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#ネタバレ 映画「生きる LIVING」

「生きる LIVING」
「期限がないと物事は進まない」(死は生のためにある)
2024.2.9

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

映画「生きる LIVING」がTV放送されていたので、録画して30分間ぐらい観ました。主役を演じたウィリアムズ(ビル・ナイさん)の演技がお上手です。

公園を作ることの、陳情の「たらい回し」のエピソードも出て来ました。

まだ全体を観ていませんのでいけませんが、住民の要望をたらい回しにするだけでなく、同じ役所内の、係間の文書も、相手の係から受け取ってもらえず、差し戻されるエピソードがありました。そして、(受け取らない事で責任のボールは相手側にある⁉としてか)議論する事もなく保留にされる。このような事はあの役所では日常茶飯事のようです。

ふと思いましたが、(お互いに仕事を増やしたくないという気持ちが無いとは言いませんが)昔だから事務分掌やマニュアルが整備されていないのではないでしょうか。そして、混沌としているのに一介の職員が断行しようとすることは、権限もないのに新たな法律を作るようなものだと、彼らは思っているのかもしれません。

現在の役所では、係ごとの仕事の分担が事務分掌として明文化されており、マニュアルにも書いてあります。新しい問題が起こったら、会議をする事もありますし、マニュアルの改正になる事もあるでしょう。しかし、昔の事もあって、あの役所ではまだ整理されていないのかもしれない。役所内でもそうだから、役所外からの稀有な要望がすんなり通ることはさらに困難なのでしょう。良し悪しは別として。

そして、最後まで観たら感想が違って来るかもしれませんが、現時点での、この映画「生きる LIVING」の主題は「タイムリミット」のような気がしています。「期限がないと物事は進まない」とでも言いましょうか。

追記 2024.2.9 ( アイルランドとイギリス )

ウィリアムズは、アイルランド人に設定されているようです。がんを告知されて苦悩の中、見知らぬ酒場で、酒に酔ってアイルランドの歌を歌いました。アイルランドの歌はもう一度出て来て、黒澤映画「生きる」でも有名な、雪のブランコの夜のシーンです。

そして、ウィリアムズが勤めているのは、ポスターにもあるように、ビッグベンのあるイギリス中心部の役所のよう。

アイルランドとイギリスの歴史的な問題を私は良く知りませんが、1950年代のあの当時、ウィリアムズはとりわけ息をひそめて役所生活をしていたのではないのかと思いました。

だとすると、その役所内で我を張ることは、ある意味、意を決した抵抗運動を連想させる事だったのかもと。ならば、公園は単なる公園ではなく、ある意味、領土的な記号だったのでしょうか。ならば、警官が入ってこれなかったのは、治外法権の記号の可能性があります。

そしてこれが、カズオ・イシグロ氏の脚本ならば、イギリスで暮らす東洋人の自分を投影していたのかもと思いました。

追記Ⅱ 2024.2.10 ( 近所のバス停にいたウィリアムズのそっくりさん )

学生の頃は市バスで通っていました。待ち時間には、苦痛ではなく、朝日を浴びる幸福感がありました。それが、穴ぐらの地下鉄とは違うところ。

その行列の中に、ひときわ目立つ、キチンとした身なりの中年紳士がいたのです。仮に彼をAさんとします。Aさんは、いつも茶系統のスーツと帽子をかぶっていました。待ち時間には新聞を読んだいたかもしれない。静かで知的な雰囲気をまとっていました。

今思えば、映画「生きる LIVING」のウィリアムズに、お顔もふくめてイメージが似ていました。

私の父は職人でしたから、スーツに無縁でしたので、異世界をみるようなAさんに対して、なんと言うか、無意識に近い、かすかな敬意のような気持をもちました。

ところが、やがて私も就職する事になり、入った会社の同じ係にAさんがいたのです。机を並べて同じ仕事をする事に。しかし、同僚が全部Aさんのようではありませんでした。第一帽子をかぶっていません。やはりAさんはお洒落でした。

彼は課長ではなくヒラだったせいもあってか、同僚にはいつも柔和なスマイルを見せており、バス停の印象通りの、とてもおとなしい紳士でした。ちょうどウィリアムズが、退職した部下の女性と歓談する時のような雰囲気です。

Aさんとはよく一緒に帰りました。バス停の話をしたか、記憶は定かではありませんが、数年後、仕事にも慣れて、歳の離れた先輩とも雑談ができるようになった頃に、「そう言えば昔・・・」と、一言ぐらいは話したかもしれません。でも、「あっ、そう」ぐらいで、あまり大げさな反応も無かったようです。あまり記憶がありませんから。(Aさんには「そんな昔から観察されていたのか」という)照れもあったのかもしれません。

Aさんは職場では模範的な人でした。やがて、定年退職し、悠々自適の老後を楽しまれたようです。当時は、今の1.5倍ぐらいの退職金がもらえたはずですし。

追記Ⅲ 2024.2.11 ( ふと徴税吏員の苦悩を連想する )

>同じ役所内の、係間の文書も、相手の係から受け取ってもらえず、差し戻されるエピソードがありました。そして、(受け取らない事で責任のボールは相手側にある⁉としてか)議論する事もなく保留にされる。(本文より)

もし、これを連想させることが現在の日本の役所にあるとしたら、それは徴税吏員が催告した滞納者から、「納付できない」と言われ、差し押さえ財産もみつけられずに、立ち往生する場合でしょうか。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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