販促資料が怪しすぎる:超磁場活水器「コスモス」

発端

 ウェブサイトのメール送信フォームからメールが来た。居住するマンションに磁気活水器の売り込みがあって,理事会の年配の人達は大体信じて買おうとしていて,怪しいと思うけど騙されてしまいそう,という内容だった。そこで,どういう宣伝で何が売り込まれているのかまずは知りたいと伝えて販促資料一式をスキャンして送ってもらった。読んでみたら,科学としても変な内容だったが,それ以前に怪しいところが多すぎた。この販促資料は他でも使われていると思われるので,同様の方法で騙される人が出ないように,販促資料の実物を掲載して何がおかしいかを指摘しておく。

販促資料を読んでみる

表紙

 販促資料の表紙はこんな具合である。「実績」がJR東日本関連建物,特許の番号が,特許第3992583号である。

販促資料表紙

 この特許番号で検索すると,「水の活性化方法よび活性化装置」という特許公報が出てくる。特許権者は持麾正氏。この方は,平成17年12月26日に株式会社エッチーアルディ(磁気活水器を売ってる)の宣伝に排除命令が出た時,株式会社エッチーアルディで社長をやってた人である。持麾氏はこれ以外にも磁気活水器関連の特許をいくつか持っている。
 有限会社野火止製作所は販売を行っていて,製造元は株式会社ヤングトラストである。

この宣伝,排除命令で見たやつだ!

 販促資料の2ページ目下の方の囲み部分の宣伝内容は,かつて,エッチアールディが排除命令を受けた時の表示とほとんど同じであった。

販促資料2ページ

 公正取引委員会の排除命令の概要を引用すると「当該商品に水道水を通過させることによって得られる水は,風呂場のかびの発生やバスタブ内の湯あかの発生を抑え,トイレの水あかを付きにくくし,トイレの臭いを解消し,洗濯時に衣類の汚れが落ちやすくふっくらと仕上げ,洗剤の使用量を削減し,台所のシンク周りのぬめりを抑え,食器のしつこい油汚れを落ちやすくするかのように表示」。この表示について,当時のエッチアールディは合理的な根拠を提出できなかったため,排除命令に至ったものである。この販促資料の表示と大変似通っている。そして,この内容の根拠になる記述はこの販促資料にも見当たらなかった(ここ重要)。
 エッチアールディでこういった表示がダメになったので,多少内容を変えた特許を使って別会社が別の名前の商品を作り,排除命令を知った上で根拠のない宣伝を繰り返しているということになる。

データの切り取りその1

 販促資料の中に,どこかから切り取ってきたトイレ臭気への効果のグラフがあった。

販促資料に貼り込まれたグラフ

 コスモスを設置した方が臭気濃度が低いということをいいたいのだろうが,なぜか設置49日後からのデータしかない。元々臭気濃度が低いところにコスモスを設置してこうなったのか,元々の臭気が同程度だったのが減ったのかが全くわからないため,コスモスの効果で臭気濃度が低くなったという結論は導けない。設置前の臭気濃度がどう変わったかという,ごく普通の時系列の変化をあらわすグラフを作るとなにかまずいことでもあるのだろうか。

データの切り取りその2

  次は,コスモスを通過させた水を飲むと酸化ストレスが減るという話。こちらでもデータの切り取りテクニックが使われている。

販促資料4ページ

 患者を10人ずつに分けたとあるが,試験前の8-OHdG値がどうであったかがわからないので,コスモス水に意味があると言えない比較表になっている。この表からいえることは,飲んでいる水がコスモス水であってもなくても8-OHdG値が少し増えることはある,ということだけである。
 なお,8-OHdGは,喫煙者で高めに出る傾向がある上,男性の方が女性よりも高い。10人の選び方次第では,最初から値に差が出てくるかもしれない(普通はそうならないように被験者をグループ分けするものだが)。医師の監督のもと病院で治験しているのに,初期値を測定していないというのはあり得ない。なぜ初期値を隠すのだろうか。しかも,正確な情報を知ろうとしても問い合わせできないように,医師の名前が隠されてしまっている。

JR設置のデータは捏造あるいは不正

 さて,販促資料の表紙でも強調されている,JR東日本への設置について。設置したという写真とともに,効果検証のデータが掲載されていた。

販促資料

 設置してから水の色度,濁度,鉄分がどう変わったかというのを1,3,6ヶ月で調べた結果だというのだが,表の下に分析証明書が張り付けてある。で,なぜか依頼者のところが黒塗りでマスクされているのだが,左側の証明書のマスクがずれて,「依頼者 株式会社エッチーアルディ」が丸見えである。業者側の編集ミスと思われる。
 コスモスを設置した検査結果なのだから,検査の依頼者は有限会社野火止製作所か株式会社ヤングトラストであるべきところ,なぜか無関係の株式会社エッチアールディが登場。資料を拡大すればわかるが,証明書の数値と,表に書かれた数値は一致している。
 つまり野火止製作所あるいはヤングトラストは,他社が依頼した測定結果をそのままパクって,自社の活水器の効果と称して販促資料に掲載し,売り込み先に持ってきたことになる。つまりこの表に書かれた結果は捏造である。
 磁気活水器の効果を主張するのであれば,装置の型番が違う場合は装置ごとに測定して結果を確認しなければならない。似ているが他社の,どういう設置状況で測定に至ったかもわからない,そもそも活水器を設置した後の分析かどうかすら不明の分析証明書をそのまま持ってくるというのは不正行為そのものである。
 仮に,どちらかがどちらかのOEMで実は全く同じ商品だ,というのであれば,完全な捏造とまではいえないがやはり不正行為であると同時に,エッチアールディに排除命令が出た宣伝内容を追加の検証なしに使っているのだから,会社名と商品名を変えて排除命令逃れをしていることが確定する。違法な宣伝であると知った上で消費者保護の仕組みが及びにくいマンション理事会などを狙い撃ちで繰り返していることになるので,悪質性はより高いということになる。
 表の方もひどいもので,鉄分の結果の単位は「mg/l」でなければならないのに「度」になっている。まともな科学の知識のある人がチェックしていないらしい。

写真による印象操作

 配管への影響と称して,コスモスを設置し時間が経ってから上流側と下流側を比較している。

販促資料

 コスモスの上流側は,業者にとって錆びているほうが都合が良いので,錆びやすい継ぎ手のネジの部分を写真にとって掲載。コスモスの下流側は錆びていてほしくないので,管をわざわざノコギリで切った断面の写真を掲載。比較にも根拠にもなってない

そもそもグリストラップは定期的に清掃する

 販促資料には,グリストラップにコスモスを設置して5ヶ月後に配水管がきれいになった,という写真も掲載されていた。
 飲食店,スーパー,コンビニなど調理を伴う施設のグリストラップは,頻度の高い飲食店で1ヶ月に1回,コンビニでも年3回は清掃することになっている。5ヶ月清掃せずに放置する施設は無いと思われるので,排水管がきれいになった理由が,定期清掃の効果なのか,コスモスの効果なのか,全く区別できないことになる。

実験条件の全く違うものを証拠だと言い張る

  磁気の影響で赤錆が黒錆に変わるという根拠となる研究については,黒田正和,張欣,山上利一「赤錆(ヘマタイト)のマグネタイトへの変換における磁気の効果」環境技術36(1), (207)61-71が根拠とされている。
 使われている実験装置は,5Lの貯水槽を用意し,水が一周して戻ってくる管を設置し,ポンプで2m/sの流速で水を流し続けるというものである。管の内径から断面積がおよそ5cm2なので,1秒で1Lの水が移動する。流路の途中にコスモスを設置したり,錆の出た水道の試験用の管を設置したりできるようになっている。実際の錆の粉を水中に分散させたり,試薬のヘマタイトやマグネタイトを水中に分散させたりして,循環させ続けた時にどうなるかを観察している。なお,ポンプの温度が上がるため,3週間ほどで水温が39℃に達し,以後はそのままとなっている。
 流速を考えると,1分もすれば大半の錆粉末は磁石設置部分を複数回通過することになる。この条件で,温度が上がりつつある状態で,錆の粉が繰り返し磁石部分を通過すると,45日経ったら黒錆に変わってきた,というのが実験結果である。
 一方,上水にコスモスを設置した場合,仮に錆の粉が流れてきたとしても,磁場の影響を受けるのは1回だけで,真夏であっても水温が39℃に達することはまずない。条件が違い過ぎるため,この論文を理由として,コスモスに効果があるとはいえないのである。むしろ,この変化の速度の遅さを考えると,コスモスを設置しても赤錆を黒錆に変える効果はみられないということの裏付けになる論文といえる。
 ところで,コスモスの特許第3992583号を見ると,水槽をパイプで連結し,途中にコスモスを設置し,ポンプで水を流す,という,ワンパスの実験で,酸化還元電位が275mV→223mV,pHが7.2→7.8になったと主張している。論文ではこの変化は,それぞれ,20日以上と3日程度かかって起きている。これだけ値が異なると,論文で起きていることと特許は全く別と考えるしかない。この意味でも,論文は特許の内容の裏付けにはなり得ない。

電流測定の説明はやや専門的になる

 株式会社ヤングトラストが出してきた資料では,磁場中を水が通過するときに発生する電流を測定したという実験が写真付きで出ている。

株式会社ヤングトラストの資料
株式会社ヤングトラストの資料

 水道水中に溶けていて,電解質になっているミネラルが,磁気の影響を受けて電子をキャッチする,と考えているらしい。
 まず,陽イオンが電離するときには必ず対になる陰イオンが存在する。水の中の陰イオンと陽イオンが流速と直角方向の磁場中を通過すると,お互い逆向きの力を受けるので,水の流れの中で偏りができる。
 このとき,電気回路を構成するものがたまたま存在すれば,その電極表面でイオンと電極材料の間で電子の移動が生じ,移動した電子は回路中をずっと動いていくため電流が流れることが起こりうる。電流測定をしている状況がこちらにあたる。
 電気回路を構成するものが何もなければ,つまり電流測定のための電極などが無く,水が流れている部分が特許の通り電気を通さない塩ビ管であれば(こちらが通常のコスモスの使用状況),電子移動は起きず,磁場通過中はイオンの分布が偏るが,磁場部分を抜けてしまうと流れながら拡散して元に戻ってしまう。
 水の中の電荷の移動はイオンが担っており,よほど極端な条件でない限り,水中を電子が移動することはない。金属は電子伝導体だが水溶液はイオン伝導体なのである。
 また,例としてあげられているNa+やCa2+が電子を受け取ったら,金属ナトリウムや金属カルシウムができることになる。が,金属ナトリウムや金属カルシウムはとても水に溶けやすく,水酸化物を作る。運良く電子を受け取ってもすぐまた元のイオンに逆戻りするだけである。
 資料の説明は,中学から高校の化学を中途半端に理解した状態で書かれたものといえる。残念なことに,電気分解や電池のところで高校の化学がわからなくなったという人は割と多いので,売り込みを受ける側の知識も似たようなものになってしまい,なかなか正確に間違いを指摘するのは難しい内容ではある。 

比較すべきでないものを比較

 トイレにコスモスを設置し,1年9ヶ月後に,設置側と未設置側の汚水配管を比較したという写真が示されていた。

株式会社ヤングトラストの資料

 コスモスの効果で尿石が減ったというためには,コスモスの有無以外の条件を合わせなければならない。排水の流れる量や使用頻度といったものもおよそ合っていなければならない。ところがこの写真は,左右で配管の太さも異なり,見た目の色も異なっている。こうなると,水の流れ方も違うだろうし,そもそも同じ場所に取りつけられた配管ですらない。一方に尿石が多くもう一方に少なくても,コスモス以外に影響する要素がありすぎて,とてもコスモスの効果で尿石が減ったとはいえないのである。そもそも設置前の配管の状況がわからないため,1年9ヶ月後の写真を見せられても比較対象が無いから判断できない。

比較すべきでないものを比較その2

 株式会社ヤングトラストは,磁力活水器を東京駅に設置したとし,水道水,他社製活水器,コスモスの3種類について,1年9ヶ月後に比較したと主張している。その結果が次の写真である。

株式会社ヤングトラストの資料(写真1)

 この検証を根拠にコスモスを作ったのだというのだから,最重要な実験結果のはずである。そのわりには,比較対象となった管の材料も作り方もサイズもばらばらで,見た目の色も全く異なり,そもそも比較できないものを比較しているようである。

株式会社ヤングトラストの資料(写真2)

 この2枚の資料にはおかしなところがたくさんある。写真1を普通に見ると,異なった排水管3箇所で,何もしない水,他社製活水器を通過した水,コスモスの水が流れる状況にして1年9ヶ月後に管を外して比較したと読める。普通,比較する場合は条件を揃えるので,水を流した期間は同じにするはずである。また,途中で活水器を交換するということは,観察の条件を途中で変えることに他ならない。これでは,変化が起きるためにその履歴が必要であるという可能性が除去できないので,最初から,水道水,他社製,コスモスの3つについてほぼ同じ条件で排水を流して一定期間後に比較するべきである。
 写真2の右側一番下の管のフランジと,写真1の一番左の管のフランジは,汚れのパターンが一致しているので同じ管である。説明をそのまま受け取るなら,いずれも水道水を流し続けて1年9ヶ月後の状況ということになる。そうすると,写真1の管はどれも比較のための観察を開始してから1年9ヶ月後のものだと考えるのが自然である。
 ところが,写真1の真ん中のフランジの汚れ具合と,写真2左側真ん中のフランジの汚れ具合が一致している。この手の汚れは,管を取りつけた後の状況で変わってくるので,同じパターンで汚れているものは同じ管を同じ時期に撮影したと考えるしかない。従ってこの2枚の写真は,写真の角度が少し違うだけで,同じ管を見ていることがわかる。写真2では,他社製活水器を設置9ヶ月後に外して観察したと書いてある。
 さらに,左側の管をよく見ると,管とフランジの溶接部分の構造が,上,真ん中,下で違っている上,管の肉厚も異なっている。また,真ん中のフランジは赤色,下のフランジは青色である。フランジ部分には水は流れないから,いくら磁気活水器をつけたり外したりしてもフランジの色が大きく変わることはない。つまりこの写真は,最初は他社製活水器をつけておき,途中からコスモスに交換して,管の同じ場所を定点観測したものとはいえず,全く別の管の写真を並べたものであると考えるしかない
 むしろ,最初はきれいで他社製活水器だと尿石が堆積するがコスモスに交換するとときれいになる,というストーリーに合わせて,いろんなところで外した異なった管の写真を並べたものであると考えるしかない。そうなると,観察開始時にそれぞれの管がどういう汚れ具合であったかという情報が全て抜け落ちていることになるので,何ヶ月後の写真を示されても何の意味もなく,効果があるという証拠にならないのである
 写真2の記述の通り(赤色管が他社製浄水器設置1年1ヶ月後,青色管がコスモス設置後8ヶ月後)だとすると,写真1は,設置後の期間が違うものを比較しており,そもそも比較になっていないし,比較すべきでもない。写真1の説明の通りで,どれも実験を開始してから1年9ヶ月後だとすると,赤色管の写真は1年9ヶ月後のものを9ヶ月後のものとして流用していることになる。まあ,これは,フランジの色がまるで違う別の管の写真を持ってきていることに比べれば小さな違いに過ぎないが。

販促資料が全く信用ならない

 丁寧に販促資料を見ていくと,排除命令を受けた表示をほぼそのまま使い続けていたり,必要なデータの一部だけを切り取って見せる手法が使われていたり,写真が印象操作だったり,コスモスの効果以外のものが混じっていたり,コスモスの設置の有無以外の条件を合わせないと比較してもコスモスの効果の証拠にならないのにまったくやっていなかったり,違う管の写真を並べて同じ場所で比較したと誤認させる作りになっていたりというものだった。こんな資料を出してくる企業を信用するわけにはいかない。
 このツッコミを書いたことで,企業側は,より巧妙な写真やデータの操作を始めるかもしれない。次に出される資料がまともに見えるものになっていたとしても,捏造の技術が上がったのではないかという疑いが払拭できない以上,信用するわけにはいかない。
 そもそも,エッチアールディの表示が排除命令に至ったのは,表示の根拠になる十分な証拠を出せなかったからだろう。にもかかわらず,同種の商品を宣伝するにあたって,証拠になりえないようなずさんな観察を続けているのでは,今後も改善の見込みはないと考えるしかない。

磁気活水器に未来はほぼ無い

 磁気活水器と称する、水の流路に磁石を配置して水を変えると称する装置が日本で出回ってから30年は経っている。旧ソ連でやっていた頃から考えるなら、もっと歴史は古い。この間、いろんな業者が思いつきで磁石の配置を換えては水処理を試みて消えて行った。特許も多数あるが、どれも決定打にはなっていない。
 磁気による水処理に本当に効果があるなら、これだけいろんな業者が手を替え品を替え作ったのだから、偶然でも割と良い構造のものにヒットしてしかるべきだし、うまくいった構造を手がかりにし、より環境を選ばず効果が出る磁石の配置の構造が探求され、どうすれば効果が上がるかが体系化され、技術として洗練されたものになっていくはずである。
 しかし、実際は、何十年経ってもそういった技術が蓄積されることはなく、磁石の配置や構造に何の進歩もみられない。他社の排除命令を見てデータの扱いを精密にするとか、実験条件をブラッシュアップするという姿勢も皆無である。JISにしろとまでは言わないが,業界標準でこれこれの試験方法でこれだけの結果が出れば品質基準を満たしている,といった指標すら全く存在しない。
 30年以上かけてあの手この手で試しても、その技術も知識も蓄積されず、開発にフィードバックもされず、効果の出方が怪しいまま、というのは、技術としてまともでないし、そもそも期待している現象が実は起きていないからだと考えた方が良い。一方,通常の科学や技術の世界では,解決までに数十年を要する問題も多数あるが,問題解決までに知識の蓄積が継続的に行われていくことで,最終的に解決に至る。
 唯一、論文にもあるように、循環系で繰り返し錆の粉やスケールの結晶が磁場を通過する場合にのみ(室温より高い水温、も必要な条件かもしれない)、ゆっくりではあるが磁気活水器の有無による違いが生じている。この効果は確からしいが、何に応用すると良いかはまだはっきりしない。使おうとしても変化が遅すぎる。
 一方、循環があっても磁場で電解質水溶液がほぼ影響を受けない、というのは、病院のMRI検査による健康被害が皆無であることを考えると、世界中で繰り返し確認されているといえる。
 今必要なのは、磁気活水器について、30年も試行錯誤を繰り返したのに何の技術も知識も蓄積できなかったという事実に向き合うことではないだろうか。磁気活水器はほぼ終わった技術と考えるべきだろう。もしかしたら,幻だけ見ていて始まってすらいなかったのかもしれないが。

追記:2004年の報文

 「材料と環境」という腐食防食学会の学会誌がある。これの,53巻(2004),pp280-283に,「磁気処理など水処理器にご注意を!」(水処理・淡水腐食小委員会)というニュースが掲載された。同じタイトルのフォーラムを前年度に行った報告とのことである。
 水の磁気処理でスケールを抑制するという話は米国でも問題となり,理論と実験両面の検証の結果,効果がないということが明らかになったのが1950年代のことである。
 磁気による水処理に効果があるのであれば,産業用の水処理装置を作っている会社が手出しをしないわけがなく,有意な違いが認められた装置を詳しく調べたのだけど,どれも磁気以外の効果で説明できるということで決着した。磁気処理装置本体からの亜鉛の溶出や,一緒に設置したフィルターの効果,溶存酸素の影響といったものが効果の原因としてわかったとある。この文献の最後の部分を引用する。

 磁気処理などの市販水処理器は「万病J に効果のある,メンテナンスフリーな理想の水処理法をうたい文句に出現したが,その評価が定まらないまま今日に至っている.その主な原因として,(1 ) 水処理器の作用機構が既存科学技術の知識で理解できないこと,(2) メーカが主張する効果の確認が得られにくいことなどがあげられる。また,「霊感」や営業的な判断が優先され,水クラスターやマイナスイオンなどその時々に流行した術語を乱用して説明していることも科学的議論を困難にしている。開発に至った基礎的データや磁力と効果の関係を示す定量的なデータも公表されていない。

材料と環境 53(2004)280-283

 これが2004年の指摘である。

磁気処理器を現場で使用する立場からすれば,作用機構が必ずしも明確でなくても効果について定量的な関係が得られれば,適用の可否について判断することができる。NACE では磁気処理器を評価する際に留意すべき試験条件を明らかにし厳密に同一条件で試験することを提案している11)。しかし評価事例でも紹介したように,磁気処理と称して実際には金属を溶出させるものやろ過器などの併設により見かけ上の効果を示すものもあり,得られた評価も単純ではない。 効果の確認とともにその作用原理も考察しながら判断すべきであろう。

材料と環境 53(2004)280-283

 一応,米国での磁気処理装置評価の試験条件としては,NACE 7K189が1997年に出されている。2004年の材料と環境で広く存在が紹介されたことになるので,これをたたき台にして磁気以外の効果を除外する形での試験条件を日本向けに作ることもできたはずである。が,磁気活水器業者がそういった標準的な試験条件を採用したという話がちっとも出てこない。コスモスに至っては,2023年だというのに,試験をしたとすらいえない結果を販促資料に掲載している。この販促資料が技術資料として全く役に立たないということがわからないのであれば,そんな企業にNACEの試験方法の日本版を整備するのは到底無理だし,まともな試験方法にたどり着くこともないだろう。
 今回,相談者の方の話だと,コスモスを紹介してくれた人が別にいて,これから大々的に売りたいと考えているということだった。20年経っても試験方法に何の進歩もない状態で作られる装置に一体何を期待しているのか。まともな試験方法が無いということは,作った製品の性能保証も品質保証もできないということである。消費者を騙す目的以外でどういう経営判断でこんなものをすすめるという結論になったのか知りたいところである。

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