10 青春の影
車は第三京浜を走っていた
季節は6月
梅雨入り前の湿った雲が低く広がる午後
その頃、僕は仕事が難しいことになっていて
一人で車を運転しているときが
唯一いろいろなプレッシャーから解放される時間だった
何気なくFMのスイッチを入れたとき
流れてきたのはチューリップの「青春の影」だった
ビートルズの「ロングアンドワインディングロード」を
彷彿とさせるその曲は、自分が中学の時のヒット曲だった
毎晩ラジオの電波に耳を傾け、ギターを抱えて
友達と笑い転げていた頃が走馬灯のように頭の中をよぎっていく
窓の外を高速で流れていく景色とゆったりとした曲のテンポが
心地いいハーモニーとなって車内に満ちていく
ふと気付くと、僕は歌っていた
誰にも気兼ねすることなく、昔のように、大きな声で
歌詞はすらすらと出てきた
携帯が鳴っていたがかまわなかった
この時がいつまでも続いてほしいと願った
しかし、当然のようにやがて曲は終り
第三京浜は環八に合流して
僕は現実の中に戻っていった
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