少年と犬
少年とその犬は
仲良しだった
少年の吹く口笛は
世界中で一番きれいだと
犬は思っていた
少年はある日交通事故で
この世界からいなくなり
犬は悲しさのあまり
ワンワン鳴いて
わんわん泣いた
そんな或る日の朝
犬はふと
風の方角に口笛を感じ
その方角に目をやると
そこに
少年が立っていた
犬は喜びの余り
ワンワンほえて
家族を呼んだ
けれど家族の目に
少年の姿は見えなかった
家族の耳に
少年の口笛は聴こえなかった
そこにはただ
うれしそうに
風の方角を見つめる
いっぴきの犬の姿が
あるだけだった
少年とその犬は
仲良しだった
口笛のする方角に目をやると
そこにはいつも
風が吹いている
少年の風が吹いている
その時
ゆっくりとやさしく
犬の目を見つめてごらん
そこに
少年の顔が映っている
犬の耳に
耳を当ててごらん
遠い口笛が
聴こえて来るから
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