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ダーク・ファンタジーの傑作アニメーション

オオカミの家』(2018 年/チリ/スペイン語・ドイツ語/74分/)監督・撮影・アニメーション:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ


むかしむかし、あるところにマリアという美しい娘と、二匹の子ブタがいました――。
実在のコミューン【コロニア・ディグニダ】にインスパイアされた
“ホラー・フェアリーテイル” アニメーション

クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャの二人組による初の長編映画『オオカミの家』は、ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン【コロニア・ディグニダ】にインスパイアされた “ホラー・フェアリーテイル” アニメーション。チリ南部のある施設から逃走し、森の中の一軒家で二匹の子ブタと出会った娘マリアの身に起きる悪夢のような出来事を描いている。

レオン&コシーニャが監督のほかに脚本、美術、撮影、アニメーションなどを務めた。撮影場所は、チリ国立美術館やサンティアゴ現代美術館のほか、オランダ、ドイツ、メキシコ、アルゼンチンにある10カ所以上の美術館やギャラリー。実寸大の部屋のセットを組み、ミニチュアではない等身大の人形や絵画をミックスして制作、制作過程や制作途中の映像をエキシビションの一環として観客に公開するという手法で映画を完成させた。企画段階を含めると完成までに5年の歳月を費やしており、ワールドプレミアとなった第68回ベルリン国際映画祭ではカリガリ映画賞を、第42回アヌシー国際アニメーション映画祭では審査員賞を受賞するなど世界各国で数々の賞を受賞している。

全編カメラが止まることなく、最後までワンシーン・ワンカットで空間が変容し続ける“異形”のストップモーション・アニメーション。その特異な才能の素晴らしさは、『ミッドサマー』で知られるアリ・アスターが一晩に何度も鑑賞し、自ら二人にコンタクトをとったというエピソードからも伝わるだろう。彼らと意気投合したアスターは、今回同時上映となる短編『骨』の製作総指揮に名乗りを上げ、さらに自身の最新作『Beau is Afraid』内の12分にも及ぶというアニメ・パートも彼らに依頼した。ほかにも、トム・ヨークの新バンド The Smile の2022年リリースのシングル「Thin Thing」のミュージックビデオを監督したことも話題に。
シュヴァンクマイエルやクエイ兄弟の系譜を継ぎ、デヴィッド・リンチを彷彿とさせるシュールで独特な世界観をもつ本作は、IGN の「歴代アニメーション映画ベスト10」や、Variety の「観るべき10人のアニメーター」に選出されるなど、驚きをもって世界に迎えられた。

「コロニア・ディグニダ」を告発するとかそういう意図はないと思う。世界はこんなもんだみたいなダーク・ファンタジーで『ミッドサマー』の監督が何回も観たというのも頷ける。ストップモーションアニメでこの手のダーク・ファンタジーはなかったし、日本ではまず作られないであろう。最近この手のダーク・ファンタジーがブームのようだが何か理由でもあるのかな。ホラーは不安な世界だからという理由がありそうだが、ダーク・ファンタジーもホラーの延長でいいのだろうか?

でも考えてみればストップモーションアニメであるからこそこの手の映像表現が出来たのかもしれない。通常のアニメだとそれらしい告発物になってしまうかもしれない。

「コロニア・ディグニダ」をもっと知りたいのならNetflixのドキュメンタリーが良く出来ていると思う。その前に観た『コロニアの子供たち』もミステリー・ドラマとして見れば良かったのかもしれない。

【同時上映】『骨』

2023 年、美術館建設に伴う調査で、ある映像が発掘された。それは、少女が人間の死体を使って謎の儀式を行っているもので……。1901 年に制作された、作者不明の世界初のストップモーション・アニメ(という設定)。

設定ということだから純粋なるフィクションなんだ。ただマヤ文明のような死靈の復活劇のようなアニメ。この作品を見るとレオン&コシーニャ監督たちがやりたいことが少しはわかる気がした。

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