだ。

そしてルーサーがニセ生協トラックのうしろの倉庫のドアを開けたら、たくさんイノシシが飛び出した。


大量のイノシシはまっしぐらに学生部の建物の中に走っていった。

(イーサン)「ルーサーか。なんだいあのイノシシは?」

(ルーサー)「ハッカーもたまには体を動かさなきゃな。吉田山で30匹捕まえてきた」

(イーサン)「みんな一直線に学生部に走っていったな」

(ルーサー)「やつらは豚骨ラーメンのスープが大好物なのさ」


イノシシたちはいっせいに厚生課の職員をおそった。

(職員)「スープだ!スープにイノシシが反応している!早くスープを飲み干せ!ネギも残すな!」

しかし職員に天一の豚骨ラーメンの匂いが染みつき、イノシシは職員を追い回すのをやめない。

(職員)「退却だ!イノシシからとにかく離れろ!」


職員たちはトイレの個室に逃げてドアをかけた。

ドアの外からはイノシシが体当たりをしてきて、職員は個室の外へ出れない。

特に女子トイレの個室に逃げ込んだ男性職員は、外に出るのを完全にあきらめた。スマホでゲームをし始めた。


今回の時計台占拠を妨害するために増員された学生部の職員たちは、イノシシにより完全に無力化された。

この時点で寮生側が当局側よりも優勢となった。

そこでもう一台の生協のトラックが検問を通過した。さっきのと同じく、レンタカーに生協の絵を描いた、偽装された生協トラックだ。

ニセ生協トラックが時計台キャンパスに入り、トラックの倉庫から寮生が40人、ハシゴをもって飛び出してきた。


時計台キャンパスのすべての門における当局の防衛は完璧だ。まさに難攻不落。

しかしその内側は完全にノーガードだった。

ニセ生協トラックから飛び出した40人の寮生はハシゴを持ち、全く守られていない時計台に向かって一直線に走った。


正門をガードしている大勢の職員がそれに気づいた。

(職員)「まずい!時計台にのぼられるぞ!時計台を守れ!」

正門にいた職員全員が時計台に向かって走った。


一方、東一条通では、寮生たち300人がしゃがんでじっとしていた。

正門を防御していた職員たちが全員どっかに消えたので、みんなで一斉にキャンパスへ突入した。

「楽勝だ!時計台占拠できる!」


そのとき寮生側はだれもがそう思っていた。

(続く)


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