言葉からヒントがもらえる、処方箋のような小説。
春を感じる夕日が好き。あたたかいオレンジ色に照らされた街は、なんだかとても特別感があります。
ただ最近は雪がちらつく日もあったほど、3月下旬とは思えない気温と雨マークが続いているので、早く暖かくなってほしい...!
今回は、最近読んだ、瀬尾まいこさんの『夜明けのすべて』を紹介します。漠然とした生きづらさを感じながら、出口のない暗闇でもがく主人公に、共感ポイントがたくさんありました。
藤沢さんは、人に悪く思われるのが嫌で、穏やかに過ごせればそれで満足という、繊細な心の持ち主。
「月経前症候群(PMS)」を抱えている藤沢さん。生理前になると精神的に不安定になったり、頭痛やめまいが起きたり。時には周りが手を付けられないほど、衝動的な怒りが治まらなくなってしまうこともあります。
大学生までは何とかやり過ごせましたが、社会に出るとそう上手くはいきません。PMSの症状が原因で、新卒で就職した会社を2カ月で退職。PMSであることを正直に打ち明けたうえで、今の栗田金属に勤めています。
もうひとりの主人公、山添君。仕事も楽しく人間関係も良好。上司にも恵まれて忙しくも充実した日々を送っていましたが、ある日突然過呼吸で病院へ搬送。「パニック障害」と診断されました。
外へ出ることすらままならず、前の仕事を退職。薬を服用して症状を抑えながら、藤沢さんと同じ栗田金属に勤めています。社員とコミュニケーションをほとんどとらず、やる気もない山添君は、「楽」な職場で居心地が良ければいいと思っています。
きっと誰もが、もしかしたら一生背負っていくような、障害や困難を抱えていて。自分だけの中にとどめておけるなら自己犠牲で済むけど、多くの場合、周りの人を巻き込んでがっかりさせてしまうことがあるから、本当につらいんですよね...。
ともすればすごく重くなりそうなテーマですが、時に登場人物の会話にほっこりします。それほど瀬尾まいこさんの表現力がすごいということですね。
ここからは、私がこの小説を読んで印象に残ったトピックを2つ紹介します。
・「ひそかに願ってくれる人」の存在
周りと関わることを極力避けていた山添君。ある日、家のポストに送り主の分からないお守りが届いていました。
このことをきっかけに、次第に山添君は、「完璧な孤独などこの世には存在しない」と周りに心を開き始めます。
前職の上司、藤沢さん、栗田金属の社長や社員。山添君が気付いていないところでも、病気のことを理解しようとしてくれていました。
「ひそかに願ってくれる人」がいるだけで、「どうせ分かってもらえない」「なんでこんな思いをしなきゃいけないの」とか、抱えてきた感情がふっと救われることがあるはず。
たとえば、見返りを求めないお節介のようなもの。もちろん完璧に他人を理解することはできないけど、気にかけてくれる人がいることって、実は大きな心の支えになりますよね。自分も誰かにとって、そんな太陽のような存在であれたらいいな。
・「すごくよかった。」ただそれだけの感想を伝えたくなる人
ある日、1人で映画を見た藤沢さん。「すごくよかった。」ただそれだけの感想を、今すぐ誰かに言いたいと感じます。
藤沢さんが、「映画を見る予定がなくて、ついでに何を言っても何をしても平気な相手がいるではないか。」と思い、夜22時に突撃したのは山添君でした。
藤沢さんは、友達でも恋人でもないから、山添君を選んだのかもしれないけれど。「これを言ったらどう思われるだろう」と、顔色を伺わず言える相手って、そんなに多くはないはず。
映画の感想とか、今日あった嬉しいことを誰かに聞いてほしいとき。「この人なら失望せずに、私の話を受け入れてくれる。」そう思える人がいるだけで、前に進んでいける気がします。
仕事はただ時間を潰すためのもの、と感じていた2人。自分の病気と向き合いながら、できる範囲の中で自分の好きなことや得意なことを見つけ、仕事にやりがいを見つけていきます。
仕事はお金のためにやるもので、ただ淡々とこなすだけ。20代の方は特にに、「本当にこのままでいいの...?」とモヤモヤしている人は多いはず。そんな人にもぐっと刺さる物語だと思います。
生きづらさを抱えながら働くのは本当に難しくて、「藤沢さんや山添くんみたいに、周りの人が全員いい人なんてありえない」と思いたくもなるけど...。それでも、また明日頑張ってみようと思える考え方とか、温かい気持ちになれる登場人物のセリフは素直に受け取りたいなあと。
物語の中の登場人物の行動や言葉に、希望を見つけること。それが、「夜明けのすべて」のあらすじにある、「生きるのが少し楽になる」にもつながるのかもしれないな。
いつものおいしいご飯も、心を救ってくれます。
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