フラナガンの水素サプリ「メガハイドレート」は買うべきでも売るべきでもない

発端

 先日から阪大のケイ素利用水素サプリの測定をしていた。その流れで,比較のために,Dr.パトリック・フラナガンが開発したと称する「MEGA HYDRATE」からの水素発生を調べた。

実験

 36℃で,pH 8.3, pH 7.4, pH 6.6の溶液(pH 8.3はホウ酸緩衝液,pH 7.4とpH6.6はリン酸緩衝液)の中に,カプセルMEGA HYDRATEを2カプセル入れて,水上置換により気体の発生量を測定した。カプセル投入後から数時間の間は1時間おきに気体の発生量を記録し,気体の発生が完全に止まった後,発生した気体の体積も記録した。

結果

 反応が止まった後の気体の体積は次の通り。
pH 8.3    188 mL
pH 7.4     327 mL(1回目),176 mL(2回目)
pH 6.6    184 mL
 発生した気体の組成については,測定手段が無いため確認できていない。水素計での測定で数値が上がるので,水素が出ていることは確かだが,何%の水素なのかは未確認である。

問題点

説明と組成の食い違い

 このサプリメントは,輸入販売しているのではなく,輸入代行と称して,米国の宣伝内容を日本語に訳して日本人に紹介されている。触れ込みとしては,「サンゴ」「ケイ素」といった記載がある。しかし,組成を見ると,

Potassium 288mg
Sodium 56mg
Magnesium 2mg
Potassium Citrate Monohydrate, Sodium, Boron, Ascorbic Acid, Citric Acid, Oleic Acid, Silica, Vegetable Capsule (Hydroxypropylmethylcellulose)

瓶の成分表示より

となっており,サンゴの主成分のはずのカルシウムが見当たらないし,ケイ素は何mg入っているのかさえ記載されていないその他の材料に過ぎない。見た目も白色の粉末で(ケイ素は灰色),溶けた後もケイ素らしきものは見当たらない。気体は発生するものの,成分表示を見ただけでは,気体の発生源が何であるかが全くわからないのである。このため,水素が混じった気体であることまではわかっても,水素が何%なのかについては何とも言えないのだ。

溶液のpHの問題

 たまたま,粉末のものも使うことができたので,それぞれ,ビーカーに入れて溶かしてどうなるかを観察した。pHの変化を知りたかったので緩衝液ではなく蒸留水を用いた。

カプセルと粉末を比較してみたら……

 どちらも見た目は白い粉だったが,カプセルを蒸留水に入れた場合は,カプセルに穴があいて粉が溶け始めると2時間近くにわたって気泡が発生した。ビーカーの液面のところが白い泡で覆われているのが,気泡発生によるものである。気泡の発生がとまった後,ビーカーには,白いもやっとしたものが少し溶け残っていた。pHを測定したら10.1であった。一方,粉末の方は蒸留水に入れると気泡の発生は全くなく,濁った水ができ,もやっとしたものも多く沈殿し,pHは9.1であった。
 pH 10.1というのは,それほど強いアルカリではないが,塩基性はそこそこ強いし,濃度によっては危険である。つまり,カプセルのものが口の中で溶けたり,喉や食道にひっかかって破れたら,局所的に高濃度になって粘膜に炎症を起こす可能性がある。これまで事故が起きていないとしたら,胃酸で中和されてきたからだろうが,では胃酸をむやみに中和して良いのかという問題はある。
 粉末の方は,カプセルのものよりもpHが低い。おそらく,製造側に「わかってる」人がいて,口の中に直接高濃度の溶液が触れても安全なように組成を変えた結果,pHがカプセルのものより低くなり,気体が全く発生しないものになったのだろう。カプセルと粉末が同じものだというのはたぶん嘘である。
 水素が目的なら粉末は意味がないし,カプセルは危険物ということになる。

品質管理の問題

 pH 7.4だけ2回測定したのは,1回目の気体発生量が妙に多かったからである。2回目の発生量であれば,他のpHのときの発生量と比べて不自然ではない。
 捕集実験だし,カプセルごと投入しているので,気体発生開始のタイミングは正確に制御できないが,発生が始まった後のものを取りこぼすことはない。また,捕集実験に失敗した場合(どこかで漏れたとか),捕集量が減ることはあっても増えることはない。
 こう考えると,pH 7.4の1回目の気体発生量は異常である。考えられることとしては,カプセルに詰める前の粉末の組成にむらがある,つまり十分混じっていないものがカプセル詰めされ,たまたま気体発生の材料の多いものを引いてしまったということだろう。pH 10の液体が残ることとあわせて考えると,予期しない高濃度のものが混じっているのはやはり危険である。
 開発元のphiscienceのサイトhttps://www.phisciences.com/を見ると,ピラミッドパワーと一緒にこのサプリが薦められている。もはやオカルトの範疇であり,成分表示から製造過程におけるまで,信用する要素が何一つ見当たらない。

FDAの警告

 元々米国発のサプリメントだが,向こうでは野放しかというとそんなことはなくて,フラナガンのサプリに対してはFDAが警告を出している。孫引きになるが,https://quackwatch.org/cases/fdawarning/prod/fda-warning-letters-about-products-2019/phi/ にその警告の内容が出されている。
 内容を一言でいうと,薬でもないのに薬効を謳うな,という,日本の薬機法の規制とほぼ同じ理由での警告である。
 日本の輸入代行業者は,FDAの警告が出ているサプリメントだということを隠して,日本人に紹介している。

結論

 そんなわけで,フラナガンのメガハイドレートは売るべきでも買うべきでもない。自己責任で勝手に米国から買うことを止めるすべはないが,わざわざFDAの警告や危険情報を隠して宣伝を日本語に訳して個人輸入を促すのは無責任だしやめてもらいたい。
 輸入仲介が楽天のショップやアマゾンなので,「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」の通報窓口からすでに通報した。行政が動いてくれることを期待したい。

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