秋原 稜

日常を詩にします。弾き語りが好き。

秋原 稜

日常を詩にします。弾き語りが好き。

最近の記事

【詩】口笛は想い出

小鳥の声が近くで鳴ります。 私もチュイと真似をします。 線香花火の花弁のような、 脆く嫋やかな羽の音。 永く終われない日々を越え、 私ももうすぐ出かけます。 一面を影が覆う頃、 涼しさ隣に座らせて、 変わった衣に取り残されて、 私の想いは嘆きます。 ゆさゆさゆらゆら腕を振る、 巨木にさよなら頷いて、 私はもうすぐ出かけます。 あなたのそばへと出かけます。

    • 【詩】夏夜の衝動

      戯けた季節に逆らって 木々は深く眠りに落ちて 陽はまた夜を待ちわびて 湿気さえ狂い踊ってる 蝶が舞えるのが恋しくて 季(とき)が終わるのが愛しくて 雷雨のような憧れを 隠して今日も笑っている そうして明日を恐れては 誰かを傷つけ生きている 地べたに寝そべり気付くのは 安堵を亡くした事実だけ 閉ざした小部屋の片隅で 夢見れぬ島の片隅で 満たされぬ星の片隅で 侘しい宇宙の片隅で 何を祈ればいいのだろう 蝶も見通せぬこの闇は 掴めぬ月夜を歩くようで 眠れぬ羊が流すのは 痛

      • 【詩】感情

        調子はどうだい。口を開いた。 僕はたまらず手を伸ばす。 外へ出たのはいつぶりだろう。 小風を捕まえて聞いてみる。 どこでも近くに咲いている、 黒い影さえも愛しくて。 春を失った物足りなさと、 エバーグリーンの髪の色。 別れの時まで泣きもせず、 無邪気に笑った閉塞感。 乱れを知らない葉脈と、 移り変わりゆく瑞々しさ。 満たされないのは、穴が空いてるからじゃない。 誰かが盗んでいくからだ。 溢れて止まらぬその声に、 どうして名前がつけられようか。 そして立ち上がる

        • 【詩】凪のヴェーダ

          凪が来た。 心を諭す旅の最中。 海風に飛ばされぬように。 雲の流れに戸惑わぬように。 凪は永遠には繋げない。 舵を取られても焦らぬように。 五月雨は強く身を刺して、 梅雨に翳りゆく陽の光。 波は轟々と押し寄せて、 四畳半をさらっていく。 錨も錆びて留まらず、 深く底へと消えていく。 凪が終わる。 心を試す旅の最中。

        【詩】口笛は想い出

          【詩】巻雲は揺れて

          かけた椅子から始まる歌 憎たらしいほど蒼い空 このまま空を飛べたなら あの巻雲になれたなら 羽を広げた命の音 擦れる砂利の心地良さ このまま虫になれたなら 仲間と光に混ざれたら 新緑の波に手をかざす こっちへおいでと声がする このまま風に吹かれたら 白紙の此の身を満たせたら 深い傷跡を拭うたび 明日の安堵を希う このまま空を飛べたなら あの巻雲になれたなら

          【詩】巻雲は揺れて

          【詩】畢竟、惰眠

          漆喰の壁。重力は遠く。 クーラーの風に頬は強ばる。 伸びた爪。拮抗する感情。 二重は疲れの道しるべ。 梅酒の酔いにも似たような、 皐月の半ばのスロウダウン。 哀しくない涙が濡れる、 シーツは小さな地平線。 甘やかな赤いマグカップ、 珈琲と伝う時の色。 祈りは幾重も宙を舞う。 蜉蝣が如く白々と。 夏を待つ前に逆らえず、 畢竟、惰眠の昼下がり。

          【詩】畢竟、惰眠

          【詩】白昼の天使

          天使と話した十三時。 ほろほろ笑って君が問う。 明日は怖いか、今日は暗いか。 怖くない、怖くない。 今は眠くて少し寂しい。 昼下がりのまなこに映る、 ちらちらと羽が眩しくて。 僕は目を開けていられない。 重力だってもういない。 錠剤型の仮初の羽じゃ、 飛べないよって君が笑う。 天使が笑った十三時。 夢を見れるまであと少し。

          【詩】白昼の天使

          【詩】透けた障子と安定剤

          変えた枕の柔らかさは いちごオレのような甘い午後 布団と素足の感触と 小さな絵画を見つめてる 持て余した日は数しれず 欠伸は暖気に木霊して 椅子の姿勢さえ乱れては 流れる毛並みと隙間風 透けた障子と安定剤 揺蕩う心を掴めずに 砕けた未練も投げられず 群青の中に消えていく ナースコールの音に乗せて 自転が重たくなっていく 光の向こうに手を伸ばし 白昼日記を探してる 三週間の子守唄と コンクリートのゆりかごから 春が走り去る音だけが かすかに鼓膜を揺らしてる 透けた障子

          【詩】透けた障子と安定剤

          書き綴る足跡

          精神病棟に入ってまもなく一週間。 ようやくペンとノートが解禁された。 これからは作業療法も始まるらしい。 暇を持て余した心には、些細なことだって栄養になる。 一本のペンで、何を書き出そうか。 眠れない夜に考えること。 今日の病食は魚ばっかりとか、久しぶりに雨が降ったとか。 あとは、やっぱり好きな人とか。 書くことが思いつかない時は場所を変えてみる。 病室の机、食堂のカウンター、テレビの前。 これだけで小さなお散歩だ。 外にはまだ出られないけれど、立派な気晴らしになる。

          書き綴る足跡

          病室の春

          病室の窓。景色は変わらない。 変わりゆくのは空と木々の色。 真っ白なベッドに足を伸ばして、体を反らせる。 逆さになった雲が流れる。 手持ち無沙汰に夢を見る。 悪い夢の方が多いみたい。 でもたまに見る良い夢は、救ったくれた人の夢。 3日目の春が終わろうとする。 僕はたまらず、部屋をうろつく。 もうすぐ桜が散り始める。次に咲く花を待ちわびて。 枕を治して寝転がる。 明日は何を夢見ようか。

          晴れやかな気持ち

          私服とパジャマ、歯ブラシにタオル。 入院の準備が終わった。 昨日から泣きっぱなしで、目が腫れている。 まさか自分が入院するなんて。 昔は夢も見れていた。 あんな暮らしがしたいとか、あんな仕事に就きたいとか。 幼い頃の思い出が蘇ってくる。 何も考えず遊んでいた無邪気な頃。 大人たちに憧れていたあの頃。 こんな田舎の風景さえ、大冒険だった。 でも、全部変わってしまった。 狂い始めたのは、最近のことじゃない。 小学校で発達障害。 学校と両親からの耐えられない理不尽。 中学、高

          晴れやかな気持ち

          帰る場所

          入院することになった。 明後日から、精神科へ。 1年間、頑張ってきた。 思い切って心療内科の玄関をくぐった。 思いが込み上げ、幾度も泣いた。 傷ばかり増えていった。 多くの人に迷惑をかけた。 カラフルな薬を何錠も飲んだ。 時に錯乱した。 それでも治療はやめなかった。 しかし一年が経ち、待っていたのは入院だった。 半年前、都内の改札の前でしゃがんで泣いていた。 友達に、もう無理かもと連絡した。 友達は優しかった。 泣きたい時に泣いていいと言ってくれた。 時に抱きしめてくれ

          お薬のはなし

          去年の5月、初診を受けてから、薬を服用している。 自分に合う薬を探すため、幾度となく薬を変えながら、現在まで片手では収まらない種類を飲んでいる。 睡眠薬、安定剤、抗うつ剤、その他もろもろ。 初めは飲むのが怖かった。 薬が増えれば増えるほど、日常が薬に犯され、自分が自分でなくなる気がした。 寝る、食べるといった基本的な行動ですら薬に頼るようになり、自我同一性が崩壊していく音が聞こえた。 夏休みが終わった頃、抗うつ剤の服用量が大幅に増加した。昼は眠気がひどく、ずっと寝たきり。

          お薬のはなし

          本音

          本当の音と書いて、本音。 私は音を聞いたり、発したりすることが好きだ。 それは楽器だったり、歌だったり、手を叩いたり、口を鳴らしたり。 人を笑顔にさせられる音を発せられた時、音の魅力を再確認する。 自分に嘘をついた状態で弾くギターの音色は本当に理想の音色なのだろうか。 歌いたい言葉を歌わずして発する声色は本当の自分の声なのだろうか。 本音ってどんな音だろう。隠してばかりの私には、まだその音は分からない。 だが今日だけは、本音で話してみたいと思う。 隠して向き合ってこなか

          むなしさ

          妙にむなしい。 そんな波におそわれることがある。 自暴自棄になってしまいたい。 全て投げ出して、ここから消え去りたい。 からっぽ。 動かねばという使命感に苛まれつつ、気力という燃料もすっからかん。 酒を取りだして飲む。 久々のアルコールでむせる。 気持ちが悪い。 病気の診断を受けてから、酒は飲まないことにした。 酔って気が大きくなって、一線を超えたらもうなんでも出来る気になる。 歌も、踊りも、もっとすごいことも。 制御していた消滅願望が解き放たれて、一線を超えてしまう。 だ

          竹林マジック

          竹林には魔法がかかっている。妖精、精霊、神、木霊。 何者の仕業かは分からぬが、引き込まれる力を感じる。 かぐや姫の昔話はその代表例であろう。 神社の脇、ゆさゆさと幹をゆする竹林。旧道に身を乗り出すように、頭を垂れる竹林。 その全ては鬱蒼として、暗闇の中にただならぬ神秘を内包している。 道路脇に、大きな屋敷の跡地を見つけた。私はこういう類のものに弱い。 助手席に乗る友人に許可を得て、車を停め、坂道を歩く。 そこには大きな更地があるのみ。 先人の住処は跡形もなく、看板以外は

          竹林マジック