クリスマスツリー

都会のかたすみ
さびしくひとり
ひざをかかえ
くもった窓ガラスの
小さなすきまから

降りだした白い雪が見えた
家の灯りに反射して
なんだかものしずかな
クリスマスツリーの
またたきのように見えた

昔少女がギター爪弾き
唄ってくれたしずかな
クリスマスソングを思い出す
いときよらかに
そして
貧しい家のぼくを
励まそうとしてくれた
その少女のやさしさが満ちあふれ

クリスマスケーキ
おかしのいっぱいつまった
サンタクロースの長靴
煙突といったら
お風呂屋さんの煙突しか
思い浮かばなかった
だから真剣にクリスマスイブは
お風呂屋さんで
待っていようと思った

少女の住む家は
毎年豪華なクリスマスで
クリスマスツリーに飾られた
色とりどりの豆電球の点滅が
その家の前を通るたび
窓ガラスにうつってきれいだった

いつまでもなんだかずっと
誰かを待っていられそうな
そんなうつくしさだった
もう二度と来ない誰かを
クリスマスケーキのろうそくが
みんな
燃え尽きてしまった後でも

はじめてギターを
少女に習って弾いた
たそがれの日

この指はね
こうするのよ、と
何のためらいもなく
ぼくの指に触れてきた少女の
その無心さがこわかった
ぼくは何度もその指を
つかまえてしまおうとしたのに


今夜はクリスマスイブ
ひとりぼっちと
そうでない人との差が
一番はっきりわかる夜

いつも
ケーキのすきな寂しがり屋が
今日に限って
ケーキ屋さんには行けない日

やがて降りだした雪は
積もりもせずにぴたりと止んで
それから空に星がまたたいて
今度は銀河が
クリスマスツリーの豆電球のように
明滅しています

その星のまたたきを
ギターの音色に変えて
あの少女の胸に届けよう

また少女が
うたを思い出すように
ほんとうはこの世界が
そんなにきよらかなだけでもないと
知ったきみが
それでもまたやさしい
しずかなクリスマスソングを
だれかのために
唄ってくれるように

都会のかたすみ
さびしくひとり
ひざをかかえ
今夜は、クリスマスイブ

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