権威はそんなに暇ではない

 村木風海氏に関する記事,実は2020年にも出ていた。私の周りでは話題にならなかったのか,これまで認識していなかった。

僕がこれまでやってきたのは、言うなれば「すでに発見された理論を、誰も取り組んだことのない問題に応用する」こと。

https://www.recruit.co.jp/blog/guesttalk/20200803_445.html

 とあるが,CO2の吸収とか回収の方法自体には何も目新しいことはない。回収したあともう一度還元して炭素を取り出す部分がCO2を減らす技術の肝心なところである。これができないと,CO2をいくら集めてもその先は行き止まりである。

研究発表をしても反応は冷ややかで、「その研究には意味がない」と頭ごなしに否定されたり、話すら聞いてもらえなかったりしたことは何度もありましたね。

https://www.recruit.co.jp/blog/guesttalk/20200803_445.html

 というのは,別に権威に否定されたとかそういう話でも何でもない。回収した後のCO2をどうするかという部分が大問題なのに,皆が困っている大問題に何の寄与もしない研究を発表していたら,そりゃ意味がないと言われて当たり前だろう。

家庭用やオフィス向けに開発を進めてきたのも、ひやっしーのボタンを押すだけで地球環境に貢献できる手軽さを味わい、化学を身近に感じてほしかったからです。「中身は最先端でも、見た目はゆるふわ」が、僕のプロジェクトのコンセプトですね。

https://www.recruit.co.jp/blog/guesttalk/20200803_445.html

 まさにこれが本質でただ「味わえる」だけで問題解決の役に立たない。ひやっしーを動かしてCO2が吸収できたとして,吸収したCO2の処理方法がどこにも示されていないので,そこで終わりである。むしろひやっしーを製造するのに余計なCO2を排出するわけで,何もしない方が環境負荷にとってはマシだといえる。

 記事全体を通して,既存の権威に否定されても頑張る若者,というイメージ作りをしたいようだが,実際には,技術として役立ちそうなものが何もないから否定的なコメントがなされただけである。

 効率良くCO2を酸素と炭素に分ける化学的な方法というのは今のところ存在しない。だからみんな困っている。人間が少しぐらい工夫しても生物には勝てず,今のところスピルリナに吸わせて還元するのが有力な方法である。だから,化学的に分けるうまい方法がもし見つかれば新発見である。そうである以上,

しかし、化学の世界は未だ解明されていないような世紀の大発見をすることが王道であり、僕の研究はあまり理解してもらえませんでした。

https://www.recruit.co.jp/blog/guesttalk/20200803_445.html

と書いている,その「王道」の中にしか,CO2を酸素に変える技術は存在しないのである。しかし村木氏は,絶対必要な技術にたどり着くための「王道」を避けまくっているくせに,どうでもいい宣伝は熱心にしているようである。

 ということで,意味のないひやっしーを宣伝する暇があったら,さっさと化学の王道に戻ってCO2を酸素に変える効率のいい方法を探してもらいたい。

 なお,村木氏のツイート

は正確ではなく,有識者として呼ばれたわけではないという指摘があった。

 タスクフォースであっても,消費者被害を出しかねない製品を宣伝している以上,村木氏に何らかの社会的影響力を与えるのは良い結果にはならない。
 本人は物理も数学も軽視しているし,物理についてまともな知識を持っていることがまるで期待できない高卒の素人をタスクフォースに入れること自体,文科省の異常さが際立っていると言える。
 また,普通は専門外の領域でこの手の会議に呼ばれたら,専門外を理由に断るのが専門家として誠実な態度であり,誘われて乗っかっている時点で村木氏が何の専門家でもないのは明らかである。

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