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kuma kuma寮に入ってみた! 第3話

みなさんお久しぶり!熊野入る子です。

クマ子、とか、クマとよく呼ばれます。

k寮に入り約1か月が経とうとしていた。


※ k寮とはkuma kuma寮の略です。


寮生活は、正直いうと微妙だ。というのは、新歓コンパがまずかったらしい。

コンパの騒音には苦情が来るのは毎回のことらしい。

先日の新歓コンパでも騒音への苦情が全寮LINEに来た。

しかしこの時のコンパでは、コンパに参加してる人が「だまれ、この陰キャども」と返信したのが非常にまずかった。


新歓コンパでは、コンパの場にいない大勢の寮生を不快にさせてしまったようだ。

それだけでなく、男女10人ほどが中指を立てた写真が全体LINEに投下され、それが激怒させてしまったらしい。

あの写真はコンパの記念写真の意図であったらしいのだが、挑発として受け取られたのだ。


はっきり言って今の寮のムードはやばい。

コンパに行かない派の人たちが常に殺気立ち尋常でない。


そんな中、お昼の寮食の時にアジテーションをする寮生がいた。

お昼の寮食時には大人数の寮生が食べに集まる。

なのでそこで学生運動っぽいアジテーションがされることはよくあるのだ。


今回だとその寮生は、懸命に寮でコンパをすることの意義を語っていた。

寮自治には団結が欠かさない、そのためにコンパは絶対に必要だ、と一生懸命うったえている。

しかし聞いてる人たちはシーンとしている。


実に悪い空気だ。おっかなすぎる。

アジテーションの寮生はついに「コンパをさせてください!」と言った。

頭を下げてるしもう必死だ。


「でもわたしたち陰キャなんでしょ?コンパなんて無理ー(笑)」

冷たいレスポンスが来た。

「うるさすぎるから苦情いっただけで中指立ててくるくせによく言うよ」


厳しすぎる分断が起きている。

特に新入寮生は新歓コンパに参加したからこわくてみんな震えている。

アジテーションの寮生は「あれは悪気なかったんです」と言った。


「は?!ふざけるな!!」

大変な怒りを買った。そしてジュースの紙コップやゴミが投げつけられた。


(コンパする派の人)「会場では物を投げないでください!」

しかしブーイングの嵐。もうコントロール不可能だ。


実は例の、10人ほどが中指を立てて撮った写真はTwitterで大拡散されてしまったのだ。

しかもそれは、コンパをする派の人たちがコンパに行かない派の人たちへの挑発の意図だとして投稿された。

それだけでなく「だまれ、この陰キャども」というLINEのスクショがとられてそれもTwitterで大拡散されたのだ。


これらはTwitterのトレンドの上位に常にあがるほど拡散され話題になり、メディアに取り上げられた。

国内中から厳しい批判を徹底的に受けた。

そしてなんと京都大学の公式HPで総長が「信じがたい。誠に遺憾である」と批判した。


「拡散RT希望」とタグをつけられた批判ツイートは、寮生が見るTwitterの画面に毎日表示されていた。

多くの寮生がそれらを見て殺気立った。実に毎日。


後日、文化部会でこの問題が議論された。

わたしは文化部に所属しているので議論に参加している。


(文化部の日本人)「事態はあまりにも深刻だ。寮生の身が危険すぎる。」

(文化部の留学生)「What we are headed for is Civil War!!」


コンパに行かない派の人たちの怒りを鎮めなければならない。

論点はこれにつくされた。


(文化部の人)「休学ルーレットをやるしかないだろう」

(他の人)「休学ルーレットってなんですか?」


文化部の人は大きくため息をついた。

(文化部の人)「自治活動の資金を作るために、寮生一人を休学させ授業料のお金を頂くものだ」

なんとおそろしい。


休学ルーレットの参加者は文化部に所属する全ての寮生であり、新入寮生も含まれる。

何人かが文化部会の場から走って逃げようとしたが取り押さえられた。

ルーレットとは名ばかりのもので、エクセルで寮生のリストに番号を振り、乱数を作って当てるだけだ。


ルーレットは2回生の人が当たり、悲鳴があげられた。

その2回生の人の授業料で食べ物と飲み物を買い、コンパに行かない派の人たちにご馳走させることになった。

文化部会の翌日は休日で寮食が出ない。

なので翌日の夕食のタイミングで飲食物を提供する計画となった。


翌日は文化部員がフル稼働で飲食の接待の準備をした。

休学ルーレットが当たった2回生の授業料で、業務スーパーから大量の肉とビールを仕入れた。


夕方6時くらいからk寮の中庭で七輪で肉を焼き始めた。

最初に焼かれたのはスペアリブだ。

可食部が少なすぎて処分するはずのスペアリブを、k寮が肉屋から引き取ったのだ。


ほぼ骨しかなくて事実上食べられないスペアリブが焼かれると、おいしそうな焼肉に匂いがとことん漂う。

この匂いで多くの寮生が釣られた。


文化部員は「ふだんコンパに行かない方々、無料で焼肉を食べてください」と書かれた立て看板を立てた。

コンパをする人は食べに行かず、コンパに行かない派の人たちのみに尽くす接待だ。


失礼は許されず、骨だけのスペアリブはどっかに回収され、まともな肉が焼かれ始めた。

コンパに行かない派の人たちが焼かれた肉を食べる食べる。

おいしそうで幸せそう。大満足しておられる。


「喉がかわいておられませんか?サッポロとスーパードライがこちらにございます」

バーベキュー開始後、10分ほど経った頃に文化部員が拡声器でそう言った。


今度はビールが大人気。肉と酒に、人間ってこうもあやつられるものなのか。

(文化部のロシア人)「ライララライララ」

ロシア民謡を歌いながら踊り始めてバーベキューパーティーを盛り上げる。


(コンパに行かない派の人)「これならコンパをしてもいいんじゃないかな」

(コンパに行かない派の人2)「だね。ていうかコンパ行ってみる?」


文化部員が声をおさえつつヨッシャ!と言った。

(コンパに行かない派の人3)「これからはコンパをしようじゃないか」


すると多くの文化部員が喜んだ。

「やっとコンパができる!よかった!」

「アナコンダが生きていた!よかった!死んだのかと思っていた!」


いきなり何?

コンパができるからうれしいのは理解できる。

けどアナコンダに関しては理解できない。

アナコンダいるの?どこ?


もちろん新入寮生には何のことかわからない。

けど何のことかわかっている先輩方の寮生も一定数いたようだ。


「あのアナコンダ?吉田山の?生きてたんだ、よかったね」

そう言ってる寮生もいる。

しかしその中でもさっきの一人の寮生が安堵で泣いて喜んでいる。


わたしも含めて新入寮生は何のことか気になった。

そして先輩の寮生から解説してもらった。

ネットに参考となる情報もあり、スマホを見ながら教わり説明を聞いた。


内容はかなり長いし説明は遠回りになる。


京都大学には二つの自治寮がある。

一つには学生自治寮である、このk寮。

もう一つに職員自治寮というのがあるのだ。


アナコンダの話に行きつく前に、この職員自治寮について理解した方が良いと思う。

その寮は吉田山の山頂を東に少しだけくだったところにあるとのこと。

京大のキャンパスからは見えない。まさに陰に潜んでいる。


職員自治寮およびk寮の二つは自治寮であるが完全なる対立関係らしい。

というのは職員自治寮に住んでいるのは全員、学生部の厚生課の職員なのだ。


京大の学生部厚生課は全寮制でありそこに住まないといけないのだ。

学生部厚生課の給料は手取り4万5千円。

けどその寮に住ませることで生計が成り立つ、というのが京大役員会の見解だそうだ。


厚生課の職員はk寮の寮生を弾圧することだけが仕事である。

だからk寮としては職員自治寮とは敵対している。


もっともそれだけでなく職員自治寮の側もk寮を著しく敵対視しているらしい。

それには二つの理由があるとのこと。


一つ目の、職員たちがk寮を敵対視する理由はこうだ。

職員自治寮には道が通っておらず、ただ山の中にポツンとある。

そこで大学当局に団体交渉をして、寮の付近に山道を作ることを要求しているのだが拒否されている。

これに関し、k寮自治会が大学当局に手を回している、と勝手に思い込まれてるらしいのだ。


もちろん全くそのような事実はない。


そして二つ目の理由は、約30年ほど前に職員自治寮の手作り製のダムにk寮生が飛び込んだこと。

職員自治寮には電気も水道も通ってないらしい。

なので職員たちが少ない給料からお金を出し合い、セメントを買ってダムを手作りで作ったそうだ。


水道も電気もない寮で、精一杯力を合わせて作ったそのダムに、k寮生がプールだと思って飛び込んで遊んだらしい。

これには職員たちが非常に激しく憤慨したらしい。


「血のにじむような努力をして作ったダムを汚し冒涜した。自己批判せよ」

と今でも職員たちはk寮に言ってくる。

しかしk寮としては、そんな昔の出来事の事実確認を全く出来ないので対応しようがないらしい。


これら二つの理由で職員自治寮は学生自治寮であるk寮を敵対視している。

ダムを冒涜した事件は今となっては過去の話。

だが山の中にありながら道がきてないというのは現在でも深刻な問題らしい。


職員自治寮は山の中にあるが、公道も私道もない。山道がないのらしい。

道を歩いて通勤や帰宅をする、という当たり前のことが出来ないのだ。


電気と水はないが、それには不満はないらしい。

むしろダムを作る等して自給自足、自活的な努力によってまかなっていることを誇りを持ち生活を楽しんでいるようだ。

発展途上国の産業廃棄物の処理場の中から、まだ使えそうな太陽光発電のパネルを拾って集めて電力を補っているらしい。


こういったことを、職員自治寮に住む学生部厚生課の職員たちは、職員自治寮の公式Twitterアカウントでアピールしているようだ。

そして自治寮とうたいつつ大学から供給される水や電気に依存しているk寮を揶揄しているらしい。


しかし山道が来てないという悩みの種は残る。

山の森の中の木々はすべて巨木でありそれらの根が地面を隆起させる。

平らな歩ける地面なんてどこにもないらしく、通勤には時間もかかるとのこと。

Twitterに山道がないことがどれだけの苦労かが詳述されている。


とげの多い草木に遭遇したら大きく迂回しなければならない。

職員自治寮の周りにはイノシシやツキノワグマが徘徊しているらしい。

こういう大型の野生動物を見かける度に、道を引き返さないといけない。


野生動物はこちらから刺激などしない限り襲ってはこない。

しかしイノシシやツキノワグマが職員のカバンに興味を持ったら、カバンを取り上げに来る。


都会では普通の人間に対してトンビやワシが襲ってくることなどはまずない。

しかし山の中の森を歩く人間には、大型猛禽類は頻繫に上空から攻撃してくるとのこと。


山道のない山では自然が人間にとって驚異であると職員自治寮はTwitterで強調している。

なので大学当局に山道を作るよう、団体交渉で要求しているらしい。


しかし職員自治寮は学生部厚生課の職員しか住んでいない。

そのような寮に金をかけるのを大学の執行部が渋っているようだ。

学生部厚生課というのは、k寮を弾圧するだけが仕事であり事務員としての仕事は何もしていないだ。


職員自治寮は仕方なく何度か自分たちで工事して道を作ろうとした。

しかし無理だった。


まず道を作り始めてしばらくしたら、ツキノワグマなどの動物がパトロールをしにくる。

そうなったら作業は全て放棄して寮に即座に戻らないといけない。


また、それでも少しずつ道を作る作業を積み重ねていこうかと、最初は考えていたようだ。

しかしそれも無理だった。


近くに住んでいる野生の猿が、人間たちが遊んでくれている、と勘違いをするらしい。

そして職員自治寮の職員たちが作りかけた道を、猿が掘りくり返して壊し、道を元の自然の状態に戻してしまうらしい。


「道なんてどうにかなるんじゃない?」

大学の執行部の役員はまるで他人事のように言うらしい。

しかし一方学生部厚生課の職員が言うには「詰んでいる」とのことだ。


しかし、どんなに学生部厚生課の職員が苦しんで困っている、としてもk寮としては他人事なのだ。

アフリカの難民に募金をあげることはあっても職員自治寮にはあげないのだ。

敵対しているからだ。


3年ほど前にk寮の一人の寮生が、いたずらで職員自治寮の近くで一匹のアナコンダを放し飼いで飼育し始めたらしい。

ペットショップを渡り歩きアナコンダの子供を一匹見つけて飼った、とのことだ。


爬虫類とは与える餌を少なくして体を小さくするように調節することが可能らしい。

なのでペットショップの見かけるアナコンダはそれほど大きなサイズではないのだ。

つまりペットショップはコブラを扱うことはないがアナコンダを扱うことがある。


しかし餌を大量に与えてしまうとなると話は別であり、従来のアナコンダのサイズに育つ。


職員自治寮の付近でアナコンダの放し飼いをいたずらで始めた寮生は、サイズの問題を気にもかけなかった。

そしてアナコンダはみるみる大きく育っていった。


もちろんこういったことには倫理的に問題があり、他にも実に多方面からのツッコミどころがある。

なのでその寮生は誰にも相談せずにひっそりと行動していた、とのことだ。


放し飼い開始後の当時はよかったらしい。

アナコンダもケージから解放され、餌の摂取制限も無くなり心も体も元気だった。

飼い主の寮生も幸せだったようだ。

その幸せが数か月間続いたらしい。


しかし、ある日突然アナコンダが行方不明になったらしいのだ。

そして飼い主の寮生は不安になり、ひたすら無事を祈り続けたとのことだ。

自分の軽率な判断のせいでアナコンダが死んだのではないか、と良心の呵責に苛まれていたようだ。


しかしアナコンダは無事に生きていることが今日わかった。

職員自治寮のTwitterアカウントでアナコンダのことが投稿で取り上げられていたからだ。

厚生課の職員たちがかわいがっているようだ。


投稿された写真を見ると巨大化している。

胴体が車のタイヤのように太くなっている。


最初は職員たちにとってアナコンダは不気味だったらしい。

何より、とにかくでかい。

攻撃してこないものの、常に上からガン見してくる。


しかしそのアナコンダは人間に育てられたためか、人を襲うことはなかった。

それどころか巨大化した後でさえも、人間に親しく接していたようだ。


結果、そのアナコンダは厚生課の職員たちの守り神となった。

職員が山の中を移動するときに付き添ってくれる、とのことだ。

アナコンダが付き添いにいると、ツキノワグマでさえも人間に道を譲ってもらえる、とのことだ。

Twitterに誇らしく書いてあった。


山頂から山のふもとまで一緒に歩いてくれることになった。

その結果、吉田山のふもとまで送り迎えをしてくれるようになった、とのこと。

アナコンダは職員たちに親しまれ「ジョーズ」という名で呼ばれているらしい。


まあつまり、行方不明のアナコンダはどうやら今は元気に楽しくやっているようだ。

この事実が、心を苦しませていた一人の寮生を解放したみたいだ。

実は行方不明になった当初、一緒に探してくれた寮生もそれなりにいたようで、その人たちも安堵していた。


うーむ。すごい話だな。

「生きていてよかったね」と思うのがいいんだろうが「すごい話だな」というのが最初に思い浮かぶ。

それにTwitter見ると、アナコンダと一緒に映ってた職員がとても幸せそうだった。


k寮に入寮し、母イノシシに寄り添う子イノシシを見たり、セキセイインコを見たりした。

ああいうのはかわいかったが、さすがにアナコンダはかわいくないな。


あ、Twitterの通知が来た。k寮生のツイートがバズっている。

見てないうちに、バーベキューを楽しんでる人たちが集まって中指を立ててまた記念写真を撮ったようだ。

そしてそれが相変わらずまたTwitterに投下されたと。


あ、写真だけじゃなくてツイートにコメントがある。

「京大総長なんてもうオワコンじゃね?」


RT数は1万を超えている。京大の役員は怒るだろうな。

しかしどうやら一般人もそのツイートを見て怒っているようだ。


「この大学の予算をもうとめろ」

「京大受験したけど落ちてよかった」

またこないだのようにバシバシ叩かれはじめた。


わたしはもう疲れた。

バーベキューの後片付けも待っている。

けどそちらの方で飲み食いしてる人たちは盛り上がっている。


コンパに行かない派の人たちはビールを飲んでご機嫌のようで、歌い踊っておられる。

「ポルシカポーレ!」

「ライララライララ!」


(続く)

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