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2 Innocent Cruelty

 私の通った幼稚園はお寺だった。
 今では「町」になり(その後「市」になって)公立の幼稚園ができているが、当時はお寺の本堂が園舎だった。ひょっとすると今とは幼稚園の制度が違ったのかもしれない。
 本堂なので、当然真ん中にはド-ンとご本尊だった。私たちは、その仏様に見守られながら、お絵描きをしたりお昼寝をしたりしていた。お遊戯をするとき、ピンと延ばしたY先生の指の反りがとてもきれいで、私は密かにそれを真似できないものかと心を砕いていた。M先生の紙芝居は抑揚の効いた語りが子供心を捉えていて、「鬼六」のクライマックスでは、みんなが一斉に名前を叫んだ。外には古タイヤがたくさんあって、私たちはそれをいかに早く転がすかを競っていた。ダンプカーのタイヤを転がせれば一人前だった。
 その日、私たちは外でままごとをしていた。私は、タイヤの中に草や葉っぱの野菜を入れて売り歩く行商人だった。「こんにちは、今日は何にしますか?」「キャベツとにんじんをちょうだい」みたいな感じだ。何軒もの家を廻り、私は当時密かに憎からず思っていたTちゃんの家に辿り着いた。                           「こんにちは!今日は何にしますか?」               「そうねぇ…、今日はイイワ!」                             ガ~ン! なんという無邪気な残酷さ。
 たぶんそれが、女性の気まぐれな怖さに初めて触れた瞬間だった。


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