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(詩)少女へ

少女へ
生き急ぐきみへ

その席に座っていた
ひとりの少女が
じっと花を見つめていたことや
時々ひとりで笑っていたことを
誰も知らなくても

痛々しいほど腰の曲がった
老婆が歩く姿や
駅前の階段に座り込んだ
浮浪者の姿をどんなにか
かなしそうな目で見ていたことに
誰も気付いていなかったとしても

花の中に少女のほほえみは残る
老婆や男の心の片すみに
少女の涙の粒は住みついて

少女の声や夢は
小さなかけらに姿を変え
それは種となり土に眠り
やがて春がまた訪れて

去年の今頃
その席にひとりの少女が
座っていたことや
少女の顔や口癖など
誰もみな忘れ去り、時は流れ

そして誰にも知られないまま
少女が静かに
その席を立ち去っていった後

人々はその席に誰かいたような気もし
けれど風か何かが吹いていただけ
だったのかも知れないと思いながら

幾千の人々の中の
ほんの何人かだけが
少女の見ていた花に気付き

ふと目をやると
何だか花が自分に向かって
ほほえみかけているような気がして

思わず立ち止まり
あたりを見回してみる
幾千の人のいる人波の中に

なんだかふいに
どこかにだれかが隠れていて
ちゃんといつも
自分のことを見守っていてくれる

そんな気がする


だからぼくたちはね
永遠に生き続けてゆくんだよ

だからぼくたちは
ひとつなんだよ

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