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大阪 on my mind

 手元に「枚岡夜景(瓢箪山)」と題された日本画がある。第1次大阪百景の一枚として、渡辺鶴子という方が大正時代に描かれたもののようだ。すすき野の向こうに遠い街明かりが見える。調べてみると、瓢箪山は近鉄奈良線の生駒山の手前なので、東の方から西に大阪の街を望んでいる絵だということが分かる。今はもうこうしたすすき野はとっくに姿を消しているのだろうが、金箔で表現された街の灯に惹かれて、毎年秋になると和室に飾っている。
 年明けから読み始めた「大阪の生活史」をようやく読み終えた。東京とも沖縄とも一味違う地域性もありながら、時代を越えて脈々と受け継がれてきた生活のエネルギーのようなものを感じた。商売をしてきた方が多く、壮絶な生い立ちの方もいらしたけれど、それでも暗くならず、前向きというか肩肘を張らない自然体なところが大阪らしさというものだろうか。
 社会人駆け出しの頃、仕事で3カ月大阪にいたことがある。京都や奈良は修学旅行等で行ったことがあったが、大阪はそれまであまり馴染みがなかった。関西は大阪・京都・奈良・神戸が隣接しながら、それぞれ独自の個性を有しているところが面白い。期間が限られていたこともあって、私は休みの度に大阪の街を彷徨った。
 丁度扇町ミュージアムスクエアが出来た頃で、上映会では手塚眞さんが自らフィルムを廻しておられた。中之島の古いビルにある骨董店には大きなディスクオルゴールがあって、よそ者の心を慰めてくれた。初めて新世界を訪れた時、何故か、将来食い詰めることがあったらここに来ようと思った。きっと、どんな人をも匿ってくれるような包容力をあの通りに感じたのだ。
 浅薄な経験に基づく個人的な嗜好だけれど、大阪に行ったときに時間があれば向かうお店が2つある。堂島のサンボアと新世界のてんぐだ。サンボアのジントニックは(ジンがたっぷり入っているのですぐ酔ってしまうのだが)私のジントニックのルーツだし、てんぐのどて焼きより美味しいどて焼きを(そもそも他で食べていないのだが)私は食べたことがない。尤も、知らない土地は地元の人に案内してもらうに限る。以前友人が連れて行ってくれた天満の飲食街は、迷路のようで楽しかったなあ。高くて美味しいのは当たり前、安くて美味しいものを探すのが醍醐味、そんな心意気が大阪の人にはある。鶴橋での待合わせに早く着いた時、駅前の立ち飲み屋で飲んでいたら酔っぱらってしまって約束をキャンセルしたこともあった。あの時、店のお兄さんの呟き予想に乗ったけれど、結局あの馬券は外れたんだったな…。
 コロナもあってしばらく大阪に行けていない。書いていたら、何だかすごく行きたくなってきた。
 

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